第38話 変革

エレナ達が高層ビルで救出作戦を展開してる頃…



愛知県 名古屋市 中区



今まで築き上げてきた文化も文明も…



磨かれた英知も都市の繁栄も…



全てが無と化した世界



街を支配していた人間の姿と入れ替わり今では何千、何万もの感染者、ゾンビに埋め尽くされる街…



そんな腐敗と死臭漂う大都市に…



突如 数台のエンジン音が聞こえてきた。



黒ずんだ排煙を吐き出す改良され強化された警察の大型護送車が2台 、同じく強化パーツを施された大型バスが2台、装甲車らしき車両の計5台の車だ



その車両群が行く手を遮るゾンビや感染者をためらいなく轢き殺しながら走行している。



装甲車に乗る男が備えられた無線機を手に取り交信を図った。



橘「こちら殲滅隊よりコマンドポスト(戦闘指揮所)へ現在、国道19号から68号に入った ポイントまでおよそ2キロ あと4分程で到着する」



コマンドポスト「ザァ 了解 3班、17班もまもなく到着する これで全50班が所定配置に着く 尚 西区、港区、昭和区、中村区、名東区の各地区の班全ては配置完了 既に作戦を実行中だ 情報によると各班より特殊なランナー(感染者)数体が発見されたとの報告を受けてる おまえらの班も十分注意しろ ザザ」



橘「了解」



運転手「また噂の変異ランナーですか? 厄介ですね」



橘「あぁ…」



80キロ以上ものスピードで、当たり前にひき殺されていくゾンビ達



その度にガタガタと車体が揺れ、フロントガラスには血が飛び散る。



そしてウォッシャー液が噴射されワイパーが動かされる。



先頭を走る大型護送車から無線が入ってきた。



「ザッ 隊長 中区役所が見えてきました そろそろポイントに着きます ザッ」



橘「了解 各車両いつもの様な配置に着けろ ターゲットは第1優先でランナー 弾は無尽蔵に無いからなぁ 各個スコープで確認して一発必中で決めろ」



4車線の大通りを大型護送車が大回りで旋回するや道のド真ん中で横に停車させた。



それから2台の大型バスが護送車の前と後ろに隙間無くピタリと付け停車



装甲車が大型バスの間に入り



もう1台の護送車が旋回しながら大型バスの後方へ横付け、隙間無く停車した。



車両群は装甲車を取り囲む様に□型に配置されると、護送車や大型バスの天井が開かれ、武装した男達が続々と車の屋根へ上がっていく



迷彩服を身に纏った屈強な男達…



こいつらはZACTのゾンビ殲滅部隊



第50班は陸自の自衛官のみで編成された言わば生粋の戦闘プロ集団だ



大型バス、護送車の天井から続々と男達が屋根に上がり、アサルトライフル、スナイパーライフル、ショットガンなどを身構えた。



装甲車から橘と3人の男達が出ると大量の弾薬が詰まった黒のバッグが運び出され、屋根に乗る男達へと迅速に配られた。



ありとあらゆる方面からエンジン音を聞きつけた奴等が現れ、群がろうとしている…



やはり大都市…



目がくらむ程の大量なアンデッドの軍勢だ



各車両の屋根に30名程の男達が戦闘態勢に入った。



パンパンに詰められたマガジンやスナイパー用の予備弾薬、ショットガンの弾が次々バッグから取られ、装填されて行く…



ガシャ カチャ ガシッ




1人の隊員が二脚の付いたPSGスナイパーライフルのスコープを覗くと猛烈に向かってくる1体の感染者に狙いを定めた。



そして、感染者の額にレティクルが合わされ、同時に引き金が引かれた。



タァーン



銃音と共に感染者の額が撃ち抜かれ、地に伏せた。



この初撃を皮きりに狼煙をあげた隊員等が四方八方に銃撃を行った。



映画の様な無駄撃ちはしない、備え付けられたスコープで各自目標頭部を慎重かつ正確に狙い、1発で確実に仕留めていく



また10体以上の塊には、手榴弾を投擲しあくまで効率良く、そして手際良く奴等を一掃していた。



発砲や爆発音を奏でる度に何処からともなく湧き出るウジ虫のような軍勢に一斉に投げ込まれた手榴弾が連爆



ドカァー ドカァーン ドカァー



感染者やゾンビが何体も同時に吹き飛んだ



橘が大型バスに上がり双眼鏡で周囲を見渡す



爆発による煙りで視界が悪い中、何かを探していた…



タタタタ  タタタタタタタタ



「おい 下だ」



銃撃をかいくぐり、車のボディーに貼りついた感染者が這い上がろうとしていた。



ガシャン



イサカショットガンがポンプアクションされ、真下へ垂直に銃口が向けられるや



ドォーン



たちまち頭部が粉々にされ、脳みそや肉片が飛び散った。



そんな激しい銃撃戦が繰り広げられる中



15分程の掃討で辺り一面、既に数百体にも及ぶ感染者やゾンビの死骸で溢れ返るのだが奴等は絶え間なく次から次へと押し寄せて来る。



次々と空のマガジンが抜かれ、新しいマガジンが差し込まれると、パンパンに詰まれた弾薬が半分以上まで減っていた。



それを眼にした白髪混じりの40代半ばの男、南雲が耳をつんざく様な銃音の中大声を発した。



南雲「おい もう半分無くなったぞ おまえ 次の弾持ってこい!」



「了解」



指示を受けた隊員が敬礼するやすぐさま装甲車へ弾薬を取りに行こうとした時



南雲にふと考えが頭を過ぎった



そして



南雲「おい ちょっと待て…それとあれだ 装甲車に確か積んであったな… スティンガーがあっただろ!あれも一緒に持ってこい それと今から言う物も一緒にだ」



タタタタタタタタ タタタタタタタタタタタタタタタタ



けたたましい銃音が鳴り響く中、肩耳を押さえ南雲の指示に耳を傾ける隊員



南雲「よく聞け 軟式ボール、あと距離測定器、信管に受信チップ、発火装置と送信装置… それと240グラムのC4だ… 覚えたられたか?」



「陸曹 プラスチック爆弾もですか? あれは…半径60メートル以上ないと… 市街地で使用するのはちと危ないのでは…」



南雲「大丈夫だ 人なんていないんだし 危なく無い距離まで遠くへ飛ばせばいい」



「ですが…」



南雲「まだまだウヨウヨ湧いて来るぞ 面倒臭ぇから一気に片付ける」



「橘隊長の許可は?」 



南雲「おい おまえ上官の命令が聞けないのか?いいからさっさと持って来い おい!そこのおまえ おまえも一緒に手伝ってこい」



「はい」



2人の男が敬礼するや下へ降りて行った。



南雲が再度射撃へ転ずるや隣の隊員から

 


「南雲陸曹 まずいですね… 4時の方向見て下さい また例の奴が現れました」



南雲「何?」



南雲がスコープを覗き込み、4時の方向へ向けると50メートル先にフラフラ蛇行しながら自転車にまたがる感染者を発見した。



「自転車に乗ってます…」



南雲「感染者が普通自転車なんか乗らないだろ 間違いないな 奴だ!」



南雲は立ち上がると双眼鏡を覗き込み何やら探る橘を呼んだ。



南雲「橘隊長 橘隊長 奴です 奴を発見しました」



大声を出すが銃音で掻き消され、声は届いてない…



南雲「この事を隊長に伝えてこい」



「了解」



南雲が隣の隊員に伝令の指示を出した。



隊員は駆け足で屋根伝いに移動、橘へと耳うちするなり、橘を連れて戻って来た。



橘「どこだ?」



南雲が橘の耳元で口にし指差しながらを



南雲「4時の方角です」



ゾンビの死体は既に何千体にも達している…



車両の約15メートル先、綺麗に円を描く様に折り重なる死体の壁が築き上げられている



そこから30メートル程先にレンズを向けると、こちらに向かって自転車をこぐ感染者を発見した。



自転車のカゴには乳児らしき首が3つ詰め込まれている…



橘が銃音に負けぬ程の大声を張り上げ



橘「変異的なランナーに間違い! 早急に仕留めろ 皆 特に注意するのは迷彩服を着た米兵、自衛隊などの変異感染者だ いいな」



鳴り止まぬ銃声と今だ溢れ出るアンデッド軍…



むしろ以前より数が増え続けている。



東京に次ぐ大都市大阪では、2日間撃ち続けた日もあった…



それでも全滅させる事が出来ず、弾を使い果たして一時撤退を余儀なくされた事もあった…



大都市のゾンビ戦を何度も経験積みのZACT



長期戦を見越し、ゾンビの死体の壁を積み上げればそれがかなりの足止めになる



車に貼りつかれぬよう弾薬を節約し、敵を効率良く倒しながら長期戦に臨む隊員達



正確に奴等を倒し続けていく



そんなザクトが今一番恐れているのは…



大阪の難波では部隊が連続的に全滅する事態があった。



変異の感染者が手榴弾を握り締めながら、数体の束となって車両に貼り付き自爆攻撃を行ってきた事



まるで変異な感染者同士意志の疎通を図り、手榴弾の使い方を理解し、一緒にやろうと言わんばかりの一丸のチームプレー… 



ZACTは、特にこの変異感染者と呼ばれる変種に警戒していた。



南雲「俺がやろう 貸せ」



南雲がスナイパーライフルに持ち替えスコープを覗くと自転車に乗る感染者をズームアップ、十字線をを合わせた。



そして、すぐさま引き金が引かれた。



タン



薬莢が跳び地面へ落下すると共に感染者の顔が撃ち抜かれ、後ろへ反り返った。



そして自転車だけが無人で走り続け、倒れた。



南雲「ふぅ~」



スコープから眼を離した南雲は一安心な表情で再度アサルトライフルに持ち替えた。



そして、弾薬を取りに行った2名の隊員等が戻ってきた。



しばし交代で休む隊員に「すまんがちょっと運ぶの手伝ってくれ」



何やら重そうな物が運ばれてきた



数人の隊員達によって持ち上げられた物



弾薬の予備バッグと共にスティンガーミサイルが入った大きな木箱だ



FIMー92スティンガーミサイル



携帯式の防空ミサイルシステムだ



対戦闘ヘリ用に開発された通称毒針



コンピューターが内臓され赤外線でロックすると目標を自動追尾する優れた携帯ミサイルである



威力も的への正確さも手榴弾など比でものにならない…



南雲はアサルトライフルを置き、そのスティンガーを担ぐや液晶画面を起動させた。



ウィィィィ



起動音が鳴り液晶画面に英字が羅列される



南雲がタッチパネルでコードを入力、するとスティンガーが動き始め赤外線の放射ライトがオン、続いて照準器も作動しはじめた。



また小型のキーボードに何やら数字を入力するやスティンガーから赤外線が放出された。



南雲「一掃する 一旦撃ち方止めろ」



「撃ち方止め 撃ち方止めさせろ」



1車両の周りの隊員等がそれぞれ発砲を止めさせる



スティンガーから伸びた赤外線が群れるゾンビ共の中心に投射されロックされた。



南雲「木っ端微塵になれ!」



南雲が肩に担ぐスティンガーからミサイル発射



後煙を吐き出し、長細いミサイルが射出口から飛び出した。



超スピードで煙りの線を残し目標へ飛翔していく



ドカァァァァー



そして閃光を放ち、爆発を起こした。



爆風と炎、衝撃波が周囲の奴等を包んだ。



皆、しゃがみ込み爆風と衝撃波を回避している。



小さなキノコ雲の様な煙りが立ち込めると、地面に2~3メートル程のクレーターが出来上がった。



地中に埋まる排水管でも破裂したのか? クレーターから噴水が沸き上がり



着弾周辺のアンデッド達が一掃されていた。



100~200体前後



密集する奴等を一撃で吹き飛ばした



南雲「よし 次はC4だ!」



「陸曹 威力はケタ違いです 危険過ぎます ヘタしたらこの車両ごと巻き込まれてしまいます…」



南雲は隊員に注意を受けるが無視、作業を行っている。



南雲「この中で野球経験者いるか?」



「はい 自分大学までやってました」



南雲「肩は強いか?」



「は はい まぁそこそこ…」



南雲「よし おまえ遠投で何メートルくらい飛ばせる?」



「え! 90メートルくらいは飛ばせるかと」



南雲「よし なら100メートル飛ばせ」



「陸曹 こんな勝手な真似で部隊を危険に晒すおつもりですか?」



南雲「戦闘にも変革が必要なんだよ 手持ちの武器を駆使して何が悪い… いいから黙って見ていろ」



「…」



すると南雲は、粘土のようなプラスチック爆弾をナイフで切り取る



数百グラム程切り取られた粘土で軟式ボールを包み込み、そのボールに信管を突き刺した。



それから信管に発火装置らしき物を取り付け、受信用のチップをはめ込んでいった。



南雲はボールを隊員に投げ渡すと



南雲「いけ フルパワーでそいつを遠くに投げろ おまえの肩の見せどころだぞ」



「あ… はい」



一瞬数が減ったに思えたがまだまだ数を増し、押し寄せてくる感染者、ゾンビ達



隊員が助走の距離をとり、投球フォームに入った。



奴等にプラスチック爆弾が投入される…



隊員は助走するには狭過ぎる屋根の後ろへめいいっぱいに下がりボールを力強く握った。



「いきます」



南雲「いけ」



そして一息つくや数歩程助走、腰をくねり、天空に投げつける様に空高く、ボールを遥か遠くへと投げ飛ばした。



その間 南雲が双眼鏡型の距離測定器で距離の測定に入った。



グングン飛距離が伸び



デジタル式の数字が伸びていく



60…80…90…100…



ボールは信号機の真上を通過、大穴を越え、何十体ものアンデッドの頭上をも越えると一度地面に着地、バウンドして更にアンデッドの頭上を通過すると2回程バウンドして転がった。



ゾンビの足に当たり着地された軟式ボール



南雲はすぐに測定器の飛距離を確認した。



南雲「113メートル飛んだぞ 強肩だな よくやった おまえ等!今度は各車両に撃ち方止めて身を伏せる様言ってくるんだ おまえ等も身を伏せて備えろ」



各車両の隊員等へ伝令され、次々と発砲が鳴り止んでいった。



そして4車両全てから発砲が止み、急激にしずけさが訪れる中



橘も身を屈めながら口にする。



橘「あいつ… 何をする気だ…?」



伝令した者が戻り、身を屈めや…



南雲も身を屈めながら発火の送信機を手にした。



南雲「人間はまだまだおまえらなんかに屈しない これが俺達人の力だ! 朽ちろ!」



そして発火ボタンが押された。



するとボールに付いた受信チップが点滅、信号が受信される。



その瞬間



強烈なまばゆい発光が照らされ、共に凄まじい大爆発を起こした。



ドカアアアァァァァァァアアア



国道沿いの周囲に建ち並ぶビルのガラスは全て割れ、爆炎は感染者、ゾンビ等を一瞬にして呑み込んだ



丸焦げになり、続いて発生した爆風と衝撃波で消し飛ばされていく骸



爆風により大型バスの車体が少し持ち上がり、護送車の後輪は、かなりの勢いで持ち上がって揺すられている



スティンガーなどまるで比べものにならない威力



地球をえぐり取る程の深々な大穴が開き、至る箇所から排水が吹き出している。



1000体程いた感染者、ゾンビを一瞬にして灰にした。



橘「おい南雲 無茶するんじゃねえ」



立ち上がる南雲が「はは やっぱり前から思った通りだよ やるならこっちのやり方のほうが殲滅させるには効率がいいと思わないか?… 隊長 残りの方面もこの方法で一掃しましょう」



こうしてZACTの更なるゾンビ殲滅戦が激化し東京を目指して行く…


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