第33話 迎撃

エレナとハサウェイがリフレッシュルームから出てくると水浸しの廊下をピチャピチャと音をたて歩きだした。



移動をはじめた矢先



音を聞きつけたのか…?



それとも肉の臭いを嗅ぎつけたのか…?



出るや否や廊下の両サイドから突如現した感染者とゾンビの姿、2人の目に飛び込んできた。



奴等に挟まれる…



エレナが激鉄を押しながら左右へ視線を送るとハサウェイへ



エレナ「ここは私がやる 耳でも塞いでて」



ハサウェイも両サイへ目を配りながら耳を塞いだ



右方 距離およそ20メートル 感染者が7体、ゾンビが1体…



左方 同様に約20メートル 感染者3体にゾンビが5体



計16体か…



ちょっと多い…



エレナは瞬時に観察、距離や種類、数を弾きだし銃を構えるとまずは右方に向け身構えた。



両サイドに立ちはだかる死者達は2人の存在に目を輝かせ、瞳を膨張させ口を開けた。



そして走り出す感染者、ゆっくりと2人に身体を向けノロノロ歩行で向かって来るゾンビ



エレナは右方先頭に立つ感染者2体に向け発砲した。



パァン パーン



銃弾が頭部を貫き、まるで大袈裟なスリップで転んだ感染者



続いて隣りの感染者頭部も貫かれ、血液が壁に飛び散ると感染者は膝を落とし、上体が崩れ落ちた。



次いでエレナは素早く左方に身体を反転させ身構えるや感染者の頭部をロック、同様に引き金をひいた。



パーン パン



エレナの腕、肩が発砲する度衝撃で揺れる…



眉間にクリーンヒットされた感染者は、のけぞり壁にもたれながら静かに倒れ込んだ。



この囲まれた状況



先制攻撃でいかに数を減らすか



脅威指数の高い感染者を奇襲でいかに撃ち落とせるかが勝負



エレナは行動力、歩行能力共に低いゾンビは一旦無視して、まずは感染者のみを狙い照準を定めていた。



常人ならこの囲まれた状況に焦りを覚えるだろう



だが エレナは冷静に判断し、的確に対応していた。



もう感は取り戻した…



射撃の腕なら自信がある…



パーン パァン



リズミカルに身体を反転させ、左右交互に撃ち落としていく



左方…感染者残り2体…残すはノロマだけ…



リボルバーの薬室が回転し、銃本体へ弾丸が装填される音が鳴ると、発砲音が鳴り響いた。



パーン 



そして、間髪入れずに2発目も弾かれる。



パァン パン パン



右目に風穴を空け勢いよく倒れる感染者、鼻筋に被弾して正座しながら崩れ落ちる感染者



エレナは手早く拳銃の薬室を開くと空の薬莢を地面に落とす



それと同時に素早いテンポで5発の弾丸が詰め込まれ、右方へ拳銃が向けられた。



右方 感染者残り5体…あとノロマが1体だけ



エレナは照準を定めるとためらいなく発砲した。



パァン パンパン パァン



立て続けに乾いた銃音が鳴るとヘッドショットを受けた5体の感染者がぐらつき、そのまま倒れ込む



そしてその背後からうめき声をあげノソノソと向かってくるゾンビにエレナは近づきゾンビの眼球に銃口を据え…



パァン



発砲した。



右方のゾンビ等を鮮やかに殲滅し道が開けると指を差しながらハサウェイへ口にした。



エレナ「やっつけた こっちから逃げられる」



そして2人は廊下を右側へと走り出した。



ハサウェイが後ろを振り返ると、左方で置き去りにされた哀れなゾンビ達がうめき声をあげている…



エレナが小走りで弾丸を詰め込みながら左角を曲がった時だ



ガラス扉にへばりつく無数の感染者やゾンビ達を目にした。



ガラス越しに蠢く奴等の視線を受ける中、ハサウェイはある1体の感染者と目を合わせ、瞳を膨らませた。



じっと立ち尽くし、通り過ぎる2人を目で追ってきた感染者…



ハサウェイの動悸が激しさを増した。



あいつ… ノーマルと違う…



いる…



あのタイプの奴だ…



この群れの中に奴がいる…



そして長い廊下をガラス壁一面に張り付く奴等…



反対側の窓や壁にも奴等は張りついている…



内側から叩く音、叫び声、奇声があげられている



どれも生きた人間の助けの声なのでは無い、餌を見つけて興奮する声だ



おびただしい数の感染者達がオフィス内に閉じ込められていた…



2人が群れの間を通り過ぎると、それを目にしたゾンビ達は目で追いかけ、更に興奮状態に陥ったのか激しくガラス窓を叩き始めた。



マズい…



強化ガラスと思われるがあんなガラス窓奴等のパワーですぐに破られる…



2人は危険を感じた。



ハサウェイ「破られるぞ 急ごう」



そして先にあるEVを目指し、2人は廊下を猛ダッシュで走り抜ける。



当然通常の窓ガラスよりは分厚く強化されたガラスだがやはり無数の興奮状態の感染者達、叩く度ガラスにヒビが入り始めた。



ハサウェイが走りながら振り向くや、ヒビ割れが広がりはじめた。



EV前に到着した2人、エレナがボタンを押すと一階で待機するEVが動き始めた。



横目だったがザッと50~80はいるだろう…



ハサウェイはドンドンと激しくガラス窓を叩く音を聞きながらEVのボタンを連打した。




ハサウェイ「はやく来い」



破られたら一斉に襲いかかってくる…



あの中に進化した奴も紛れている…



そう思い更なる緊張感が増したハサウェイは焦りの表情を浮かべる。



ドンドン ドンドン ドンドンドン



エレベーターは、現在11階を通過



ガラス窓に数十箇所にも及ぶ円形状のヒビが急速に広がり、破片がこぼれ落ちた。



破られる…



次の瞬間ガラス窓が細かな破片と化し、窓が破られた。



エレナ「破られた…」



「うぎゃああああああ」



「うぅううううう~」



廊下に雪崩れ込んできた奴等



エレナ「また私が撃ち落とします。」



ハサウェイ「気をつけて!あの中に新型がいる… ベータが来たらすぐに逃げるよ」



エレナ「え?嘘?」



現在EV23階通過中



次々と感染者が廊下へ飛び出し2人へ襲いかかってきた。



「悪玉だまコレステロール値が高くて検査にひっひひひ」



「営業部の滝本さん素敵素敵、とくに声が好き好き過ぎて昨日ご自宅忍び込んで盗聴器しかけちゃったテへ ついでに掃除なんかもチャチャっとやっちゃった~ アハ アハアハアハ」



弓を持たないハサウェイは、エレナに頼る他ない…



迫り来る感染者をただ後ろから見ている事しか出来なかった。



エレナは前に立ち、まるで射撃訓練所の的撃ちがごとく次々と直線上に迫る感染者を仕留めていく



パァンパンパン パンパン パン パンパーン パンパンパーン



早く来い…



頭を撃ち抜かれた感染者が伏し、崩れ落ちる



そしてエレベーターが30階を通過した辺りで



ハサウェイは猛ダッシュで迫る感染者達の中、ゆっくり歩いて近づいててくる感染者を捉えた。



ハサウェイ「エレナさん 左側の奥を歩いてる感染者を見ろ 奴だ 奴は新型だ」



エレナ「え?え?」



パーン パンパン



エレナは撃ち落としながら歩いて近付いて来る感染者を確認し、頷いた。



エレナ「見えた! あいつね… 分かった撃ち落とす」



弾を素早く詰め込み、ただ一体平然と歩く感染者へ銃口を定めたその時



歩行する感染者が突然目の前で撃ち抜かれ倒れた感染者の襟首を掴むや、素早く骸を持ち上げた。



発砲された銃弾は、骸にガードされ阻まれた。



ハサウェイ「??」 



エレナ「え!?」



2人は目を疑った。



そしてチーン  到着のベルが鳴りエレベーターが到着、扉が開いた。



パンパン パンパンパン



すかさずハサウェイが乗り込み、エレナも発砲しながら後退りで乗り込んだ。



ハサウェイが開閉ボタンを連打、扉が閉まり始めた。



2人は閉まりゆく扉の隙間から感染者等を見ると歩行する者が突如ガードに使用した骸をこちらへと投げつけてきた。



バァン



完全に閉まると同時にダイレクトに骸が扉へとぶつかり大きな音をたてた。



エレベーター内



最上階が押され上昇していくさなか



信じられない光景に2人は動揺した。



エレナ「ねえ 見た?あいつ死体を盾代わりにしたよね…しかも…それを投げたよね…あれって反則だよね…」



ハサウェイ「あぁ どうなってんだ… マズいな…非常にマズい雰囲気になってきたな とりあえず最上階に行って対策を考えよう」

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