第19話 銃撃

何故だろう…



不思議…



全く怖く無い…



あれだけ怖かったあいつらを前に驚く程冷静な私がいる…



エレナに一切の震えも畏怖の念も消え失せていた。



恐怖よりも… ただ… 今強く思う事は…



この人の命は絶対渡さない…



来なさい! 可哀相な操り人形達



私が相手だ…



ポケットの至る箇所に詰められた弾丸



ニューナンブには既に弾が装填済みだ



一体今まで何処に隠れていたのか…?



推定100体以上を超える…食人鬼の集団



先頭を並走する6体の感染者にエレナは拳銃を身構えた。



半身に構え…重心はやや前のめり…



後ろ足は反動に備え…撃鉄のロックを解除



標的を捕捉し…



ショット



パァン



銃口から超高速回転した弾丸が放たれ、感染者の額に着弾した。



またパァン 2発目も放たれすぐ横の感染者へヒット



エレナの手首が大きく反動で上がる。



前方無作為な方位から次々と迫り来る感染者達



エレナは瞬時に標的を捕らえ対角線に銃口を向けるや発砲に転じた。



パアン パァン  パン パアーン!



轟音が射撃場に鳴り響く



その後 ヘッドショットされた感染者達が一体また一体と床へ倒れ沈黙していく



先頭を走る6体を次々撃ち落とすが、その屍を飛び越え、踏みつけながら後から後から奴等はやって来る…



本当に今まで何処に潜んでいたのだろうか…?



大量のランナーがエレナ目掛け血眼になって襲いかかってくる…



装填数5発



エレナは5つの薬室から空の薬莢を落とした。



5つの煙りを上げた薬莢が地面に落ちると同時に目にも止まらぬスピードで弾丸を補充



そして発砲した。



パン パァン パン パアーン パン!



乾いた銃音が鳴る度に感染者が床に崩れて行く…



ハサウェイはいまだはっきりとしない意識の中眼前に映る光景に驚倒した。



なんだこれ… 夢か…?



いや 夢じゃない…



パァン パン パン パアン パーン



エレナは1発も外す事無く全ての額に命中させているのだ…



ハサウェイが地下鉄でしたのと同様、およそ10メートル範囲内から完璧に感染者を寄せ付けていなかった…



ハサウェイはエレナの横顔を見上げた。



薬莢を抜き、弾薬を詰め込み、構え、発砲



この神懸かりな4動作を早業で繰り返している。



大量に迫り来る奴等のプレッシャーと恐怖の中で…



たった1人の女性が…



しかも 的確に感染者を仕留めながら…



1匹も接近を許していなかった。



す… すげぇ~…



沈黙した感染者の骸がどんどん積み上げられ、重なり…転がってゆく



一掃し、一旦室内に感染者の姿が無くなったが… 遅れた奴等が次から次に中へ入ってきた。



エレナは間合いの開いた好機にハサウェイの容体が気になり視線を向けた。



ハサウェイの鼻から流れる血…



エレナはしゃがみ込み、優しい眼差しでハサウェイを見詰めながら自分の服の袖で拭き取るやまた立ち上がった。



そして目つきが変わり



再度身構え、発砲した。



ハサウェイの意識が次第に遠のいて行く…



この状況にも関わらず安堵感に包まれながら次第に目が勝手に閉じていった。



少なくとも今この場…



この時だけでも…



この人だけは絶対に私が守る… 絶対に…



そんなエレナの強い思いのもと



ハサウェイは気を失い…



安心感に包まれ眠りに落ちた。



パァン パパン パァン……



ーーーーーーーーーーーーーーーー



警察署内  地下2階射撃場 5時05分



「ザッ ……ェイさん …サウェイさん 応答して下さい ザァ」



ハサウェイが無線トランシーバーの呼びかけでふと眼を覚ました。



江藤「ザァ ハサウェイさん ハサウェイさん… 聞こえますか? 応答して下さい ザザ」



横たわるハサウェイが無線トランシーバーへ手を伸ばし、手に取った。



ハサウェイ「あぁ こちらハサウェイ どうぞ」



江藤「ザァ! 良かった生きてましたか てっきり殺られたのかと…発砲の音が止んだからどうなったのか心配しましたよ ザザ」



ハサウェイ「あぁ…なんとか え?発砲音って? 何故それを…?」



純や「ザァー 純やです トランシーバーがずっとオン状態になってましたよ ついさっきまでずっと鳴りっぱなしでした 鉄砲と弾を手に入れてエレナさんと2人で朝までずっと撃ち続けてたんですよね エレナさんは無事ですか? ザァ」



ハサウェイ「あ…あぁ… え?」



純や「ザァ これから向かいます。脱出の準備が出来次第連絡下さい ザザ」



ハサウェイ「あぁ 分かった」



状況がよく呑み込めていない…



俺はいつの間に意識を?



どれ程寝てしまったんだ…?



顔を上げた時



ふと気付いた。



エレナの膝枕で寝ている事に



ハサウェイがゆっくり起き上がり見上げるやスヤスヤと眠りに着くエレナがいた。



ハサウェイは記憶を辿った…



そして ハッと周囲に視線を向けた。



ハサウェイの周囲には大量の薬莢が散らばりそれに比例する様に前方に積み上げられた感染者達の屍が転がっていた。



ハサウェイの横にはどこから探してきたのだろう救急箱が置かれ、鼻や右目の処置が施されているのに気付いた。



そんなエレナの寝顔を見ながら



そして 積み上げられたゾンビの屍を見ながら



朝までずっと…



これ全て1人でやったのか…?



エレナさんが…



100体以上の感染者の死体の山、朝までずっと奴等の接近を阻止してくれていたのか…



ハサウェイはトランシーバーを手にすると



ハサウェイ「俺だ」



純や「ザァ どうしました? ザザ」



ハサウェイはエレナの寝顔を見ながら



ハサウェイ「やはり俺達の目に狂いはなかったようだ ここは今安全だしもう少し休んでからにするよ」



純や「ザザァ 分かりました ザァ」



民間人が手にした最強の武器それを扱う女性に命を救われたハサウェイはエレナの横に座り込んだ。



エレナの体が傾きハサウェイの肩に頬がもたれた。



警察署潜入から一夜を過ぎ



朝を迎えた中 ハサウェイも再び眼を閉ざした。

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