第14話 到着

盗まれる事も無く、悪戯される事も無く、壊される事も誰かに迷惑がられる事も、文句を言われる事も、通報される事も、撤去される事も無く公道のド真ん中に置かれている車。



それだけ人が存在していない表れで、都市機能が完全に死んでる証拠となる



鍵は付けっぱなしでドアが全開に開かれている…



エレナが運転席の給油口を開け、ハサウェイがハッチを開き、ガソリンを注ぎ込んでいく



給油を終えるとポリタンクを投げ捨て、同時にエレナが運転席へ着き、鍵を回した。



キュルルルルル



スターター音が鳴るもエンジンはかからない…



キュルルルルル キュルルルルル



何度も捻るが何故か、かからない… 



エレナ「ん?」



キュルルルルル キュルルルルル



幾度も回すがやはりエンジンがかからない…



純や「どしたの?かからない?」 



エレナ「あれ!おかしいな…なんで?」



江藤は警戒し辺りを見張った。



キュルルルルル キュルルルルル キュルルルルル



いくらスロットを回しても全くエンジンが始動しない…



ハサウェイが懐中電灯を照らしながらボンネットを開き中を覗き込んだ。



ハサウェイ「回してみて」



キュルルルルル



エレナ「駄目 かからない…なんでよ?」



ハサウェイが中を覗き込むが特に壊れた箇所も異常らしき箇所も見られなかった。



ハサウェイ「ライトは?」



車のライトがパッと照らされた。



純や「ライトは点くからバッテリーがあがった訳ではないね… なんだろう…おかしいね…故障かな…?」



その時だ 辺りを見渡す江藤の耳に微かに聞こえてきた。



キュルルルルル 



昨日まで乗っていた車…たった1日ガス欠で放置しただけなのに…



純やがハサウェイへ口にした。



純や「どうします?こうなったら出直すかこのままチャリで向かいますか?」



ハサウェイはボンネットを閉めると考えた。



江藤「深夜とは言えそろそろここに長居は危険だよ この音を聞きつけて奴等がやって来る」



エレナとしてはせっかく再会した愛車をまた捨てるのに抵抗を感じた…



だがむなしくもエンジンは一向にかからない



その時だ 江藤の耳にはっきりと暗闇の中から… 遠くから物音が聞こえてきた。



江藤「何か聞こえる… そろそろヤバいかも… 早く決断を」 



するとハサウェイが「エレナさん!ちょっと代わって」



運転席へ乗り込みハサウェイがスロットを回し始めた。 



キュルルルルル 



やはりこの音を鳴らすだけで車の心臓は鼓動しない



純やも辺りへ意識を集中し耳を澄ました。



複数の不気味な気配を感じる…



嫌な空気が流れ出してきた…



純やが窓越しからハサウェイへ「なんか超ヤバい雰囲気です…もうチャリで決行しましょう」



ハサウェイ「…」



ハサウェイは純やを無視しながらスロットを回し続けた。



その時だ 遠方から唸り声が聞こえた。



エレナ、純や、江藤にハッキリ聞こえ、過敏なまでに反応を示した。



3人はその声のする方向に振り向いた。



純やは咄嗟に自転車へとまたがり



純や「ハサウェイさん 奴等に気づかれたっぽいです もう車は諦めましょう 奴等が来る!」



ハサウェイは更に回し続けた。



江藤が耳を澄ますと暗闇の中あちらこちらから唸り声、叫び声が聞こえ、それが徐々に近づいてきていた。



江藤「そこら中から声がします。このままじゃ囲まれますよ 早くこの場を離れないと!」



無情にもかからないエンジン…



エレナは軽くパニックに陥った。



純や「今ならまだ間に合う その車は捨てて行きましょう ハサウェイさん!」



ハサウェイは諦めきれずに回し続けた。



無数の奴等の呻き声がすぐ近くまで迫り、走る足音さえも聞こえてくる



江藤も自転車にまたがり



江藤「ハサウェイさん もういい加減にして下さい 奴等もう目前です」


ハサウェイの耳にもハッキリ聞こえてくる奴等の声… 流石に諦めかけた その時だ



ドゥゥゥゥン エンジンが始動した。



ハサウェイ「かかった みんな早く乗れ」



エレナは後部座席へと飛び乗り、純や、江藤もそれぞれカゴから武器を取り、自転車を乗り捨てて飛びついた。



2台の自転車がガシャーと音を立て倒れる…



そして助手席のドアが閉まらぬままに



ハサウェイはギアをPからDにシフトチェンジ、サイドブレーキを外しアクセルを強く踏み込んだ。



車が急発進すると共にハサウェイがヘッドライトを灯した…



すると 前方から群れで襲い来る奴等の姿が照らし出された…



わずか10メートルたらずの距離



純や「わぁぁぁ 来やがったぁぁ~」



ハサウェイは急ブレーキで車を止め素早くDからRへシフトチェンジ



再びアクセルペダルを強く踏み込んだ。



キィィィィ~



助手席に座る純やが開いたドアを閉め、またも車が急発進でバック走行した。



ハサウェイは背もたれに手を付き、暗闇の中後ろへ振り返りながらハンドル操作する



エレナ「きゃあ 後ろからも来ましたぁ」



後ろかも左からも無数の感染者が食い殺そうと集まって来た。



3方から囲まれた…



ハサウェイはスピードを落とさずに巧みなハンドルさばきで車一台分入る程の小路へとバックで進入させた。



キィィィィ~



進入そうそう民家が建ち並ぶ細道、花壇やらが路地に置かれ、何個かの植木鉢を花壇ごと跳ね飛ばしていた。



助手席に座る純やが目にする先にはこぞって小道に進入して来る奴等の姿があった。



我先にとイかれたツラで追い掛けて来る感染者達の姿だ



街灯も電柱も無い真っ暗闇な路地の細道、バック走行な為ライトも無く前が全く見えない…



ハサウェイ「暗くて前が見えない…」



エレナがとっさの機転を利かし懐中電灯で前を照らした。



すると 突如看板らしき物が視界に現れる。



ハサウェイはスピードも落とさず、かまわずに突っ込んだ



ガシャ~ バキバキ ガーン



接触した看板は真っ二つに折られサイドに散っていく



一難去ってまた一難…



今度は路駐された2台の自転車が見えてきた。



ハサウェイは更にアクセルを踏み、迷う事無く突進させた。



ガシャガシャ バーン



2台の自転車が後輪、サドル、カゴを大きく歪ませ、吹き飛ばされる。



こんな狭い路地でスピードメーターは75キロにまで達していた…



そしてバック走行を続ける車が細道から何とか大通りへと抜ける。



段差で車が飛び、着地と同時に車内は大きな衝撃と振動で揺れた。



ガタンガタガタガタ



ハサウェイは即座にシフトをチェンさせまたも急発進で前進させた。



奴等が小道から出て来る前に、すぐに十字路を左折させ、次の十字路を右折



奴等を捲いて走行した。



エレナと江藤が振り返り、奴等の追跡を確認するが



奴等の姿は無かった。



どうやら捲けたようだ



エレナはバクバクと鼓動する心臓に手を当て、深呼吸させた。



純や「フゥ~ 危なかった… ギリギリまでエンジンかからないとかアメリカ映画のお約束じゃあないんだから… これぞホントの間一髪ってやつだね」



そして車を走らせる事5分…



歌舞伎町エリアに進入、車のライトを消してゆっくり走行した。



純や「そこのコインパークを曲がれば警察署っす」



車が右折、歌舞伎町警察署が見えてきた。



ハサウェイ「ここだな 着いたぞ」



幸運にも周囲に奴等の姿は無かった。



エンジンを切り、惰性で進む車を玄関前に乗り付け、停車された。



そして4人は窓から警察署を見上げた。



何が起こるのか…



何が待ってるのか予想も出来ぬ不安を秘めた…警察署



4人の目には堂々とそびえ建つ警察署がとても禍々しく不気味なものに映っていた。



これから拳銃奪取をかけた潜入作戦が開始される。

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