第1176話 どELF娘とMM砲

【前回のあらすじ】


 なんやかんやでELF娘を仲間に加えた女エルフ達。


「マスター!! 優しくしてくださいよー!! 扱いが酷いです!! ELF差別ですよー!!」


「あーもー、うっさいわねー!! アンタ、別にELFなんだからちょっとやそっと乱暴に扱っても壊れないんでしょ!!」


「ひどい!! ELFだって壊れますよ!! 私たちにだってね、そっと優しく触れてくれなくちゃ、簡単にダメになっちゃう所があるんです――そうそれは心!!」


「ファイヤーアロー」


「あちゅい!!」


 物騒だけれど愛嬌があり、図々しいけれども適度に間が抜けている。今まで、いそうでいなかった絶妙なコメディリリーフ。これで少しは、女エルフが身体を張らなくてはいけない状況も減るだろうか。いや、まだレギュラーになると決まった訳じゃないんですけれどもね。


 なんにしても急に出て来た割にはすんなり馴染んだELF娘。

 これからはたして、どんな活躍を見せてくれるのか……。


「参ったな。目覚めさせてもらうマスターを間違えた。こんな暴力的なエルフがマスターだなんて、核融合炉が幾つあっても足りないや」


「言葉の意味は分からないけれど、不穏なこと言うのはやめなさい」


 意外と急タッグの主従コンビにしては、良い塩梅かもしれない二人なのだった。


◇ ◇ ◇ ◇


 尋問はもうちょっとだけ続く。

 破壊神に近い立場のELFが出てきたのだ、それは聞きたいことは尽きない。

 MM砲の居場所は分からなくても、他にも分かることはあるかもしれない。


「まずはアンタが着ていた【ダブルオーの衣】だけれど、その居場所はもうだいたい分かってるの?」


「えぇまぁ。それを管理するためのELFですから、私。どこにあるのか、誰が持っているのか、どうすれば手に入るのか、どれから手に入れるべきか。どんなご相談でもよろしくどうぞですよ」


「そう。じゃあ、さっそく、これから向かうイーグル市にあるそれについて教えて欲しいんですけれど」


「……おやおや、よろしくどうぞとは言いましたけれど、タダで教えるとは誰も言っていませんよマスター」


「わかった、次は雷魔法が喰らいたいのね。待っててね、すぐに魔法を練るから」


「冗談ですよぉ!! やーん、このマスター真面目すぎるぅ!!」


 ふざけるELF娘にしれっと魔法の杖を向ける女エルフ。

 会ってまだ間もないというのに、すっかりと主従としての力関係が出来上がっている。やはり、かなり相性が良い様子だ。


 女エルフに聞き取りを任せて、女修道士は壁の修復作業に入っている。

 ワンコ教授と新女王に助けられながら、壁を復元魔法を使って少しずつ元に戻していた彼女は、新たなエルフ主従のやりとりに「うふふふ」と微笑むのだった。


「えっとですね、イーグル市の表層には全部で3つありますね。私が着ていたのと会わせて、ここには4つの【ダブルオーの衣】があります」


「……けっこうあるのね」


「そうですね。なんと言ってもイーグル市は兵器を貯蔵する都市ですから。一つは、開発サンプルとして保管され、もう一つは蒐集家の手の内、最後の一つは兵器の一部として使われている感じですねぇ」


「そんなことも分かるの?」


「んふふー、まぁ専門家ですからー? そのためのELFですからー?」


「絶妙に腹が立つわね」


 この他、女エルフ達がやって来たダイナモ市に2つ。これから向かうがんばれロ○コン村に2つ。そして、呉服屋シーマ村の店長が個人的に保管していたものが一つあることを彼女は告げた。さらに、しれっと新女王がそれを身につけていることも、ずばりと言い当ててみせた。


 これには女エルフ達もびっくり。まさか、幼児退行はそのせいだったのかと、すぐさま新女王から【ダブルオーの衣】をはぎとった。


「やー!! お姉たまたちひどーい!! エリィのお洋服ぅ!!」


「あれ、引っぺがしたのに元に戻らないわね?」


「んー、【ダブルオーの衣】には精神に変調をきたす効果もありますが、エリィどのの場合はまた違うものが原因っぽいですね。元のエリィどのが、変質したのとはまた別――抑圧された第二の人格みたいなのがこれなのかもしれません」


「……なるほどねぇ」


「かーえーしーてー!!」


 新女王はぐずったけれどもそこは簡単に返せるものではない。

 さっと女エルフは【ダブルオーの衣】を自分の背嚢にしまった。


 まぁ、当面の危機である【ダブルオーの衣】についてはそれくらい。次は、これから待ち受けているイーグル市についてだ。


「ぶっちゃけ、ここには【MM砲】を探しに来たんだけれど、あるとしたらどの辺りか目星はつく?」


「うーん、そうですねぇ。正直に言って、もし、【MM砲】をイーグル市に設置するとするなら、一番射程が出る場所だと思うんですよね」


「なるほど」


「けど、ビルの上に立てるとかよりはもういっそ、地上から遙か上空に魔法で浮かしちゃった方が、効率がいい気がするんです。なので、イーグル市にはないんじゃないかなと私は思っています」


「……まじか。それはちょっと、厄介な話ね」


「けど、【MM砲】を扱っているのは間違いなくイーグル市です。ですから、その上空に設置した【MM砲】まで移動する手段を何か持っているはず。それを見つけることができれば、あるいはいけるかもしれません」


 分からないと断った割には具体的な方策が出て来た。

 それよとパチリと女エルフもこれに指を弾いた。

 おそらくELF娘の推理はそう遠からず当たっている。


 とはいえ、そこが何処なのかを突き止めるのには、まだ少し手数が要りそうだ。


「うーん、これ以上はもうなんとも、表層部に上がってみないと分からないわね」


「ですね。案ずるより産むが易し。やっちゃったほうが早そうです」


「よし。そうと分かれば、やるべきことが見えてきた。表層部に上がって、まずやるのはダイナモ市と同じく、街のコントロールを行っているサーバなんちゃらを突き止めることね。そこさえ分かれば、またケティが情報を引き出してくれるわ」


「昔と表層部が変わっていないようなら、私の方でもサーバルームまでなら案内できますよ?」


「なにそれ、そういうことが出来るなら先にいいなさいよ!」


 いやだって聞かれなかったからと、しょぼくれるELF娘。

 流石にちょっとこれまでの扱いがあんまりだったかと、ちょっとシリアスな顔をした女エルフ。しょうがないわねと呟いて、彼女は自分の従者になった娘の頭を、よしよしと優しく撫でた。


 これにちょっと嬉しそうにはにかむELF娘。なんだかんだでやっぱり、いい主従のようだ。


 かくして、女エルフ達の方針は固まった。


「まずはイーグル市表層のサーバールームの占拠!! これを目指して頑張るわよ皆!!」


「「「「おーっ!!」」」」


「さて、それじゃぁそろそろ、ソシャゲの続きを……」


 

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