第1169話 ど女エルフさんと勇者(仮)

【前回のあらすじ】


 女修道士が引き合わされた水商売ギルドのギルド長は大魔王(仮)であった。


「いや、大魔王(仮)ってなによ。というか、誰このキャラ」


 あら失礼。

 この話を執筆している頃には、まだ公開されていなかったようだな。

 そしておそらく、この話を公開する頃にも公開されていないだろうな。


「いや、公開してない小説のキャラクターなんかい!!」


 一年ほど前に書きためていた、ニート魔王と公務員勇者のトンチキ話からキャラを持って来たんですが、まぁ分かりませんわな。どこかで日の目を当ててやりたいとは思っておりますが――どうですかね出版社さん!!


「WEBでも公開してなくて、公募にも出していない原稿をどう判断しろと?」


 小説を書かなくても評価されるような人間になりてぇ。(願望)


 とかまぁ、そんなことは置いといて。


 大魔王(仮)の名はアルルカン・ペケポン。

 やけにゆるい話し方をする女魔王だが頭の方は割と聡明。彼女は女修道士たちの置かれた状況と、現在の南の大陸の状況をすぐに把握すると、女修道士たちへの協力を承諾したのだった。


 かくして晴れて水商売ギルドの協力を取り付けた女修道士たちだったが――。


「ただし。気をつけて貰いたいことが一つだけあるんだなもし。このイーグル市の地下は一枚岩じゃない。三つの大きな組織がお互いの縄張りを牽制し合っている」


 水商売ギルドと手を組むということは、そいつらと敵対するということ。

 一寸先も見えない地下の世界に力強い後援を得たと思いきや、事態はそうも単純なものではないようだった。


◇ ◇ ◇ ◇


 一方、場所は変わって先ほど騒ぎが起こった酒場。

 女修道士シスターたちがあくせくと街の重要人物と語り合っている中、女エルフと新女王は、あてがわれた部屋でまったりのんびり時間を潰していた。


「にゃぁー、おねぇたまぁー、コーネリアおねえたまとケティおねえたま、大丈夫なのぉ? おねえたまはついていかなくてよかったのぉ?」


「大丈夫よ。あの二人も一緒に冒険してだいぶたくましくなってきたからね。二人でなんとかできると信じてるわ」


 絶対に自分がサボってソシャゲをしたいだけである。

 もうすっかりこちらの文明にも馴れたのだろ。ベッドの上に寝転がって、ぽちぽちとスマホを弄る女エルフ。やっとくつろげるとばかりに腹ばいになって、彼女はふらふらと脚を揺らす。

 その隣で膝を抱えて寝転がる新女王。


 義姉妹二人は同じベッドの上に寝転がって、海底ドッグからの旅の疲れを癒やす。女修道士シスターたちのことなんておかまいなし。エグいくらいのだらけっぷりだった。


 完全にオフモードの女エルフと違って、新女王は仲間のことが心配らしい。膝に顎先をくっつけると少しむすりとした顔をする。

 そんな彼女の不満げな表情をいつもだったら女エルフは見逃さないのだが――。


「あぁ、また最後のお見合いを落とした。もうちょっとでSランクに到達できそうなのに、あと一歩がどうしても足りないのよね。くっそー」


 スマホにずっと視線を注いでこれこの調子である。

 流石にこの様子には新女王も剥れっ面。かわいく頬を膨らませて、いまいち話のノリが悪い義姉を睨んでいた。


 その時。コンコンと、彼女達がいる部屋の扉がノックされる。

 軽率にその合図に返事をしたのは新女王。「はぁい」と返すや否や、ノックに揺れた部屋の扉がべきりと固い音を立てた。鋼鉄製の分厚い扉。その蝶番のネジが飛び、部屋の中に向かって扉が倒れ込んでくる。

 幸いな事に、女エルフ達が眠るベッドからは離れていたが、すぐにけたたましい衝撃音が酒場の中に響き渡った――。


「お、おねえたまぁっ!!」


「もー、なによ。人がせっかく休んでるっていうのに」


 結構なシリアス展開にもかかわらず肝の据わった女エルフ。縋り付いてきた新女王を、ひょいと部屋の隅へと移動させるとステッキを取り出して扉に向かって構える。

 ぽっかりと空いた扉の穴の向こう側、剣を構えて立っている青年に、彼女は何者と誰何した。


 空いている方の手で、ちゃっかりとソシャゲをいじくりながら。

 ついでに言うと相手の顔をしっかりと見てもいなかった。


 たいしたもんである。


「組合員から報告を受けた。なんの罪もない男型ELFを機械鎧で破壊したそうだな。どういうつもりかは知らないが、こちらにも面子がある」


「知らないわよ。私、ここの従業員じゃないんだから」


「ここは酒場兼娼婦の仕事場だろう。嘘を吐くな」


「嘘じゃないわよ。私のような色気のない娼婦がいるかっての。いや、言わせんなよそんな悲しくなるようなこと」


 悲しいけれど事実だった。

 そしてスマホを弄る手は止まらなかった。

 剣を持った相手に対してながらで相対するとはどれほど自分の腕に自信があるのだろうか。後衛魔法使いだというのにたいした舐めプ。

 いくらUWA娘がしたいからって、ここまで来ると流石にちょっと怖かった。


 しかし相手はそれを実力からくるものと思ったのだろうか、半歩後ろに下がって構え直す。神妙かつ慎重なその足取りに、部屋に緊張が走った。


 にらみ合わずに相対する女エルフと謎の男。


「斬る前に名前を聞いておこうか」


「はいはい、モーラよモーラ。はい、名乗ったからこれでおしまいね」


「モーラか。俺の名前はイルゥ・カピタノ。昔勇者の今はイーグル市地下労働者組合の用心棒だ。悪いが、これも仕事なんでな、斬らせてもらうぞ」


「斬れるもんなら斬ってみろやオラァーッ!!」


 自称勇者の剣閃が煌めく!!


 倒れたドアを踏みしめて間合いを詰めた勇者は、気合い一閃袈裟斬りを女エルフへと浴びせかけた。ただし刃は寝かせて。


 斬らせて貰うといいつつもそこは峰打ち。

 微妙に女エルフに対して甘い。

 自称とはいえやはり勇者か、女子供に手を挙げるのは気が引けたのかもしれない。


 そんな無意識に手加減が出た女エルフに対して。


「奥義!! ソシャゲ手動高速周回!!」


 ここの所、ずっとスマホをぽちぽちと弄って身につけた、よく分からない技を彼女は繰り出した。こんなことで本当に試練になるのか、強くなれるのかという疑問を、いろんな意味で吹っ飛ばすような技だった。


 そして――。


「ぎゃっ、ぎゃわぁーーっ!!」


 突き出されたステッキが刻んだ魔方陣が、火炎の渦を吐き出して勇者に直撃する。

 いつもより威力三割増し。派手に火炎を喰らった勇者はのけぞると、そのまま入って来た扉の向こう側へと吹っ飛んだのだった。


 おそるべし海母神の試練。

 おするべしながらスマホ。

 そして、おそるべし女エルフのソシャゲにかける情熱。


「ったくもう!! アンタのせいで気が散ったじゃないのよ!! せっかく乱数調整したのが狂っちゃったらどうしてくれるのよ!!」


 このピンチにもまだソシャゲを高速周回しながら、女エルフは余裕のない現会社畜オタクみたいなセリフを吐き出す始末であった。

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