第1168話 ど女修道士さんと大魔王(仮)

【前回のあらすじ】


 夜の街に生きる女達の粋な計らいにより、イーグル市の地表まで上がる段取りがほぼほぼ整った女修道士たち。ただ、そうは言っても組織の力を借りるのだ、ちゃんと筋は通す必要がある。

 女型ELFのまとめ役である水商売ギルドのギルド長に、女修道士は挨拶に行くことになった。


 ただし――。


「まぁ、本人はあまりこうアレだけれどな」


「まぁ、見た目はちょっとアレだけれどな」


「まぁ、なんていうか本当に、アレな感じなのだけが残念だけれどな」


「なんなんですアレって!?」


 ギルドメンバーの女型ELFたちが、口を揃えてアレだという。

 いったい何がどうアレなのか。どんな人物なのか。

 地上に出るまでにもう一波乱の予兆を感じつつ、彼女がいるという店の前にやって来てみればそこはコンセプトカフェ「魔王城」。


 なるほどアレの匂いがぷんぷんした。


「……たしかにアレな感じですね」


「……だぞ、アレな感じなんだぞ」


「建物の段階でビビってちゃダメだぞ。本人はもっとアレなんだから」


 次に出てくるのはパロか、オマージュか、それとも自作からのクロスオーバーか。

 アレなギルド長の正体やいかに――。


◇ ◇ ◇ ◇


「……はにゅう。なになになんなの、こんな時間から。まだ営業時間じゃないんだけれども。ていうか、昨日夜までマカモンやってて睡眠ヤババのねむねむモードなんだけれど。魔王だけれどバッドステータス睡眠決まっちゃってるんですけど」


「こちらが水商売ギルドのギルド長。アルルカン・ペケポン。通称大魔王さまだ」


「……大魔王さま」


「どう見てもお子ちゃま……」


「にゃにおう、誰がお子ちゃま大魔王さまじゃい。勇者にやられてこちとらおつとめ品3割引中だからしかたないぞなもし。しかたなし。いとおかし」


 ふあぁと煎餅布団の中であくびをかみ殺すのは赤い姫カットのELF。

 だぼだぼとした上下に分かれた服を着た彼女は、その袖でくしくしと顔を洗うと、のっそりとその場に立ち上がった。


 立っても女修道士シスターたちの印象はやはり変わらない。

 魔王というにはあまりにも小柄で、威厳よりも愛嬌が漂う少女。

 ワンコ教授よりちょっと大きいくらい。新女王より少し小さい。そんな小柄な少女はオフトゥンを羽織ったまま、とてとてと女修道士達の前にやって来た。


「すまんねすまんね、アルルカンちゃんフルお布団装備で今日は行かせていただきますよ。眠気が来たら即睡眠、どこでも寝られる臨戦態勢がアタシのスタイル」


「……えっと大魔王っていうのは?」


「あー、それ聞いちゃいます? 聞くも涙、語る涙、上映時間二時間三十分のちょっと長めの壮大なアルルカンちゃんドキュメンタリー。いやもうほんと、こんな大魔王に誰がしたって感じだし。ショギョムッジョよ、ショッギョムッジョ。ホーホケキョって、魔界法隆寺でショー徳太子(ウグイス)が鳴くわよ」


 威厳もへったくれもないヘリウムガス並みに軽いトークを決める大魔王。

 赤髪の魔王はふへぇとだらけた顔をして女修道士たちの前に座る。そして、そのまま神妙な顔をしたかと思えば――。


「……ぐぅ」


「……寝ましたね」


「……寝ちゃったんだぞ」


 オフトゥンフル装備の名に違わず、おちつくや否や寝落ちする大魔王。

 みかねた女型ELFが布団をはぎとると「ハヒョッフ!!」と謎の奇声を上げてようやく彼女は目を覚ました。


 もちろん、先ほどまでのやりとりを全て夢の中に置き去りにして。


「どちらさんどちらさん? やれやれまったく、アタシがこのイーグル市の地下を牛耳る最強にして萌え萌えきゅんきゅんなイケてる大魔王と知っての相席か。どうもはじめまして、大魔王アルルカンです。よろしく今日からマブダッチ」


「あぁはい、えっと、もう紹介は受けました」


「だぞ!! 話が進まないんだぞ!! とりあえず要件を手短に話すんだぞ!!」


 ワンコ教授がここは強く出る。

 彼女はアルルカンにここに至るまでのいきさつと、これから自分達が行おうとしていること――水商売ギルドの協力を受けて、イーグル市の表層部へと向かおうとしていることを端的に説明した。


 それにうんうんと頷くアルルカン。

 自分の預かり知らぬ所でことが進んでいることに、少なからず何か渋い反応をするかと思ったら、意外にも物わかりがいい。


「なるほど。つまりここしばらくのイーグル市のヤババなムーブは、謎の組織の陰謀によるものということでつか。くはーっ、なんてことしてけつかる。どうりでどんだけ働いても働いても、我が覇業遅々として進マジヤバイな訳だし!」


「分かっていただけましたか?」


「分かった分かったオーケイ、オールライト、エブリデイ、エブリナイトだし!! これは確かにあたし達も黙っちゃいられないよね!! 介入だ、介入だ、さっさとしばき倒すぞ謎の組織!!」


「いやまぁ、謎の組織と決まった訳では。単独犯かもしれませんし」


「その方がテンション上がるじゃないのよシコちゃん」


「……シコちゃんて」


 ただ、ちょっとノリが軽薄すぎる。

 その軽い性格は、夜の世界の住人だからかそれとも素からそうなのか。

 どうにもつかみ所のないリーダーだなと、女修道士もワンコ教授も大魔王の自由っぷりになんとも言えない気分になるのだった。


 なんにしても。無事に水商売ギルドの協力は取り付けられた。


「表層部に送るELFに紛れる件も、機械鎧を送る件も了解したよ。どっちも私から話をつけておくし、準備に必要なものは手配しておくから、大船に乗ったつもりでいてチョウダイナ、ヤッチャイナ」


「あ、ありがとうございます」


「だぞ。なんだかんだで頼りになるんだぞ。ありがとうなんだぞ」


「まあ、こう見えてもアルルカンちゃんさんてば大魔王ですから。そんでもって、このイーグル市の地下を預かる顔役ですから。えへんぷい」


((言動からはとてもそうは見えないんだよな……))


「ただし。気をつけて貰いたいことが一つだけあるんだなもし。このイーグル市の地下は一枚岩じゃない。三つの大きな組織がお互いの縄張りを牽制し合っているザ・アンダーグラウンド三国史状態。ウチらが君たちに協力するということは、必然的にそいつらを敵に回すということ」


「三つの大きな組織」


「この地下都市を仕切っている支配者層。そいつらの下で働いてる労働者の協同組合。そして、その二つの間を状況に応じて渡り歩くあたしたち水商売ギルド。基本的には中立で、お互いに干渉しないようにしているけれど、こんな楽しそうなもめ事に介入しない手はないし。きっとちょっかいかけてくるっしょ」


 口調は軽いが考えてることは結構重たい。

 思わず投げやりなため息を大魔王も吐く。


 大きな後援を得た反面、状況は少し複雑な様相を呈してきた。

 もっともすぐに女修道士たちはこの地下都市から脱出する予定ではあったが……。

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