第1130話 キングエルフと禁忌の力

【前回のあらすじ】


 破壊神が残した神聖遺物【ダブルオーの衣】。

 赤いスーツに黄色いマフラーという、どう考えてもサイのボーグが身につけるその衣服には破壊神のすさまじい力が宿っている――とのこと。


 流石は仮面のライダーや秘密の戦隊に次ぐ代表作。

 いや、むしろこっちが氏にとっての代表作ではないのか。


 申し訳ないことにちゃんと読めていないのだけれど――。


「だから、ちゃんと読んでからパロれとあれほど!!」


 リメイクアニメは直撃世代だったんだから良いでしょ!!(逆ギレ)


 なんにしてもそんな「カッチョイィ!! シリアス待ったなし!!」なアイテムを装備してしまったが最後。キングエルフからギャグキャラ成分が失われてしまった。

 強大な力には強大なシリアスが伴うのだ――哀れただのガタイのいい金髪という、いかにもなやられキャラになってしまったキングエルフ。


 彼の運命やいかに!!


「いや、別にもうこれでいいんじゃない。こいつが大暴れする度に、火消しするのが面倒なのよねぶっちゃけ」


 そういうこと言ってあげない。

 という感じで、今週もどエルフさんはじまります――。


◇ ◇ ◇ ◇


「くはぁっ!! わ、私はいったい!!」


「あ、よかったキングエルフさん、やっと正気に戻ったんですね?」


「試しにマフラーと服を強制的に脱がして見るもんだな。それですぐに元に戻っちまうのもそれはそれでどうなのよって話だが」


 宇宙戦艦オーカマ医療室。

 ベッドで目を覚ましたキングエルフは、口から涎を垂らしながら辺りを見回した。


 【ダブルオーの衣】により精神に異常をきたしたキングエルフ。

 彼は強制的に仲間に衣を外され、そのショックで寝込んでいたのだ。


 こっちの方が大人しくていいかなと、彼らが思ったのはちょっと内緒。

 まぁ、暑苦しい奴にシリアスにされるのもそれはそれでキツい。ギャグキャラだからこそ彼の行いを笑って流せた部分もある。

 という事で、そのままにしておくという案は無事に見送られた。

 

 ただし、それはそれとして一悶着はあり――。


「いやー、お前ってば元に戻るのめちゃくちゃ嫌がるんだもの。びっくりしたわ」


「僕たちに向かって本気でエルフリアン柔術しかけてきましたよね。無事に元に戻すことができてよかったですよ」


「……そんな!! そんな迷惑をみんなにかけていたのか!? この私が!?」


「いやまぁ、乗っ取られていなくてもだいぶ迷惑なんですけどね」


「歩く迷惑みたいな所があるよなお前って」


 少年勇者と紅騎士がズバズバとものを言う。キングエルフ珍しくの滅多斬り。致死量くらいの正論を浴びせかけられた彼は、ぐったりとその場にうなだれた。


 随分辛辣な言い草だが、そこは信頼関係があるからこそ出てくる言葉。

 上官に向かって、冗談でもこんな軽口なかなか言えるものではない。


 紆余曲折を経て、オーカマチームは風通しのいいチームに仕上がっていた。

 そんな風通しの良い男達なので、すぐキングエルフも立ち直る。すまなかったと少年勇者と紅騎士に頭を下げれば、別に大丈夫ですよと二人とも軽く許した。


 ほんと――びっくりするくらいの風通しの良さ。

 キングエルフが意識を失い、こうして気がつくまでベッド前でみんなで待っているんだから。


 どれだけ仲良しなのか。

 お前ら本来の立場を分かっているのか。


 和気藹々と三人はこいつぅと肘で突き合う。

 なんか本当に、パロ元に申し訳なくなるほどの打ち解けっぷりだった。

 パロコメ作品なんじゃないかと心配になるチームワークぶりだった。


「いちゃついてんじゃないよ!! そういうことしとる場合か!!」


 とまぁ、そんな三人和気藹々としていた所に入って来たのは艦長。


「なんだブラジャー。お前も俺たちと青春っぽいやりとりしたいのか?」


「ちがうわ!! うらやましくないわ!! そういうんじゃないんだから!!」


(((ツンデレなんだから……)))


 彼はキングエルフの顔色を見るや、少し安心したように息を吐いた。この男もこの男で、パイロットチームのリーダーを心配していたようだ。


 本当に急造チームとは思えない親密感。

 パロ元が息をしていなかった。


 おほんと咳払いをする艦長。久しぶりに生身で現われた彼は、まずは無事でなによりとキングエルフの身体をねぎらう。


「持って来てもらったダブルオーの衣は我々で封印処理した。残すところはあと八つ。どこにあるかは、ダイナモ市の制御コンピューターから回収したデータから既に割り出してある」


「すぐに回収に行きたい所だが……すまんなブラジャー、まだ本調子じゃない」


「無理もない。特級の神聖遺物を身に纏ったのだ。キングエルフはしばらく休養に専念するべきだ。それに、この二人なら指揮は任せても問題ないだろう」


 話を振られたのは、もちろん医務室に待機していた二人。紅騎士と少年勇者。二人とも先の突入作戦で、白兵能力については折り紙付きだ。今更、キングエルフが首を横に振る要素など一つもなかった。


 二人になら任せられるとキングエルフがベッドの上で頷く。


 すると、仮面で顔を隠した紅騎士が口元だけでにやりと笑う。


「えらくまた信頼されちまったもんだね。俺みたいな得体の知れない奴をさ。いいのかい。もしかするとその特級神聖遺物をちょろまかしちまうかもしれねえぜ」


「したければするがいいさ。しかし、この人類を救うというミッションが終わるまでは協力してくれるだろう」


「……ったく、調子が狂うぜ本当に」


 ほれ、どこに行けばいいんだと艦長に迫る紅騎士。

 どうやらキングエルフはとっくの昔に、彼の正体に気がついている様子だ。


 そもそも、先の中央大陸での決戦にて彼らは刃を交えている。

 気づかない方がおかしい。


 一人取り残された勇者がきょとんとした顔をする。そんな顔をしなくても君は大丈夫だと、キングエルフは少年を優しく諭した――。


「では、残りの任務はセイソとアレックスに託すこととする。二人とも、それで問題ないな?」


「あぁ、ご期待にきっちり応えてやるぜ」


「任せてくださいキングエルフさん。貴方の代わりを立派に務めてみせます。大丈夫。セイソさんが変なことしないように、僕がちゃんとサポートしますから」


「えらそうな口を利くなぁ坊や」


 わははと笑ってブリーフィングの幕が閉じる。

 ほんと、元ネタどこ言った。たいしたチームワークである。これなら安心して任せられるなと、キングエルフも安心してまたベッドに横になるのだった

 

 頼むぞ、と小さく呟いてキングエルフが視線を天井に向ける。

 その瞳はしかし、どこか遠い所を眺めていた――。

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