第1118話 どエルフさんと社長黙示録
【前回のあらすじ】
イカスミ怪人工場に電撃が走る。
突然の社長交代劇。創業者のドクターオクトパスくんの代わりに、その座に着いたのはまったく縁もゆかりないはずの女エルフ。
いったいダイナモ市を代表する企業に何が起こっているというのか。
そんな異変に社員も気がつかないはずがない。
これは絶対に社長に何かがあったのだ。そう察知したのは、製造ラインの末端で働く工員たちだった。下っ端オブ下っ端。彼らが社内でのし上がるには、こんな混乱の中で賢く立ち回る他ない。
この社長交代劇にバイプッシュ!!
そんな感じで、乗ってくるのかと思いきや――。
「いや、君らなに訳のわからないノリで仕事サボろうとしてんの。さっさと持ち場に戻って。今日のノルマ、まだ達成してないんだから」
「「「……ハァーイ」」」
悲しいかな作業員の性、ラインリーダーの言葉には逆らえない。
結局、何かあるなと思いつつも、女エルフの社長就任はしれっとイカスミ怪人工場に受け入れられるのだった。
さてさて、今週から始まる社長エルフ耕作。いったいどうなることやら。
「はじまらんわい!! 混ぜすぎてパロ元の原型が留まってない!!」
はたして女エルフに社長なんてできるのか。
今週もどエルフさん、ぶっちりぎりすっとぼけでお送りいたします。
◇ ◇ ◇ ◇
「……危なかった。なんとか力業でゴリ押せたわね」
「モーラさん、お疲れ様でした。なんというか、実にこう、それっぽかったですよ」
「だぞ、見事な女社長だったんだぞ」
「女だてらに会社を立ち上げ荒波の中を戦い抜いてきた、やり手社長感が半端なかったです。そのヒスっぽいムーブも含めて」
「誰がヒスっぽいじゃ」
「「「ひぃん!!」」」
女エルフの睨み顔にすくみ上がる仲間達。
女経営者特有の手の付けられない凶暴性が滲み出たその顔に、歴戦の冒険者たちもたまらず身体を震わせた。
それはそうだ。自分の身一つさえ面倒見ればいい、勝手気ままな冒険者業と比べて多くの従業員を背中に抱えての社長業は過酷極まる。
しかも、少数だからこそ結束が生まれる冒険者たちと違って、企業は営利を目的としただけの人間の集合体だ。どうしても結束力や仲間意識は薄くなる。
下の者からぐちぐちと文句を言われ。
ろくに働かない従業員をなんとか言いくるめて動かし。
関連企業の社長やライバル会社と、腹の内を隠しての交渉の毎日。
そんな凄絶な社長業をこなせる人間などそうそういなかった。
「いやまぁ、やってみるとなんかすごくしっくりきたわ。これ、あんたらをいつも怒鳴りつけてるのと同じ感じだわ」
そして、常にそんな感じで仲間に悩まされている女エルフには、社長業が思いのほかしっくりきた。わざわざ社長業とはなんたるかなんて勉強しなくても、その辛さ苦しさそれを乗り越えるための根性が、既にもう女エルフの中にできあがっていた。
女エルフには意外なことに女社長の適性があったのだ。
まぁ、女社長のムーブが似合うというだけで、実際に会社が経営できるかどうかは別だが。
「なんにしても、これで時間は稼げましたね」
「だぞ。すぐさま捕まるような事態にはならなくて助かったんだぞ」
「今のうちに、さっさとイカスミ怪人工場を脱出しましょう」
「いやけど、流石にドクターオクトパスくんのことをどうにかしないと」
「どうにかってどうするんですか? 蘇生魔法をかけようにも、既にドクターオクトパスくんは私たちのお腹の中なんですよ?」
うーんと唸る女エルフ。
これだけのことをやったのだ、すぐに社長室に人はやってくるだろう。
おそかれはやかれ、ドクターオクトパスくんのことはバレてしまう。
それまでに女エルフ達がこの工場から脱出できればいいが――。
「なにかもう一つ、保険が欲しいわよね」
「だぞ。時間稼ぎのために何か仕掛けておいた方がいいんだぞ」
「……これから出張に行くって連絡しておきましょうか」
「いえ、そんな真面目な社長なんて世の中に多くいませんよ。今からホストクラブで豪遊してくるわ――くらいの豪放さが必要です」
「エリィ、貴方の社長観はいったいどうなってるのよ」
「だおだお。そうだお、社長のお仕事はそんな楽なものじゃないんだお。オクトパスくんも、社長やるのたいへんだったんだお。地道なお仕事なんだお」
「ほら、ドクターオクトパスくんもそう言っている……」
ぎょっと女エルフ達が謎の声にひきつった顔をする。
謎と言いつつ、彼女達の中でその声の主が誰かは分かっている。
ただ、さっきも言った通り、既に彼は彼女達のお腹の中にいるはず。まさかとは思うが、食べられてもなお生きているというのだろうか。そんな冒涜的な生命体なのだろうか――と、妙にねばついた汗が彼女達の背中を走る。
「心配しなくて大丈夫なんだお。こんなこともあろうかとクローンを用意しているんだお。オクトパスくんが死んでも、オクトパスくんがいるんだお」
「……クローン?」
「言っている意味は分かりませんが、ELFの技術とかを使って、自分のそっくりさんを造っているってことでしょうか?」
「すごいんだぞ!! やっぱりこの都市の技術力は異次元なんだぞ!!」
「……と、言うことは!!」
どぼりと女エルフたちの足下で音がした。急いで視線を落とせば、排水溝――と思われた社長室備え付けプールの端にちょこなんと白いタコが座っている。
先ほど女エルフ達が倒した個体より一回り小さいが、その顔立ちは、倒す寸前に見たモノとまったく同じだ。
「だお。びっくりしたんだお。いきなり殺すとかひどいんだお。オクトパスくんじゃなかったら大問題だったんだお」
「「「「い、生きてる!!」」」」
社長ドクターオクトパスくん奇跡の生還。
流石の科学力というべきか、怪人工場という環境のおかげというべきか、ドクターオクトパスくんは生きていたのだ。
そう、これで誤魔化す必要性はなくなった。
死んだと思われた社長が生きていたのだから事件性はなし。
どエルフさん無罪放免――。
「コーネリア!! 包丁持って来て、柳刃包丁!!」
「分かりました、証拠隠滅ですね!!」
「だぞ、下手な証言をされたらたまったもんじゃないんだぞ!!」
「すみませんドクターオクトパスくんさん!! 私たちのために死んでください!!」
「なんでそうなるんだお!? 落ち着くんだお、君たち!!」
「「「「前科者はイヤァ!!」」」」
とはならない。
テンパっている女エルフ達、彼女達はせっかく生きてたドクターオクトパスくんをリスキルしようとするのだった。
彼女達が落ち着いて事実関係を把握するまで、もう少し時間がかかった。
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