第1107話 どエルフさんとMM砲

【前回のあらすじ】


 空に蔓延する邪悪な雲と青い雷。

 破壊神の民と知恵の神の民の目を眩まして、再び人類創世の時代を再現しようとしているその存在を、どうにかして白日の下にさらしたい。

 もし、自分たちが魔法にかけられていると知れば、彼らはきっと怒りに拳を握りしめ、その邪悪に自ら立ち向かうことを選ぶだろう。


 そして、それは彼らが祭り上げる神とて同じ。


 しかしながら街一個をすっぽりと覆うような、巨大な幻覚魔法をどうやって退ければいいのか。名案浮かばず黙りこくる女エルフ達――。


「大丈夫、それをするための作戦についても、だいたい見当がついているんだぞ」


「え? そうなの?」


「敵の偽装を暴く手段に心当たりがあるんですね?」


「すごいですケティさん。それに比べてエリィは……」


 ワンコ教授が語ったのは、この手の魔法を破るアイテム【マジックミラーの鏡】を使うということ。とはいえ個人や物体が相手のアイテムで、巨大な魔法をどうこうできるとも思えない。


 破壊神の都市である。

 ここまでにも、破壊神が改造人間と共に兵器を開発してきたとは説明したとおり。

 そう、あるのだこの大地には。


 そんな巨大な儀式魔法をも吹き飛ばし、真実を明らかにする兵器が。


 一兆個の【マジックミラーの鏡】を連結して造られたそれは、真実を白日の下に照らし出す巨大な光線銃。イーグル市の上空に鎮座し、大地にその光を放つ凶悪な兵器の名を、人はこう呼ぶ――。


「マジックミラー砲なんだぞ!!」


「下ネタやないか」


◇ ◇ ◇ ◇


【兵器 MM砲: 空より降り注ぐ全ての虚飾を取り払う浄化の一撃。その光を浴びれば、変化の魔法や精神に作用する魔法はたちまちのうちに解除される。また、健康な者が浴びれば、自分の中にある虚栄心や自制心を失い、本能の趣くままに行動する野人と化してしまう。そんな使い方によっては人を救いもすれば、人を破滅させもする諸刃の兵器である。ちなみに、MM砲内部には多くのELFが居住しており、彼らはそこで日常生活を送っている。MM砲の壁面は全てマジックミラーで構成されており、空を見上げればふとその姿が見られてしまうかもしれないという、スリリングな居住施設である。そんな住民達の、見られてしまうかもしれない、けれどもそれが興奮するという、二律背反する想いのエネルギーを吸収したりしなかったりして、今日もMM砲は神の一撃を大地に落とすのだ――】


「……大丈夫なのかしら、そんな得体の知れない兵器を使って」


「だぞ、こうするより他に手はないんだぞ」


「背に腹は代えられませんね。大丈夫ですよ、もしちょろっと、光を浴びてしまったとしても、本当の自分を曝け出すだけです。いまさらじゃないですか」


 まるでもう秘密なんてあけすけに全部晒してしまったような言い方である。

 女修道士シスターはなんというかそういうのに無頓着というか緩いというか気にしない所があるけれども、他のみんなはそうはいかない。


 女エルフもワンコ教授も、まして一国の王女である新女王にも、羞恥心というものがあった。プライドももちろんあった。


 もし、MM砲を浴びてしまえばどうなってしまうのか。


「だぞ。考古学に対する熱い気持ちを抑えられなくなるかもしれない。みんな、もし僕が正気を失って研究者モードに入ったら、ちゃんと止めて欲しいんだぞ」


「私もエルフに対する思いが止められなくなるかもしれません。お義姉ねえさま、もし私が我を忘れてお義姉ねえさまにひどいことをしようとした時は、迷わず頬を打ってください。それもまたご褒美ですから」


 想像してさっそく遺言みたいなことを言い出すワンコ教授と新女王。

 言うほど心配するようなことではなかった。むしろ、光を浴びなくてもそうなっていることが多々あった。


 別にそこまで心配しなくてもいいかと女エルフが冷めた顔をする。

 そんな彼女に、女修道士シスターが心配そうな視線を向ける。


「この中で、MM砲を浴びて一番たいへんなことになりそうなのは、やはりモーラさんですね。いつも、色々と我慢されていらっしゃいますから」


「しとらんわい、わりといいたいこといっとるわい、やっとるわい」


「だぞ。モーラが光を浴びたらどうなっちゃうんだぞ。きっと、いつも以上に、いろいろ五月蠅いこと言い出すんだぞ。ツッコミが止まらなくなっちゃうんだぞ」


「ケティ。ありがとう、貴方の中の私が思った以上に綺麗なキャラで、ちょっとホッとしてるわ。けどやめて、それ大喜利が始まっちゃう流れ」


「お義姉ねえさまがMM砲を浴びて全てを曝け出すようになったら、そんなの伝説級のセクハラモンスター誕生じゃないですか。呼吸するようにセクハラをするエルフだなんて、そんなのあんまりです」


「そしてエリィ、アンタはもうちょっと胸の中で、義姉あねを敬ったらどうなのよ。誰がセクハラモンスターじゃ。お前達の方がよっぽどじゃろがい」


「いえ、それだけで済めばまだ良い方です。日頃、ティトさんとできないような、あんなことやこんなことを、欲望のタガが外れたばっかりにしようとしだしたら、もう大惨事ですよ。あられもない姿のモーラさんを、人様の目にさらしてしまうことになります。そんなことになれば、私たちパーティーの評判も地に落ちる」


「あられもない姿になんぞなりたくないわい。せんわいそんなこと。お前ら、さっきから聞いてたら、私に対するイメージが酷くないかい」


 女エルフの本性が曝け出される前に、女エルフに対しての皆のイメージが曝け出される。普段のどエルフ活動の因果というものである、皆、女エルフが発禁レベルのハプニングをやらかさないかと危惧しているようだった。


 そんなメンバーの心配に冷ややかな視線を向けて、女エルフがはぁとため息を吐く。向けた視線はホログラム。夜空に浮かぶ銀色の筒。


「……どうやら、やりたくないけれどこの手しかないみたいね」


「だぞ。僕たちの手で、この大陸の人々の目を覚まさせるんだぞ」


「人類の危機の前に、この大陸の危機ということですね。我々人類の為にも、そしてこの大陸に生きる神が造りし人々のためにも」


「そしてこんな馬鹿げた事件を巻き起こした黒幕を引きずり出してやりましょう。人類を舐めてもらっては困ります。私たちは、ただ神々や運命の流れに従って、黙って生きるほど弱くなどありません!!」


 ならばやるべきことはもう見えた。

 早急にMM砲があるイーグル市へと向かわなくては。


 神々に翻弄され、街に翻弄され、ELFに翻弄され続けヶ女エルフ達。

 彼女達はようやく、この先の見えないタウンアドベンチャーの、最終目標をここに定めるのだった――。

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