第1094話 キングエルフと捕虜尋問

【前回のあらすじ】


 キングエルフVS大性郷。

 両名、作中でも並々ならぬ鍛えた身体を持つ者達。その極めた武と身体を躍動させて、どちらが男として上か決するべく拳を交わす。


 世界に一億人の門下生を抱えるキングエルフの柔の技が冴える。

 力と技の風車を回して、大性郷の機械の身体が激しく唸る。


「いや、鍛えた身体、関係なくない?」


 まぁ、細かい所はいいっこなし。

 なんにしても、火花散る激戦の果てに立っていたのは――。


「奥義!! エルフの正拳突き!!」


「「柔術じゃない!!」」


 柔術に本来存在しないはずのズームパンチでノックアウト。禁じ手を使っても勝利に執着した、キングエルフの方だった。


 格闘でも殺し合いでも、肝心なのは勝つということ。

 勝負にずるいも汚いもない。

 勝てばよかろうなのだ。


 実戦格闘術エルフリアン柔術おそるべし……。


 とまぁ、そんな感じでようやくダイナモ市夜の動乱は一段落。神々の使徒達の奇襲をなんとか回避した女エルフとキングエルフは、ようやく安息を手にれたのだった。

 深まる謎に分からなくなる神々の思惑。いったいこのシティアドベンチャーはどこに到着するのだろうか。


 ここしばらくシリアス&バトル回ばかりだったので、ちょっと休憩。情報を整理しつつのまったり展開で、今週はどエルフさんはじまります。


◇ ◇ ◇ ◇


「やめてー!! やめてよー!! 僕は悪いロボットじゃないんだー!! こんな壁に張り付けなんて酷いよ、ロボット権侵害だよー!!」


「いやけど、自由に動き回られても困るからなぁ」


「分解されないだけマシですよ。そんなに怖がらなくても取って食べたりしませんから安心してください」


 少し時間は進んで、場所は宇宙戦艦オーカマの格納庫。

 人の数倍の背丈はある機械鎧がずらりと並んだその中に、ひとつ異質な小型ロボット。ロ○コンが、多くの機械鎧と同じくドッキングベイに結わえ付けられていた。


 背部から金属製の拘束具で固定されて身動きが取れないロ○コン。半狂乱、かなり取り乱した様子で、彼は「やめてやめて」と少年勇者や仮面の騎士に懇願した。

 まぁ、それでやめるならそもそもはじめから捕まえはしない。


「ひどいよ!! 僕が何したって言うんだよ!! お家に帰してよ!!」


「うーん、まぁ、何もしてないっちゃしてないんだけれどもなぁ」


「キングエルフさんが、いろいろと事情を聞きたいって言うからさ。まぁ、しばらく我慢してくださいよ。大丈夫、話が済んだらきっと解放してくれますって」


「こんなのロボ権侵害だ!! 世間が知ったら、絶対に許さないぞ!!」


 そんなかまびすしくも気の抜けた叫び声が響く中、ちょっと離れた所でキングエルフは腕を組んで静かに佇んでいた。


 見守るのは、壁面に据え付けられた液晶ディスプレイ。

 そこには手術台に横たわる大性郷の姿が映し出されている。


『キングエルフ、ちょっといいか?』


「どうしたブラジャー。何か分かったか?」


『お前が鹵獲したこの改造人間の解析がだいたい済んだ。記憶が改竄されているのかと思ったが、脳は特に改造された様子は無かった。どうやら、彼は人間として、望んで破壊神に協力していたらしい』


 キングエルフに語りかけたのは艦長だ。


 艦長及び宇宙戦艦オーカマスタッフたちは、戦闘終了後に即座にダイナモ市の占領行動に入った。現在も目下作戦行動中だが、それと並行してキングエルフが鹵獲した大性郷の解析を行っていたのだ。


 中央大陸側の人間が破壊神側に加担している。

 何か洗脳染みた処置が施されているのではないか。そう怪しんでの解析だったが、オーカマ陣営の勘ぐりは杞憂に終わった。


『ついでに、生身の部分もかなり多いな。生命活動の維持のために最低限の手術を施したという感じだ』


「あの変身は?」


『強化外骨格だ。彼自身の肉体とは切り離して稼働する、言ってしまえば鎧みたいなものだな。これならまだ攻カク○頭隊の方が機械化率は高いだろう』


「……分かった、つまり、彼は本当に記憶をなくして、その上で破壊神に自分の判断で加担しているということだな」


『あぁ、間違いない』


 艦長の肯定にふぅとため息を漏らすキングエルフ。彼は、ディスプレイの向こうで眠る好敵手を眺めるとそっと目を伏せてきびすを返した。

 そのまま少年勇者と仮面騎士がたむろしている、ロ○コンの前へと移動する――。


 改造人間の大性郷を倒した男の登場に、ぎょっと驚くロ○コン。またギャーギャーと騒ぎ出しそうな彼を、キングエルフはいかめしい顔で睨みつけた。


「なんだ!! 僕をどうする気だ!! 君たちみたいな乱暴者に、僕は屈しないぞ!! 舐めるなよ、僕は破壊神さまが作った平和の使者、ロ○コンだ!!」


「……ロ○コンとやら。我々は、この地で神々と神々の争いが起きていると聞いて、ここにやって来たものだ。君はその争いの渦中にいる人物と考えていいのか?」


「そうだ!! 僕はこの地で、破壊神さまの意を受けて、とっくの昔に廃棄された三つの都市を守っている守護神ガーディアンなんだ!! この大陸の平和と、三都市に暮らす人類やELFの安全は、僕が守ってみせる!!」


「……守護神?」


 破壊神の使徒にしては似合わない自称にキングエルフが首をかしげる。

 そもそも、神々の内乱とはどういう性質のモノなのか。ここまでの経緯から、てっきりと破壊神側が他の神々に侵略をしかけたのだと思いこんでいたのだが、どうにもそうではなさそうだと、ロ○コンの応答からキングエルフは考えを改めた。


 もっともこの都市に起こっている事実は女エルフが破壊神の盟友から聞かされた通り。神々が残した都市を、何者かが乗っ取り無理矢理争わせているのである。

 しかしながら、それをキングエルフたちは知らない――。


 ここはやはり当時者に詳しい話は聞くに限る。


「すまないがロ○コン、詳しくことの経緯を教えてくれないか。私たちとしても、事情を知らずに君たちと戦いたくはない」


「……あれ? もしかして、そんなに悪い人じゃない?」


「悪いかどうかは分からないかが、人ではないのは確かだな」


 そんなくだらないことを言いつつ、キングエルフはロボコンの前に腰を下ろす。

 戦いはまず敵を知ることから。ここまで馬鹿馬鹿しい戦いぶりを見せてきたキングエルフだったが、そこは作中でも屈指の人格者。エルフの里をおさめる長だけはあって、こういう場面でも意外と冷静だった。


 彼のそんな姿に、へぇと仮面の騎士や少年勇者が感心する。


「アイツ、ただの勢いだけのギャグキャラじゃなかったんだな」


「ですね。ちょっとびっくりしました」


『やれやれ、最初からそうやってくれればいいものの。まったく手間のかかる男だ』


 クルー達の口からそんな言葉が漏れる中、キングエルフは真面目な顔つきでロ○コンに向き合うのだった。

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