第1077話 どエルフさんと緊急魔法少女

【前回のあらすじ】


 襲い来る銀色のスケルトン。

 男騎士の献身によりなんとか窮地と風呂場を脱した女エルフ達。スケルトンの弱点を上手く利用し、なんとかカプセルホテルから脱出すると、そのまま彼女達は視界の開けている屋上へと向かった。


 そう――全裸で。


「いや、そこ強調する所じゃないでしょ」


 ついにそういう趣味に目覚めてしまった女エルフ。

 自分の恥ずかしい姿を、人に見られる快感に目覚めてしまった彼女は、いったいこれからどこへ行こうというのか。流れ流れて流されて、ついにここまで来たかどエルフさん。兄と同じ血がやっぱり彼女にも流れていたのだ――。


 という冗談はさておき。


 着の身着のままというか着替える暇もなかったというか、宿屋の外に飛び出した女エルフたちを待っていたのは、巨大な人型のモンスター。高層ビルにも迫る背丈のある巨人を前にして、彼女達は戦慄した。


 そして、そんな女エルフ達を、巨人が放った強烈なビームが襲う。


 かろうじて階段から飛び降りてビームの直撃を避けた女エルフと新女王だが、どうするどうなるどエルフさん。はたして、この状況から助かる方法はあるのか――。


◇ ◇ ◇ ◇


「モーラさん!!」


 溶けた階段へと続く扉の前。銀色のスケルトンを屠った男騎士が、遅れて女エルフ達に追いついた。しかし、既に女エルフは夜の街の空に消え、割れた窓から吹き込むビル風の音しかそこにはない。


 まさか間に合わなかったのか。

 女エルフを守ることができなかったのか。

 男騎士の手が後悔に震える。


 壁に拳をぶつければ、殴られた箇所が大きくめり込む。コンクリート。それなりの強度があるそれを砕いて、男騎士が叫び声を上げる。


 無念の咆哮。

 愛した女への手向けにはいささか無骨。

 しかし、そうすることしか英雄であってもただの人間に過ぎない、男騎士にはできなかった。


 この大陸にはびこる強大な神の力の前には人間の力など顔にたかる羽虫も同然。圧倒的な力の前に男騎士は戦慄した。


「くそっ、モーラさん。俺が、もっと上手く立ち回れていたら――」


「ちょっとぉっ!! いきなりそんな光線攻撃卑怯じゃないのよ!! そういうのは先に関係ない所を撃って、威力を示してから仕掛けなさいよね!!」


 何故だ。

 夜闇に消えたはずの女エルフの声に男騎士が顔を上げる。

 開け放たれたカプセルホテルの扉の向こう側、星とビルの光が煌めく夜の街。その中を、淡い光を身体に纏って飛ぶ影が見えた。


 ショッキングピンクの光を放って夜空を翔るのは白き衣を纏った女。

 金色の髪に白い肌、フリフリの服にウワキツなルックス。

 そう、そこに飛んでいたのは紛れもない――。


「バカな!! 魔法少女ウワキツモーラだと!!」


「ナチュラルにその名前を呼ぶな!! もうっ、いきなりだったから、できるか心配だったけれど、ギリギリの所で変身できたわ!!」


 魔法少女に変身した女エルフであった。


 当初は、魔法少女勝負に限定して変身していたはずの女エルフ。

 しかしながら、ことあるごとに変身するうちに、そういう設定とかもうないなったんですかね。ナチュラルに彼女は魔法少女になると、その不思議パワーで落下死という運命を回避した。


 もちろん腕の中には新女王。

 きゅうと目を回して、彼女は意識を失っていた。

 そんな彼女を下ろすべく、女エルフが男騎士の待つ扉の前へと飛び込んでくる。


「モーラさん!! よかった、無事だったんだな!!」


「このくらいのことでやられるほどやわじゃないわよ。とはいえ、状況が絶望的なのには変わりないけれどね」


「いったい、なんなんだこの銀色のロボットとあの巨大なロボットは」


「……分からないけれど、やるしか無いわよ」


 新女王をお願いと、女エルフが男騎士に彼女を預けて再び夜闇の中へと飛び出す。箒もロッドも無しに空を飛ぶのはまさしく現代的魔法少女。

 ファンタジー世界よりも、ビルの谷間の方がちょっとその姿が映えた。


 そんな彼女を狙うように、地面をのたうち回っていた触手がいっせいに躍りかかる。次々に襲い来る巨大な鞭の群れを、女エルフは器用に交わすと巨人に肉薄した。


「えぇいっ!! どこまで魔法少女の力が通じるか分からないけれど、やってやるわよ!! 食らいなさい――!!」


 どこからともなく取り出したロッド。

 それを構えて女エルフが叫ぶ。

 先端がピンク色に光ったかと思えば、光の柱が巨人の頭部を吹き飛ばした。


 ハイ○ガ粒子砲。

 魔法少女モードに入った女エルフの得意技を受けて、巨人の身体が激しく揺れる。


 やったか、そう思って杖を引いた女エルフの目の前で――。


「なぁっ!! バカな、再生している!?」


 巨人の身体を小さな触手がのたうち回ったかと思えば、次々にその身体が修復されていく。金属の身体をどうやって復元しているのか。一瞬にして、巨人は元通り。いや、ハイ○ガ粒子砲を撃ち込まれる前より、一回り大きくなっていた。


「なによそれ、アレ、人の形をしているように見えて、実はスライムだとでもいうの? 控えめに言ってもデュラハンでしょ?」


『いや違う。アレは巨大な機械鎧だ!!』


 空の上から声がする。

 その独特のそして忘れようと思っても忘れられない声に、女エルフがはっとその方向を見上げた。北側。夜空に浮かぶ月を背にして、飛ぶ何かが見える。


 白く四角いそれは方舟。

 鋼の飛行船。女エルフ達は初めて見るが――中央連邦共和国の空に突如として現われた神からの使者、宇宙戦艦オーカマに間違いなかった。


 そして、それが来たということは――。


『セクシー!!!! エルフ!!!!』


「嘘でしょ!? 偽物だけでも厄介だって言うのに!!」


 夜空を裂くのは金色の軌跡。黄金の髪と黄金のオーラ、そして、白色のふんどしをたなびかせて、そいつは女エルフの危機に駆けつけた。


 エルフの中のエルフ。


 頼れる兄貴エルフ。


 まさしくキング。エルフの王。奴の名は――。


「キングエルフ!! 参戦!!」


「なんで出てくんのよアンタが!! 中央大陸に戻ったんじゃないの!?」


「我が妹フェラリアよ!! 今は言い争っている場合ではない!! それより、この自己増殖型機械鎧――デビルほにャンダムを止めなくては!!」


「ぼかし方が雑!!」


 キングエルフ。女エルフの兄にして、その身一つで戦う肉弾戦エルフであった。


「というか!! なにアンタ普通に飛んでんのよ!! どういうこと!!」


「エルフリアン柔術を極めれば、空を飛ぶことなど自由自在!! そして、ラスボスクラスのロボットユニットと、生身で戦うことも可能!!」


「お願いだから仕事をして世界観!!」


 いまさらな要求であった。

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