第997話 どエルフさんと異世界オンエアバトル

【前回のあらすじ】


 オンエアバトルとは!!


 私たち昭和生まれギリギリ世代の青春をかっさらった伝説の番組である!!

 土曜日の深夜に放送されるそれは、今はもう有名になって色んな番組にひっぱりだこな芸人達が、毎回毎回自慢の持ちネタで鎬を削るガチンコお笑い戦場!!


 タカ○シ、ます○か、ア○ジャッシュ、ドラン○ドラゴン、バナ○マン、そして時代が産んだ奇跡のピン芸人――ダンディ○野。そう、あの時代の空気、今の笑いを育んだ原点が、まさしくその番組にはあったのだ。


 あぁ、俺たちの青春オンエアバトル。

 今はもうなくなってしまったオンエアバトル。

 あの熱い日々を僕は忘れない。今まで、ネタにするまで忘れていたけれど、きっと忘れないんだ。


「いや、おっさんの懐古なんて聞いても、今の子達にはなんのこっちゃでしょ。やめなさいよそういうわかりにくいネタ」


 たとえわかりにくくても、やってしまうのがギャグ小説書きなんですよ。


 とかまぁ言いましたけれど、本編は全然そんなの知らなくてもみれますので安心してください。M-1をイメージしていただければ大丈夫だと思います。


◇ ◇ ◇ ◇


「さぁ、エントリーナンバー1番!! 遅れて来たお笑いリーサルウエポン!! こいつの笑いに一度ハマっちまったらもうおしまいよ!! マニアックでコアな笑いで打ち抜いてくるこいつの名前は――」


「なんか本格的な前口上ですね」


「気合い入ってるんだぞ」


「おいおいおい、なんかがんばってるにぇ。期待しちゃっていいんじゃにぇ」


「だからエリィ、口調戻して。そっちでやられる」


「パァアアアアアアション店主!!」


 ガンという音ともにステージの底が開く。ひょこりと出来たのは中肉中背の男。白いポロシャツに黒いスラックス。なんとも小綺麗な格好。


 けれどもその顔に、男騎士達は見覚えがある。

 これまでの冒険を通して何度も何度も目にしてきている。


 いや、冒険以外でも割と目にする。第八部ではあまり出番がなかったけれども、本作品のレギュラーキャラと言ってもいい存在。


 作者もカウントしていないが、実に一年ぶりくらいになる登場のそいつは――。


「「「「て、店主!!」」」」


「どうも、パッション店主です。皆さん、元気にしていらっしゃいますか」


 男騎士達のなじみの道具屋の店主だった。

 エルフ好き好き男騎士と同じくこの作品の狂気を担当する男。


 エルフメイト店主であった。


 なぜ彼がここにいるのか。

 どうして男騎士達がやっとの思い出たどり着いた南の大陸に、何食わぬ顔をして到着しているのか。意味が分からず、皆、目をしばたたかせる。


 けれどもそんな男騎士達の驚きを無視して、店主はすぐさまネタをはじめた。


「皆さん、店主はね、これでも大きな街で道具屋を営んでいるんですよ」


「なんかはじめたわよおい」


「店主さん、なんか久しぶりに見ますけれど、ちょっとやつれましたかね?」


「だぞ。なんていうか、いつものギラギラした覇気がないんだぞ」


「……えっと、私はあまりお会いしたことがないので、よく分かりませんね」


「来る日も来る日も客相手に愛想を振りまいて振りまいて。店主、ちょっとそういうのに疲れちゃってるんですよね。客商売なんだから、お客様は大事にしなくちゃいけないっていうのは分かるんです。けれど、もういいんじゃないかと。そこまで仕事にパッション傾ける必要ないんじゃないかと、思っちゃうんですね」


 しょんぼり肩を落とす店主。

 どうしたのだろうか、いつもだったら女エルフを男騎士以上におちょくり返してくる彼なのに、このしおらしさはどういうことか。


 ここからまさかエルフ弄りが飛び出すのか。

 はたまた、何か強烈な持ちネタが飛び出すのか。

 今までにない展開に、思わず女エルフが杖を握って身構える。


 すると店主、ゆっくりと顔を上げて女エルフの方を見る。

 その瞳にはやはり生気がない。いつもエネルギッシュに活動している彼のそんな姿に、冷たいものが女エルフの背中を伝った。


 そして――。


「あ、そうそう、エルフといえばですね。つい先日、うちに久しぶりにエルフの客がやって来たんですよ。冒険者、それも女同士っていう珍しい組み合わせで」


「終わりかい!!」


 女エルフがたまらず吼えた。

 意味ありげな話をしておいて、唐突にそれを終わらせる。意味もなく、オチもない、関西人が一番嫌う話の締め方に、女エルフがたまらずキレていた。


 話し出したからにはちゃんとオチを付けんかい。

 弱くてもいいから、ちゃんと落とさんかい。


 関西的な脳味噌をしている女エルフとして、それは耐えられない感じの暴挙であった。思わず杖でツッコミを入れる感じの奴であった。


 そう、感のいい方ならおわかりだろう。


「これはまさか、オーディエンスからのツッコミ待ち!!」


「だぞ!! 観客にツッコミを入れさせて笑いを取るタイプのギャグ!!」


「ピン芸人にありがちな、けれども使い所が難しくてダダ滑りが発生する、そういうタイプの笑い!!」


「おもいっきり滑っとるやないかい!!」


「……店主ットパペット!!」


「違うパロ元やろがい!! ピン芸人しか共通点がない!!」


 そうピン芸人はピン芸人でも違う奴だった。落とし方のパロ元ブレブレだった。

 雑なパロディすな。そんなツッコミも入りそうな、勢いだけの一発芸であった。


 だいたいすべったら○ペットマペットって言っておけば笑って許されるんだよな。それかゲ○ツ。そうい所がオンバトの空気感が半端なかった。


 半端なかったが、観客にツッコませるタイプの笑いは鬼門だった。

 人数が少なすぎて、笑いながらツッコむことができない。どうしても、ツッコミに回った観客が冷静になってしまう奴であった。


「今のを耐えるとは、なかなかやりますね。流石はどエルフさんです、さすがです」


「なにが流石じゃい!! こんなんボケ側のネタがふわふわ過ぎて笑ってる間もあらへんわい!! もっとちゃんとした芸人連れてこんかい!!」


「だぞ、身内にツッコミ芸人が居てくれて助かるんだぞ」


「これなら笑う前にツッコミ入れてくれるから、なんとかなりそうですね」


「流石ですお義姉さま!!」


「全然嬉しくないわい!! というか、この調子でツッコミやらされる身にもならんかい!! こんなんやってられるか!!」

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