第988話 どエルフさんと潜入五人戦隊
【前回のあらすじ】
「「「「密着二四時間。絶対に笑ってはいけない秘密戦隊???」」」」
女エルフ達、年末にやってるお笑い特番のようなミッションに巻き込まれる。
破壊神ライダーンを奉じる三都市、頑張れロ○コン村、怪人製造基地都市ダイナモ市、破壊兵器工廠都市イーグル市。その都市に侵入して、女エルフ達はテロ活動をするように、男ダークエルフとマザーコンピューターから頼まれた。
まぁ、依頼を受けると言ったのは男騎士である。
その依頼がどんなものであろうと、今更受けることに疑問はない。
問題なのは――。
「なんで絶対に笑ってはいけないのよ?」
そのミッションを決定的にお笑い方面に印象付けているその文言である。
なぜ潜入ミッションで笑ってはいけないのか。いや、もちろん真面目なミッションなのだから笑ってこなせるものではないかもしれないが、笑いなんてふとした瞬間に漏れるものではないのか。
禁止するにはそれなりの理由があるのでは。
はたしてそんな女エルフの疑問に対する答えは――。
「破壊神ライダーンは融通の利かない神でして、笑いに対して厳しいのです。それで、市内では人が笑わないように監視を行っており、もし違反が見つかった場合即座に捕まってケツバットをされるんですよ」
まさに年末のお笑い特番のようなしょーもなさすぎる理由であった。
◇ ◇ ◇ ◇
「とまぁそういう訳でして、潜入に際して皆さんは決して笑わないように注意をしていただきたいのです。万が一にも笑ってしまいますと、懲罰部隊にその場でお尻をスパーンされてしまいますので」
「いや、お尻スパーンされたからってなんだってのよ!! それで何か問題になるの!! 別に何もならないわよね!! むしろ、それくらいで済むなら別に構わないじゃないのよ!!」
「だぞ、おしりぺんぺん怖いんだぞ」
「そうですね。いい歳した妙齢の女性がスパン――お尻ペンペンなんて、羞恥心で死んでしまいます。いっそ殺してくれた方が、よっぽどいいというもの」
「そんなことをされるくらいなら、女王たる私は死を選びます。くっ殺案件ですよこんなの。許されざる蛮行です。やはり、滅ぼすべきでは破壊神ライダーン」
「嘘でしょアンタ達!!」
女エルフを除いて、全員が懲罰の内容に顔をしかめた。
まぁ、言わんとすることは分からないし、気持ちは分からないでもないが、そうではないだろうと女エルフが思わず白目を剥く。
いかんせん、いつものトンチキ展開であった。
例によって周りに流される女エルフ。皆がそれでいいというのなら、私もそれでいいという感じに、しぶしぶながら鉾を収めた。
しかし、まだ彼女はこの件について疑念を抱いていた――。
「もう一つ、秘密戦隊ってのはどういうこと? そもそもなんなの戦隊って?」
「あ、それは私も気になりましたね」
「だぞだぞ。聞き覚えのない言葉なんだぞ」
「何かしらの兵種みたいなものでしょうか?」
次に女エルフが食いついたのは戦隊という言葉だった。
そう、この世界には戦隊ヒーローという存在がない。典型的なナーロッパであるこのファンタジー世界には、日アサもなければ戦隊モノという概念すらない。
いや、創作としてそのようなモノ――こちらの世界と入れ違いに、この世界では現代社会のような世界を描いた作品をファンタジーとして認識している――がないわけではないが、それでも戦隊文化というものは彼女たちの知識になかった。
そも戦隊とはなんぞや。
現代人でも、日アサを見ない民にはなかなか理解できない問いが、鋭く男ダークエルフ達に飛ぶ。なんでそんなものに化けなくてはいけないのか、そして、化けるにしてもどうすればいいのか。
さぁ、説明してくれと、女エルフが眉をつり上げれば――。
「いい質問ですね。では、まずはこちらをご覧ください」
男ダークエルフが、まるでこの展開を見越していたとばかりに微笑んだ。
途端、ホログラムの像が揺らいで、またしても映像が流される。
ゆるゆるとそこに表示されたのは――カラフルな色味の服を身に纏った、五人の人間の姿だった。
そう、それこそは間違いない。
『秘密戦隊ゴニンジャー!!』
派手な爆発音とこってこってのロゴ。彼らこそ、なんかどこかで見たことある、パチモノ感溢れる秘密戦隊であった。
そして、流れている映像は、日アサのオープニング的なノリの奴であった。
『人類の未来を守るため♪ 世界の平和を守るため♪ 立ち上がった五人の、五人の、五人の、五人の、五人の五人のヒーロー♪』
『でゅっわっわ♪』
『レッドンジャーは岩砕く♪ 唸れ鉄拳、貫けキック♪』
『うーぱぱ♪』
『ブルーンジャーはスナイパー♪ エイム完璧、ヘッドショット♪』
『お見事♪』
『イエローンジャー大食漢♪ カレーは飲み物、油は友達♪』
『ごっつぁんです♪』
『グリーンジャーはすぐに病院に行け♪』
『健康診断で要再検査って出たけれど、まだまだ大丈夫♪ やれるやれる♪』
『ピンクンジャーはセンシティブ♪ オゥ、セクシーセクシィー♪ ボインボイン♪ アハーン♪ カムォーン、ボーイ♪』
『お姉さんが優しく教えてあげる♪』
『打ち砕け、知恵の神アリスト・F・テレス♪ なにがすこしふしぎだ馬鹿野郎♪ お前のせいでSFの定義が揺らいで、本格でやっている奴らが迫害される歴史がこれから待っているんだぞ、責任取れるのかこの惨状♪』
『あと、普通にトラウマです短編集♪』
『ミノタウロスとか、カンビュセスとか、他にもいろいろとトラウマな未来になるのを防ぐため♪ 戦え、戦え、俺たち秘密戦隊ゴニンジャー♪』
パパラと止めのメロディが流れる。
少し遅れて、またしても大爆発。
完璧に日アサのオープニングであった。
もう一つの方と合せて、ここ数十年途切れることなく続いている現代の文化、日アサを煮染めた映像だった。これを見ればもう、秘密戦隊がどういうものか一目瞭然という映像であった。
「いや、なんなのよこれ!? どういうこと、どういうこと、どういうこと!?」
いや、分からなかった。
あまりにも女エルフたちの日常からかけ離れていて、まったく分からなかった。
むしろなんというか、ノリと勢いとバカバカしさしか伝わってこなかった。
ただし、一つだけ伝わったことがある――。
「なるほど、モーラさんはピンクンジャーですね」
「だぞ、間違いないんだぞ」
「お姉さま以外に、ピンクンジャー似合う人はいないでしょうね。オウ、センシティブ、セクシーセクシィー♪」
「なんでそうなるのよ!! いや、確かに私がそうなる気はするけれど!! 嫌よ、こんなの普通に嫌だからね!!」
女エルフは考えるまでもなくピンクポジ。
それは、戦隊を理解できない彼女達にも一目で分かった。
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