第971話 ど男騎士さんと過去の英雄の場合

【前回のあらすじ】


 知恵の神アリスト・F・テレスと破壊神ライダーン。

 人造神に人の設計図を渡された二つの神は、競い合い争いあうことにより、人の種としての完成を目指していた。そして、それはアリスト・F・テレスたちが逃がした人類たちが、神々に認められても終わらなかった。


 未だ繰り広げられる新たな人類を巡る神々と都市の攻防。

 そのお膝元の都市同士の争いに巻き込まれてしまった男騎士たち。しかしながら、もしも熱帯密林都市ア・マゾ・ンが滅びれば、ライダーンたちの矛先は現在の人類に向けられることになるだろう。


 これは人類の過去を守る戦いと同時に、未来を守るための戦いでもあった。


 かくして逃げ場のない状況に追い込まれてしまった男騎士。

 パーティーリーダーにして、現在の人類の希望である彼は、ア・マゾ・ンを司っているマザーコンピューターの求めに従い、この戦いに介入することを選んだ。


 はたして、ここに人類と、異なる進化を果たした人類による戦いの幕が上がる。

 男騎士達はライダーンが造った異なる人類を打倒し、人類の未来を勝ち取ることが出来るのだろうか――。


◇ ◇ ◇ ◇


「我々の申し出を受け入れてくれたことを感謝するよ勇者ティト。ありがとう、君のおかげでこの都市と人類の未来は守られるだろう」


 君たちにやってもらいたいミッションについては追って説明する。

 今は旅の疲れもあるだろう。部屋を用意したのでそちらで休んでくれ。そう、男騎士達に告げるマザーコンピューター。


 さぁこちらですと、動けぬ巨大な鉄塊に変わって歩み出たのは男ダークエルフ。

 再び床に光が灯ったかと思うと、それは男騎士達が居る場所から見て右手側の壁へと続いて行く。マットな色味の壁に、床の光と同じ緑の模様が走ったかと思えば、そこにぽっかりと穴が開いた。


 行くしかないかと男騎士、仲間達の先陣を切って彼は男ダークエルフに続く。


「……おい、ティト。ちょっといいか」


「……なんだ、エロス」


 その途中、彼の腰に結わえられている魔剣が、突然話しかけてきた。


 しかも念話である。


 よほどの事がない限り、この魔剣がそのように脳に直接話しかけてくるようなことはない。きっと何かあるのだろう。


 そして男騎士も、この一連のやりとりにどうにも引っかかりを覚えていた。


 うまく話を丸め込まれた感。


 まるで、男騎士達がこうすることを予測していたような速やかな流れ。

 困っているのは間違いなく、人類の危機にも間違いなかったので引き受けたが、内心で男騎士の直観が何かあると告げていた。


 そもそも――。


「この話、俺たちが謁見した時にも聞かされたぜ。今が人類の危機だってな」


「……やはりか」


 なぜ、男騎士に先だって神々に謁見を果たしたエロスが黙っているのか、そこに男騎士は妙な疑問を抱いていたのだ。彼の沈黙は、知恵の神アリスト・F・テレスに対する不審以外の何物でもない。


 しかしながら、あの場でそれを言い出すことはできなかった。

 もし念で話していたとしても逆に男騎士がマザーコンピューターから不審を招いたことだろう。引き受けてしまってからの会話になったのは残念だが、あの場面ではこうするしかない出来事だった。


 そのまま男騎士達は念話を続ける。


「まぁ、二百年やそこらでは状況が変わらないのかもしれないがよう、きっとあの調子だと、ここを訪れる勇者たち全員に粉かけてる感じだぜ」


「アリスト・F・テレスに謁見するための試練ということは?」


「ねえよ、茶番じゃないのは間違いない。それは俺も、ここのマザーコンピューターをすっ飛ばして、アリスト・F・テレスに謁見しているから分かる。アイツから、ここのことをねちねち言われたのは、今でもちょっと業腹だよ。ほんと、そんなの自分でなんとかしろってんだよ」


「そもそもエロスはなんでまた、この依頼を断ったんだ?」


 決まってるだろう、直近の問題に関係ないからだよと彼は突っぱねる。

 なるほどいかにも自分勝手な大英雄らしい回答である。とはいえ、簡単に人類の未来を放り出す彼に、男騎士は苦笑いをするほかなかった。


「俺は魔神を倒すために戦ってるんだ、人類の未来がどうとかは関係ない。もしライダーンの奴らが責めてきたらその時はその時だ。俺の代わりに戦う勇者がやればいいだけだ。滅びるなら勝手に滅びるだろう。そういうことだ」


「なかなか、そんな簡単に割り切れる話じゃないだろう?」


「割り切るってえの。それでなくてもその前に、俺はライダーンと謁見してたんだ」


 そう。

 そして、もう一つ、男騎士が疑問に思っていたことがあった。


 本当に破壊神ライダーンは、自分が作った人類で、今の人類を滅ぼそうなどと考えているのかということだ。曲がりなりにも、彼もまた七つの神々の一柱である。人類を庇護することを選択した彼が、今更敵にまわるのがいささか引っかかった。


 それでなくとも、男騎士も彼の使徒と会っている。


「センリのこともある。少し引っかかったんだ。破壊神ライダーンは、本当に人を滅ぼすような神なのか?」


「そうよそれよ。俺も必要以上の話はしなかったがな――そんな素振りは微塵も感じなかった。あの神はなんてーかな、神々の執行役っていう側面が強すぎて、人間味を感じない。それがかえって、そういう風なことをしでかしそうでもあるんだが、ただ話のう通じないような相手でもない」


 どうにもこの話、相手をする破壊神側の情報が乏しい。

 アリスト・F・テレスの現し身であるマザーコンピューターは、破壊神側が人類を滅ぼそうとすると言ったが、どこまでその話を信じていいものか。


 そんな状況で動いて良いのか。

 破壊神の思惑として告げられたそれは、彼を滅ぼすための嘘ではないのか。

 騙されて男騎士がライダーンたちの都市を破壊した所で、何がどうなるかまでは分からないが、重々その辺りは気にかける必要があった。


 参ったなと、男騎士の額に汗が浮き上がる。


 思いがけず果たした神――と同一に近い存在との謁見。それに、驚かされたということもあるが、なにやらきな臭い謀略の匂いにも驚いた。


 ともすると神々の中に裏切り者がいるという話も、より現実味を帯びてくる。


「これはようよう気を引き締めてかかった方がいいかもしれないな」


「だな。うっかり悪事の片棒を担がされないように気をつけろ」


 ただでさえお前はお人好しなんだからと念を押される男騎士。

 分かったよと心で苦笑いをしながら、彼は魔剣の柄をこつんと叩いた。

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