第916話 ど男騎士さんと暴走状態
【前回のあらすじ】
赫青鬼アンガユイヌと魂を融合させ、彼女と感覚を共有することで、鬼の力をコントロールする方法を学ぶことになった男騎士。
流石の鬼。男騎士の身体に取り憑いた鬼族の姫は、見事にその力を引き出すと、鬼の姿に変じることのないまま、その身体を強化してみせた。
彼女の手本を直に身体で感じた男騎士。
その感覚が残ったまま、すぐに自分も真似て鬼の力を解放してみる。
人間の身体のまま、徐々にその身に力が満ちていく。
その腹にある、鬼族の呪いを持っていることを示す紋章。それによく似た模様が、彼の身体をゆっくりと包み始める。
これは上手くいくかと思ったその時。
「ぐああっ!!」
「うそ、ティトの身体が!! 大きく膨れ上がって!!」
「くっ、コントロールに失敗しています!! モーラさん、少し離れて!! すぐに私が魂に介入して――くぅっ!!」
「アンガユイヌさん!?」
ほんの少し、ちょっとの間、瞬きをするような時間。
そして油断。
ただそれだけで、男騎士の身体は鬼族の呪いをコントロールできなくなり、引き出した力が暴走し始めるのだった。
はたして男騎士は、鬼の力をコントロールできるようになるのか。
この試練を無事に乗り越えることができるのか。
◇ ◇ ◇ ◇
「いやぁっ!! ティトぉッ!!」
男騎士の身体を乗っ取っているはずの鬼族の姫。
そんな彼女のつんざくような悲鳴に、女エルフは思わず声を荒げた。
彼女が男騎士の魂と融合しているから問題なかったのではないのか。もし、鬼の力が暴走して、男騎士がコントロール不能になった時には、彼女が助けてくれるはずではなかったのか。
そもそも、さきほどの彼女の悲鳴はいったいなんなのか。
紫色の魔力に身体が包まれる男騎士。
女の身体にTSしたそれが、徐々に紫色に変色していく。
さきほど、鬼族の姫がしてみせたのとは明らかに異なる。
身体に広がっていた模様は、男騎士の悲鳴と鬼族の姫の悲鳴の後に一瞬にして解け、代わりにその肌が全体的に紫に変色していく。
男騎士が以前、鬼に変身したときと同じ。
いや、その時よりもこれは激しい。
「……馬鹿な!! まさか、ティトさんの身体の中で、私の呪いがここまで肥大していただなんて!!」
「肥大!? どういうことなの、アンガユイヌさん!?」
「……私が呪いを放ってから既に何百年という時が経過しています。その間に、私の呪いは既に私だけのものではなく、この呪いをその身に受けた、人々の怨嗟も取り込んで成長していたのです」
つまり、いささか鬼族の姫の見立てが甘かったのだ。
自分の編み出した呪いである。
その特性、その威力、その効果については、誰よりも分かっているつもりだった鬼族の姫。だが、その認識はつい先ほど、男騎士の身体をコントロールしようとして失敗したことで、間違いだということが分かった。
数百年による放浪により、呪いはかつて彼女が放った時よりも強大に、そしてより醜悪に進化していたのだ。
その言葉に、女エルフが目を剥く。
「ちょっと待って!! それじゃ、ティトの身体の鬼の力をコントロールできないっていうこと!? さっきは貴方、上手くコントロールできていたじゃない!!」
「……さきほど力を使ったときは、私がかつてコントロールしていた領域を出ない範囲での力の行使でした。だから見誤った。ティトさんの身体の中に流れている呪いの絶対量。それを量ることを忘れていたんです」
「ふざけないで!! じゃぁ、このままティトを暴走させるしかないってこと!!」
「そんなことはもちろんさせません――つぅッ!!」
気丈な言葉を吐いたアンガユイヌ。
しかしながら、次に出て来た悲鳴が、彼女のその言葉がただの強がりであることを女エルフに思い知らせる。
さらに――。
「ば、馬鹿な!! 呪いの産みの親であるこの私を、呪い自体が拒んでいる!!」
「なっ!! どういうことなの、アンガユイヌさん!!」
「だめっ!! ティトさんの身体から、追い出される!! 今、ティトさんの身体から私が出たら、ティトさんは、ティトさんは――!!」
強大な鬼の呪いに呑み込まれてしまう。
そう言った矢先、男騎士の身体からぬるりと、鬼族の姫の魂が輩出された。
そんなと絶句する女エルフに向かって飛び出してくる鬼族の姫。
あわてて彼女の背中に手を当てて、それを受け止めた女エルフだったが、彼女の安否より先に、パートナーの方に目が行った。
呪いをコントロールする重要な要素、鬼族の姫を失った男騎士。
その身体は、見る見ると肥大していく。
「どうなるのアンガユイヌさん!? このままだとティトはどうなっちゃうの!?」
「……くっ、このまま、人の状態のままで鬼族の呪いのエネルギーに晒されれば、まず無傷ではすみません」
「無傷じゃすまないって!!」
「生身なら、再起不能のダメージを負うことになります。魂の状態でもその身に融合した呪いのパスから、暴走したエネルギーが流入して、その身体を焼くことになる」
「それって!!」
「……えぇ、最悪魂が消滅します」
そんなと、女エルフが呟く。
嘘だと言ってとばかりに彼女は鬼族の姫に今にも泣きそうな視線を向ける。
だが、それに、鬼族の姫は悔しそうに歯をくいしばるばかり。
もはや打つ手は無いのか。
どうしようもないのか。
絶望に、女エルフが打ちひしがれそうになったその時――。
「そうはさせないであります!!」
「ティトどん!! お前をみすみすしなせはせん!!」
「モォーッ!!」
謎の声が辺りに木霊したかと否や、三つの光り輝く何かが暴走する男騎士に向かって飛び交った。あれは、そう、確か女エルフの記憶が確かならば――。
「……嘘でしょ!! どうして、あのアイテムが!! まさか、アイテムに宿った、前の持ち主の意思だとでも言うの!!」
これまでの旅で彼らが取得してきた、曰くつきのアイテムだった。
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