第895話 ど男騎士さんと聖剣の呪い
【前回のあらすじ】
磨羯宮の間で自らの性的嗜好を赤裸々に叫んだ男騎士。
この手の話はしかたないとはいえ、微妙に属性が被っていることが気にかかる女エルフ。パーティーメンバーがいないこともあり、彼女はちょっと男騎士に対して拗ねてみせるのだった。
久しぶりにヒロインらしくかわいげのある所を見せる女エルフ三百歳。
「おい、別に今、年齢関係ないやろ!!」
いい歳して脳みそがお花畑なのはどっちなのだろうか。
まぁ、それはさておき。
ちょっと拗ねた彼女を、恋愛経験豊富な魔剣が、彼女の母とのことを交えてそれとなく晒す。好きになった人物が、自分の理想の人物像とは限らない。そんな当たり前の言葉を受けて、女エルフはちょっと気持ちを持ち直すのだった。
はたして、男騎士パーティのちょっとした心のすれ違いは修復された。
さて次のフロアに進もうかとしたその時――。
「む、なんだ、特選エクスカリバーは実態を伴った武器だったのか。これはなかなか、エロスにも勝るとも劣らない名剣――あばばばばあばっばばばっば!!」
戦士の性か、それとも冒険者の性か。
敵が落としていったアイテムを拾った男騎士が、謎の光に包まれた。
◇ ◇ ◇ ◇
冒険稼業をしていれば、罠にはまることはそう少なくない。
どれだけ注意していても、また、熟練の盗賊やスカウトを仲間にしていても、罠にひっかかることはある。
警戒しても、ちゃんとした調査をしても、それは人の目を欺いて仕掛けられている。なので、それに引っかかってしまうこと事態はさほど問題ではない。
罠にかかればそれをちゃんと無効化すればいいだけの話。
なので、特別今回、男騎士が落ちている剣に触れてしまったのは――冒険者として迂闊と断じることはできない行動だった。
とはいえ、まさか魔法トラップが発動するとは予想外。
男騎士、迂闊ではないが厄介なことになってしまったのは間違いない。
あびびびあばばばという男騎士の絶叫が辺りに木霊する。
「どどど、どうしよう! ティト! 大丈夫!」
その言葉に返事する余力もない。
悲鳴を上げ続ける事しかできないパートナーに、女エルフの顔が蒼白に染まる。握りしめた聖剣を離させればいいのか、それとも、破壊すればいいのか。
魔法系のトラップの解除について、パーティ内で任されている女エルフ。
だがしかし、このようなトラップは初めてだ。ミミックのような物体に擬態したモンスターにしては生体反応がない。そして、悲鳴を上げ続けるばかりで、特に男騎士にダメージが蓄積されているようにも見えない。
どうしたら――そう思っている間に、男騎士の身を包む光が弾けたかと思うと、彼が前のめりに倒れたのだった。
「ティト!!」
すぐさま、男騎士に駆け寄る女エルフ。
どうやら見た限り、ダメージがあるようには見えない。
肌はみずみずしく、装備にも傷や焦げなども見えない。
とりあえず、すぐに意識の有無を確認しなくては。
そう思って、男騎士の身体を表に返したその瞬間――。
「……は?」
「うぅーん、いったいなんだったんだ、さっきの身体を焦がすような衝撃は。あと、この、微妙に身体が重たい感じは……」
男騎士の寝ぼけた声が漏れる。
しかし、その声は甲高くなっていた。
さらに女エルフの目に飛び込んできた男騎士の姿は、見慣れぬものなっていた。
身体が重たいというか――重たそうなものが胸に震えているというか。
容姿端麗、健康的なボーイッシュな顔つきに、ボンキュッボンと出る所が出て、締まるべき所が締まった身体。何故か男騎士が倒れたそこには、女エルフが見知らぬ女の子が倒れていた。
着ている鎧は間違いなく男騎士なのだが――。
「これは、いったい」
「……なっ、なんだと!! ふざけんな、どうしてこんなことに!!」
「え、エロス!! あ、エロスはそのままね!! ってことは、これ、やっぱり!!」
「うーん? モーラさん、どうしたんだいったいそんなに慌てて? そうだ、何か、聖剣に呪い系の魔法がかかっていたみたいだが――ってなんだこの甲高い声」
起き上がった女騎士。
彼女は寝ぼけた感じで眦を擦ると、女エルフをぼうとした視線で見つめる。
甲高い声はともかく、口ぶりは男騎士とそっくり。
そしてなにより、男騎士の愛剣エロスを彼女は結わえている。
まさか、という、予感が女エルフの脳裏を過る。
そのまさかとう嫌な予感を共有したいとばかりに、その視線が男騎士の愛剣エロスに向かう。女エルフの不安げな表情を受けて、ことの次第を把握している魔剣が、困ったようなうなり声を上げた。
「まさか、こんなことになっちまうとは。モーラちゃんの思っている通りだ」
「……嘘でしょ」
「嘘でしょって、いったい何が起こったんだ? というか、なんか、さっきから身体がだるいのだが。いや、なんというか、鎧が重たいというか、身体がちょっと動き辛いというか。いや、逆に下半身はスースーとした身軽さが」
「いいの、そんな具体的なことは言わなくてもいいの!」
そう言って、女エルフは懐から手鏡を取り出す。折りたたみ式、冒険の中でも傷つきにくいよう、木造の枠に魔術的な補強を施したそれを開いて、その姿を乙女に見せると、彼女はその顔を蒼白に染めて引きつらせた。
えっ、という言葉が、磨羯宮に響き渡る。
「ちょ、ちょっと待て、これは、いったいどういうことだ。俺は、特選エクスカリバーを手にしただけだったのに」
「こっちが聞きたいわよ。なんで、剣に触れただけでこんなことに。いえ、呪いなのは分かるけれども、なんでこんな呪いを」
「おそらく、アーサーとゲントゥクの性的嗜好によるものだ。エクスカリバーはアーサーの愛剣。そこに、今回の合体で力が流入した結果、こんな予想もしていなかった、恐ろしい呪いを生み出してしまったに違いない」
それにしたって、これは、と、少女が頬をぺちぺちと叩く。
黒い髪はショートヘアー。しかしながら、手入れが充分でないのだろう、まるで獣のようにボサボサになっている。
そんな髪の隙間から、にょきりと伸びるのはエルフの特徴。とんがった耳。
それらを信じられないという感じに触って――それから、自分のたわわに実った胸を揉みしだく。その動きは、とてもしとやかな女性の動きとは思えない、荒っぽいものだった。もはや、わざわざ言うまでもないだろう。
「まさか、そんな、これはもしや――」
「えぇ、ティト、そのもしやよ」
「TS好きの執念が、まさか剣にこんな力を与えていたなんて。いったい誰が想像するかよ。ティトお前は今――」
女の子になっている。
再び、男騎士――あらため女騎士の悲鳴が磨羯宮に響いた。
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