第888話 ど魔剣さんとエロ卓の騎士

【前回のあらすじ】


 大英雄に取り憑いていたのは、バンコという天地創造の怪異。

 死して人々が住まう大陸に化したという超常の存在だった。


 しかしながら、それは本当の天地創造の物語とは異なる。

 七つの神々――海母神ミッテルたち、再び人々に関わりはじめた神々によって、否定された偽の神話。

 けれども、各地に分かれた人々が、等しく夢想した理想の神話だった。


 統一伝説パンゲア思想。


 どうしてか、遠く離れた地にあって、人は同じ神々の姿を想起する。

 そして、それはなにも神々だけではなく、英雄譚の内容やその人となりについても同じだった。


 かつて世界を救った英雄たち。

 その英雄譚にも、神が隠れた時代の神話と同じく、人々が共通して見た理想の物語があった。すなわち、多くの英雄達がその姿を一つに統合されたのは、そんな人々の希望によるもの。


 人が望みし、理想の王。あるいは英雄。

 それにより、古今東西のまれに見る英雄達の魂は、ここに一つにまとまって、男騎士達に立ち向かってきたのだった。


 さらに――。


「そして!! 人の夢は英雄だけに留まらない!! 多くの者が、英雄にふさわしい権威を求めた!! その権威の象徴である武器を求めた!!」


「……まさか!!」


「そう、これこそが、人が望みし全てを斬り裂く最強の剣!! 王者の剣――その名を『特選エクスカリバー』である!!」


 高級なのか高級じゃないのか、判断に困る聖剣まで人の望みは生み出していた。

 はたして『特選エクスカリバー』とはいったい何が『特選』なのか。


 訳の分からないまま、男騎士達の闘いが始まろうとしていた。


◇ ◇ ◇ ◇


 黄金に輝く聖剣。

 人の望みにより鍛えられた、王のための剣。

 それが『特選エクスカリバー』。


 それを掲げて振りかぶる、アーサー・カエサル・ラムセス・シャルルマーニュ・サカノウエ・ダビデ・バフバリ・アレクサンドロス・ゲントゥク。彼が間髪入れずにそれを振り下ろすと、マヌケな顔をしている男騎士達に向かって光の帯が伸びた。


 強烈な光の奔流。

 魔法少女勝負のハイメ○粒子砲を彷彿とさせる強烈なエネルギー波。あわてて男騎士は女エルフを抱き留めると、それを直撃紙一重のところで躱したのだった。


 ちょうど倒れ込むようにして攻撃を避けた男騎士達。

 振り返り、仰ぎ見れば、彼らが入ってきた磨羯宮の扉に、ばっくりと真円状に穴が開いていた。


 石造りのそれは粉々に砕けた――訳ではない。

 おそらく、光の帯の熱エネルギーによって溶かされたのだろう。

 でろでろと溶解し赤熱した元石が湯気を立てているのを目の当たりにして、男騎士達はその規格外の力に戦慄した。


 恐るべし大英雄。

 そして、恐るべし『特選エクスカリバー』。


「見たか、これが『特選エクスカリバー』の力だ」


「いや、力だって!!」


「無茶苦茶よ!! 剣なのにこんな魔力砲を放つだなんて!! こんな攻撃どうかしているわ!! 正々堂々と剣の腕で勝負するべきよ!!」


「なにを言っているんだ。剣の達人ともなれば――その先から光子ビームを放つことなど朝飯前。むしろビームを放てない方が未熟というもの」


 そうなの、と、女エルフの純粋な疑問の視線が男騎士に向く。

 そんな訳があるかと、男騎士は苦い顔をしてそれに応えた。


 当たり前である。

 剣からビームを放てる方がどうかしている。

 まるでさも当然という感じでアーサー・カエサル・ラムセス・シャルルマーニュ・サカノウエ・ダビデ・バフバリ・アレクサンドロス・ゲントゥクは言ったが、それは特殊な話だった。


 大英雄だからできるのか。

 あるいはアーサーだからできるのか。


 なんにしても、ここに男騎士と女エルフは、目の前の○金闘士の恐ろしさを見た気がした。この男、一筋縄では倒すことはできない。


 なにもかもが規格外。世界を救った男騎士とはいえ、はたして敵うだろうか。

 あの時は神々の加護もあったがはたして――。


 再び、男騎士の顔に弱気の陰が差すのは仕方がなかった。


「くっ、これが人が望みし英雄の力ということか。所詮、成り行きで世界を救った俺とでは格が違うというもの」


「……何を言っているのよティト!! 貴方も立派な英雄じゃない!! ちょっと強力な攻撃を受けたからって、そんな弱気になってどうするの!!」


「しかし、あんな光子ビーム俺には発することはできない!!」


「おいおいティト!! やる前から諦めてるんじゃねえよ!! お前らしくないぞ!!」


 そんな珍しく弱気な男騎士に声をかけたのは他でもない彼の愛剣。

 大英雄と彼らにとり憑く妖怪の正体を言い当てた、大英雄を相手にしてひけをとらないこれまた英雄。魔剣エロスこと勇者スコティであった。


 声だけしか聞こえない、剣だけの身。

 しかし、その声色には並々ならぬ覇気が満ちあふれている。

 なにか秘策がなければ、このような声はでないだろう。途端、悲嘆に暮れていた男騎士達の顔に、僅かばかり希望の色が灯った。


 そうだ、自分たちには頼りになる大英雄がついている。

 目の前の伝説の英雄達にもひけをとらない男が。

 神の野望を打ち砕いた、人類を救った英雄が。


「まぁ、確かに奴らはやっかいな相手だ。人類の希望が具現化した大英雄。たった一人でも相手をするのが大変なのに、それが集まってさらに強化されていやがる」


「……あぁ」


「どうにか、一人一人相手をできれば、話は別なんでしょうけど」


「けれどもなティト!! 奴らだけが人類の希望を集められる訳じゃないんだぜ!! バンコの能力を借りなくても、俺たちは――今を生きる人類の希望を集めて闘うことができるんだ!! その方法を、奇しくも俺様は知っている!!」


「本当か、エロス!?」


 人の希望を束ねた者に対抗するには、自分たちも人の希望を束ねれば良い。

 エロスの発言はもっともだった。


 しかしながら、女エルフが首を傾げる。

 そんな簡単に人の希望を集めることなどできるのだろうか。

 いやさ、できるとして、ここは海底、冥府の都市。そんな場所で、人の希望を集めることなどできるのだろうか。


 呼びかける人の影さえないというのに――。


「エロス。疑ってる訳じゃ無いけれど、大丈夫なの、その方法?」


「大丈夫だ。きっと、頭の回るモーラちゃんのことだ、こんな深海に人の希望を集めることができるのかとか、そういうことを心配しているんだろう?」


「……えぇ、まぁ、そうだけれど」


「だったら何も心配はない。なぜなら俺たちが集める希望ってのは、常にこの大地に満ちているものだから。いや、世界の半分――夜の時間に満ちているものだから」


 なんかいやなよかんがするぞ。

 そう思った時にはもう遅い。


 魔剣エロスの刀身が怪しくピンク色に光ったかと思うと、十三の輝く光が男騎士を取り巻くように現れていた。


 これは――と、呟く男騎士の前で、それは人の姿を成していく。


「これなるは人が望みし十三の希望の姿!! 十三人の希望を導く性騎士たち!!」


「性騎士だって!?」


「あ、これ、いつものダメなノリの奴」


「この世界に生きる男達が好みしエロスのジャンルを守護する英霊にして騎士!! その名を――エロ卓の騎士だ!!」


 また、ややっこしいことを。

 女エルフは頭を抱えた。

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