第869話 どワンコ教授とパパの教え

【前回のあらすじ】


 天蠍宮を守るのは、かつて南の王国の砂漠を支配したファラオ蠍の王スコーピオン・キング


 圧倒的なカリスマと王の風格でワンコ教授達を圧倒する彼。

 だが、ワンコ教授はそれに屈しない。

 毅然とした態度で古代の王に立ち向かった。


 その意気やヨシ。

 真っ向からワンコ教授の挑戦を受け止めて蠍の王スコーピオン・キング。彼は守護する天蠍宮を蠢動させると、そこに見事なステージを作り上げた。


 それなるは、古の時代に営まれていた伝統儀式。

 王の下へと至る――どきどきわくわくアトラクション。


 Pharao!!


 まるで某国民的肉体の限界に挑むアトラクション番組よろしく、様々な罠が待ち受けるそれを前にしてワンコ教授。

 考古学者としての血が騒ぐ。


 どこから取り出したか、帽子と縄を手にした彼女は――。


「待っているんだぞファラオ蠍の王スコーピオン・キング!! この僕、ケティ・ジョーンズが、必ずお前の所に辿り着いてみせるんだぞ!!」


 なんか変なスイッチが入ってしまうのだった。


 かくして、ここに――風雲ファラオ城どきどきケティ・ジョーンズ魔宮大脱出の幕が上がったのだった。


◇ ◇ ◇ ◇


「さーて、始まりました。数千年ぶりのお祭り騒ぎ、神前奉納アクティビティPharao。司会はこの私、神にしてファラオの忠実なる僕のアヌ○スと」


「アヌ○スの飲み友達、神前奉納試合のプロフェッショナル、オシリ○でおおくりいたします。いやー、それにしても、久しぶりですねPharao!!」


「もう何千年ぶりって感じですねぇ。王朝途絶えちゃってから、めっきりやらなくなっちゃいましたから。ぶっちゃけ、私ちょっと、今テンション上がってます」


「わかります。私もです」


 暢気な解説が怪奇メフィスト塔内に木霊する。

 こんな軽いノリでいいのかと困惑する新女王。


 しかしながら、そんな視線を向ける相手も、結構軽いノリになっている。

 いや、軽いというかノリノリというか。


「だぞ!! 古代に行われていた儀式に、自分から挑戦できるなんて感動なんだぞ!! これこそ、考古学者冥利に尽きるという奴なんだぞ!!」


「なんでそんなにノリノリなんですか、ケティさん」


「Pharaoは長らく、そのスポーツ性もさることながら大がかりな仕組みから、古代最大の催し物として有名だったんだぞ!! これにまさか、現代人の僕が参加することができるだなんて――これがテンション上がらずにいられるかというものなんだぞ!!」


 薄々と気がついてはいたけれども、ワンコ教授も流石にこのパーティのメンバーだけあって変人なんだなという顔をする新女王。

 自分の性癖は棚上げして、呆れた顔をする辺りが流石に女エルフの妹分である。


 しかしながら、実際彼女のあきれは仕方の無いことだった。


 ワンコ教授のテンションの上がりっぷり。

 もとい、浮かれっぷりはちょっと足下が危ういくらいである。

 これから行う試練は、そんな、ちょっと遊んでくるというような、生やさしいモノではないはずだ。


 事実――。


「さて、最初の難関は――長ロングジャンプ、地獄王家の谷ですね」


「成人男性の身長以上ある長い長いこの谷を、果たして飛び越すことができるのか。小柄な少女には少し厳しい試練かもしれません」


 初手から結構挑戦者を殺しにくるアトラクションが待ち受けていた。


 そう、この手の儀式。

 意外と多い参加者を、早々に振るい落とすために、初手からエグいのが仕込まれていることが多かったりする。

 今回の数千年ぶりの催しにおいても、その法則に揺らぎはない。


 向かい来るワンコ教授を、待ち構えるのは千尋の谷――を模した溝。

 はたしてそこを小柄な彼女が飛び越えることができるのか。


 そのまま谷へ真っ逆さま。

 びしょ濡れになるんじゃないかという予感ビンビンであった。


 うぅん、と、それを見て唸る新女王。

 どうにも彼女だけがこの場で一人冷静だった。


「ケティさん。やっぱりやめません? こういうのは、この手のアクションが得意なティトさんや、汚れ芸に定評があるお義姉ねえさまに任せた方が……」


「なに言ってるんだぞエリィ!! 二人がやってくるのを待っていたら日が暮れてしまうんだぞ!! ここで僕がやらないと、誰がやるんだなんだぞ!!」


「……その通りなんですけれども」


 それでも、ワンコ教授の運動センスで、この溝は跳び越えられない。

 かれこれ一緒に旅をするようになって結構な日数になる。男騎士パーティの中で、彼女が飛び抜けてどんくさいことは、新女王もよく理解していた。


 なので、だぞーと谷に吸い込まれていく姿が目に浮かぶ。

 はっきりと、初手で失敗するのが分かる。


「こんなことで怪我しても損するだけです。ね、こういうのは得意な人に任せて」


「だぞ。大丈夫なんだぞ。Pharaoはこれでも結構、安全性には配慮されていて、ちゃんと怪我が出ないように監修されているんだぞ。あの地獄王家の谷だって、落ちた所に柔らかいクッションが」


「もう完全に遊ぶ気まんまんだ!! そういうんじゃなくてですね!!」


 だぞ、分かっているんだぞ、と、ワンコ教授。


 いつになく真剣な顔をして、彼女が新女王の言葉に応える。

 その表情に、はっと新女王が息を呑んだ。


 そうだ、彼女だって何もふざけてこんなことをやっている訳ではない。真剣に、仲間の身を案じているからこそ、逃げずに立ち向かおうとしているのだ。

 今更そんな思いに、新女王が自分の不明を悔いて胸を押えた。


 そんな前で――。


「だぞ、冒険者には逃げてはいけない場面があるんだぞ!! そして、考古学者にも逃げてはいけない場面があるんだぞ!! 今まさに、人類の歴史の一頁を肌で感じることができるチャンスに、尻尾を巻いて逃げることはできないんだぞ!!」


「やっぱり楽しむ気満々じゃないですか!!」


「パパも言っていたんだぞ――ケティ、そのままやっちゃいなさいって!!」


「滅茶苦茶軽くて物語の前後関係を必要としないセリフ!!」


 という訳で、行くんだぞと駆け出すワンコ教授。

 果たして、彼女に千尋の谷を越えることはできるのか。


 渾身の咆哮と共に、ワンコ教授が谷――を模した溝に向かって飛び立った。


 はたして、その結果は!!


 待て、次週!!

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