第867話 どワンコ教授とさそり座の王
【前回のあらすじ】
魔法少女バトル。
勝利の決め手は――聖遺物エ○チの結晶。
森羅万象の全てを見通し、その者が望む知識を与えてくれる神秘アイテム。
それにより、
しかしながら、その力を使う代償は大きい。
脳にかかる負荷は大きく、バトルが終わって間もなく法王はその場に倒れる事となってしまった。
「いえ、これはもうどうしようもありません。エ○チの結晶の力を使いすぎて、既に私の身体は満身創痍。端的に言って――」
エ○チポイント切れです。
最後までぶれない
姉譲りのセクハラをかましつつ、彼女はついに倒れた。
はたして残されたワンコ教授と新女王。
たった二人、しかも、圧倒的に力不足な彼女たちで、これから先のフロアを攻略することができるのか。
それは、ともかく。
「というか、その道具でハイメ○粒子砲撃ってた訳じゃないんかーい!!」
ハイメ○粒子砲の撃つのに必要かと思われたエ○チの結晶。
しかしながら、別になくても撃てた。その事実が、聖女を打ちのめした。
まるで女エルフのように、ツッコミをいれさせたのだった。
流石だなど聖女さん、さすがだ。
「いや、これは誰でもそうキレるでしょうよ」
◇ ◇ ◇ ◇
ついにたった二人にまで減ってしまった男騎士パーティ。
先頭を行くのは――残った中では一応冒険者歴が長いワンコ教授。
「だぞ、僕についてくるんだぞ」
と、へっぴり腰で新女王をリードするが、いかんせんやっぱり後衛職。
しかもトラップや謎解き専門のインテリジェンスタイプである。
後ろに続く新女王の顔には不安があった。
とはいえ、彼女のやる気と親切を無駄にはできない。
とてとてと回廊を上がることしばらく。
見えてきたのは再び石造りの大扉。真ん中に記された天蝎宮のマークを眺めて、だぞぉとワンコ教授はため息を吐き出した。
「ここまで出て来た○金闘士は、全部黄道十二宮の星座になぞらえられた戦士ばかりだったんだぞ」
「そうなんですか?」
「そうなんだぞ。考古学でそれなりに勉強してきたから分かるんだぞ。まぁ、中にはちょっとよく分からないのもいたけれど。傾向として、ここ天蝎宮でも、星座に関係する人物が出てくるに違いないんだぞ」
「星座――さそり座ですか?」
こくり、と、ワンコ教授が新女王の言葉に頷く。
その肯定には妙な戸惑いの色があった。
はたしてワンコ教授の中で、その人物に心当たりがあるのだろうか。それともないからそういう力ない返答になってしまうのか。
なんにしても、彼女が不安に思っているのは間違いない。
行くんだぞと扉に手をかけるワンコ教授。
そんな彼女の手に自分の手を重ねる新女王。振り返ったワンコ教授に微笑みかけるその姿には、彼女が独りではないというエールが籠められていた。
ここまで、パーティの中ではお荷物として後方待機が多かった二人。
しかし、今はそんなことを言っていられる状況ではない。大切な仲間の命を救うためにも、自分たちににもできることをやらなければ。
二人は視線でそんな思いを共有する。
そして、ゆっくりとその扉を押し込んだのだった。
はたして、そんな彼女たちの前に現れたのは――。
「王!! 王!! 王!! 王!!」
「……だぞぉ」
「王!! 王!! 王!! 王!!」
「……こ、これは」
「王!! 王!! 王!! 王!!」
黄金色の宮殿。
そこに所狭しとひしめき合ったむくつけき男達。
褐色の肌に刺青を入れて、腰布に金色をした宝飾を身体に巻き付けている。
男騎士と同じくらいに屈強な男達がそこにはひしめいていた。
彼らが見つめるのは、緋色の分厚いカーテンで隠された台座。
階段はなく、カーテンで仕切られて見えない奥からしか人が移動できないようになっている。
「だぞ!! これは、古代文明の王の宮殿にそっくりなんだぞ!!」
「それは私も感じました。あれですね、民に演説をする間にそっくり!!」
「すると……」
「というか……」
出てくるのは王ないし、それに近い立場の人間。
蠍座に関係がありなおかつ王の英雄などいただろうか。
ふと、ワンコ教授がその灰色の脳細胞を活性化させる。彼女の頭の中に収められている、多大な史書を開いて回ればそれはすぐさまヒットした。
まさか、と、ワンコ教授が喉を鳴らしたその時、強烈な王コールが止む。
それと同時にビロードのカーテンが左右に開かれて、そこから――黄金の鎧に身を包んだ男が姿を現わす。
鍛え抜かれた肉体美。
そして、引き締められた腰回り。
同時に流れ出す――ムーディーな曲。
間違いない。
「なんてことなんだぞ!! とんでもない奴が出て来たんだぞ!!」
「なんなんですかケティさん!! いったい、あの男は何物なんですか!! というか――あれは男性なんですよね? なんかこう、ちょっと、ムキムキな身体をしていながら、顔が化粧していてアンバランスというか、どう言って良いのか!!」
そう。
現れた男は紛れも無く男だった。
むくつけき体躯を持った、この場の男の誰よりも逞しい男だった。
しかし同時に、白粉で顔を塗りたくり、ルージュを引いた顔をしていた。
それが古代の王のメイクかと言われれば、ワンコ教授には何も言えない。
確かに、そのような王の姿を現わす仮面は幾つか現存しているが、確かな文献は残っていない。
そう、そうなのだ。
それは目にするまで分からなかったこと。
まさしく伝説。
信憑性のない話と言われていた存在。
かつて、中央大陸の南西部、砂漠の地に覇を唱えた独りの覇王。
たった一代にして国を興し、たった一代にして国を潰した伝説の男。
黒いマッシュルームヘアーに、白塗りの顔。
独特の風貌を持ったそいつは――。
メロディと共に天高く舞い上がると、手にした錫杖を揺らして――歌い始めた。
「いいえ余こそが、
「
「気が済むまで、笑わせて貰おう!! ふはっ、ふはっ、ふわーっはっはっは!!」
突如、ワンコ教授たちの前に現れた黄金のファラオ。
間違いない。
このファラオ――良い声であった。
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