第865話 ど法王さんとエ○チの結晶

【前回のあらすじ】


「あーたのしかった!!!!」


 法王ポープ完全勝利!!


 初めての魔法少女勝負。はたしてどれほどのことができるだろうかと危惧されたその戦い振りは、見事というか圧巻というか、チートという意外にない一方的なものだった。

 目から迸る赤いビームで圧倒する法王ポープ

 聖女を名乗る怪しい女に付け入る隙を与えない。


 壊れたように。


「眼鏡ビガーン!!」


 激しく。


「眼鏡ビガーン!!」


 そして、ちょっと、お茶目にポーズを決めて。


「眼鏡☆ビガーン♪」


 死体蹴りならぬ死体ビームを重ねて完全勝利。

 法王ポープは圧倒的な目力で聖女を消し炭にするとのわっはっはと高笑いするのだった。


 流石だなど法王ポープさん、さすがだ。


◇ ◇ ◇ ◇


「……ふぅ。まさか私が魔法少女勝負に参戦するとは。世の中分からないものですね。こういうのは全て、あの色ボケエルフの担当だと思っていたとのに」


「だぞぉ。まぁ、その、なんなんだぉ」


「お姉さまの方がマシだったというか。いえ、まぁ、その。全力全開こそが、魔法少女勝負の醍醐味かもしれませんが。これは流石にちょっとというか」


「なんにしても、これで天秤宮の試練はクリアと言うことですね。他愛もない戦いでした」


 リング端。

 魔法少女勝負が終わって、一息を吐く法王ポープたち。


 激戦必至かと思わせての完全勝利に、なんというか逆に疲れた顔をするワンコ教授達。対して、偽聖女に圧勝して気分のいい法王ポープは、ひゅーほほほほほほと独特の高笑いを響かせるのだった。


 恐るべし法王。

 いや、バイザー・サングラス。

 迸る赤い光線――眼鏡ビガーン。


 どういう理屈か、どういうエネルギーか、その原理は一切不明だが、魔法少女が扱うハイメ○粒子砲として、それはかなりハイクラスのものと思われた。

 どうしてそんな力を法王ポープが持っているのか。

 魔法少女になったばかりの、彼女が持っているのか。

 それほどまでに、魔法少女適性が彼女にはあったということなのか。


 なんにしても。


「……だぞ。とりあえずリーケット。その物騒なのを早く解除するんだぞ」


「そうですよリーケットさん。もし間違って、うっかり味方に眼鏡ビガーンを喰らわせてしまったら、せっかくの勝利が台無しになってしまいます。その前に、早く、魔法少女状態を解除するべきです」


 怖くてとてもそれに突っ込む気になれない。

 ワンコ教授と新女王。彼女たちは身の危険を感じて、一刻も早い魔法少女状態の解除をリーケットに求めるのだった。


 これに法王。


「えぇ? せっかく気分良く大暴れしたのに。もうちょっと勝利の余韻に浸らせてくださいよ。私、こういいう荒事は、あまり経験が無いので。一方的に相手を蹂躙するのって、こんなにも楽しいものなんですね」


「……ダメなんだぞ、完全にサイコパスなんだぞ」


「……バーサーカー状態になっている。これはいけない」


 サイコな笑顔で応える。


 ここまですがすがしく、敵をボコボコにして笑顔を返せる正義の味方があるだろうかという、ド外道っぷりであった。

 平和と愛を唱え、人々を導く存在であるはずの教会のトップ。

 その邪悪なまでの本性に、二人ともドン引きしていた。


 何が彼女を、ここまでのドメスティックバイオレンス魔法少女に変えたのか。

 魔法少女にする娘を間違えたにしてもあんまりである。


 とにかく、早く元に戻れとせかす二人。

 やれやれしょうがないですねと、法王ポープはため息を吐き出すと、ようやくその変身を解除した。

 同時に、魔法少女バトルの舞台も解除され、聖女の怪我も完治する。


「……はっ!! 私はいったい何を!!」


「目を覚ましましたか、ジャンヌ・アマクサ・ダルク・オルタナティブよ」


「……やめて!! その呼称はいろいろと議論を呼びそう!!」


「では、ジャンヌ・A・ダルク・Aよ。貴方は私に負けたのです。それはもうコテンパンにハイメ○粒子砲をたたき込まれて。黒焦げにこんがりと焼かれて」


 魔法少女バトルの決着により、金髪から黒髪に戻っていた聖女。

 あまりに一方的な蹂躙と幕切れに、過程が頭からすっ飛んでいたのだろう、そんな信じられないと彼女は喚いた。喚いたが、リングの上で気を失っていたのは、もはや言い逃れのできない事実であり、彼女の背後にある次の階へと続く扉が開いているのも、彼女の敗北を示していた。


 うぐ、ぐぬぬと奥歯をかみしめ、リングを叩くジャンヌ・A・ダルク・A。

 そんな彼女の肩に優しく手をかけたのは法王ポープ


 勝負が終わればもはや敵も味方もないということか。

 腐っても健全スポーツの魔法少女バトルである。その名に恥じないすがすがしさを発して、彼女は敗者に言葉をかけた。


「ジャンヌの生まれ変わりとか言っておいて、あっさり負けて今どんな気持ち? ねぇ、今、どんな気持ち?」


「……ッ!!」


 違う、死体蹴りであった。

 どこまでも法王意地が悪い。

 それはもう、やめてさしあげろと言いたくなるような、邪悪な笑顔だった。


「神風がどうとか言っていたけれど、まったくもって私の眼鏡ビガーンの前には無力でしたね。まったくもって太刀打ちできませんでしたね」


「……な、なによう!! あんなの反則じゃない!! というか、なんなのよ眼鏡ビガーンって!! あんなハイメ○粒子砲の撃ち方なんて反則だわ!!」


「そんなレギュレーションはありませんー!! はい雑魚ー!! 口だけ聖少女ジャンヌ・A・ダルクAちゃんざまぁー!! おハーブ農園まったなしー!!」


「……#&%$&#~#@!!」


 顔を真っ赤にして手を振り上げる聖女。

 そんな彼女をひらりと躱して、邪悪な笑みを絶やさない法王。

 戦った相手が悪かった。これが女エルフだったら、もう少し相手に華を持たせる、肉的な演出もあっただろうが。


 この法王ポープ、メンタルが限りなくゲーミング法王さまであった。

 戦わせたらいけない奴だった。


「まぁ、けどぉ、一つ教えてあげてもよろしくてよ。貴方が私に負けた敗因を」


「なんだっていうのよ!! いったい私の何がアンタに劣っていたというのよ!!」


「そう、貴方にはたった一つ、大切なものがかけていた。真実を見通すのに必要な、曇りなき眼。相手の本性を見破る確かな瞳――つまり!!」


 そう言って、法王ポープが懐から取り出したのは見覚えのあるアイテム。

 ついさっきまで、彼女の鼻の上にかかっていた装備。


 このファンタジーの世界に、ほどよく不釣り合いなそれは――。


「エ○チの結晶――このバイザー・サングラスが貴方には足りない!!」


「「「自前の装備だったぁ!!」」だぞ!!」


 ハイメガ粒子砲を乱射した謎のオーパツ。

 エ○チの結晶こと眼鏡だった。

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