第783話 ど男騎士さんと絶対障壁崩壊

【前回のあらすじ】


 降り注ぐ疑似マイクロブラックホールこと黒塵。

 触れるものを凝縮し、虚空へと誘うその凶悪な魔法に立ち向かうべく、女修道士シスター二人が魔法を練る。


 それこそは、神に身を捧げたおとめだけが使うことができる、おとめの魔法。


 おとめシールド。(意味深)


「意味深て」


 いろんな読み方があるんですね、知りませんでした。


 とはいえ、そんな膜を展開して、模造神の猛攻へと立ち向かう女エルフたち。

 しかしながら相手は曲がりなりにも神。人間には遠く及ばぬ力でもって、無尽蔵に破壊の力を辺りにまき散らす。


 守り一辺倒では勝ち目は薄い。

 なんとか逆転する手はないものか。


 男騎士、再起動の時を稼ぐため、ワンコ教授、新女王たちが女修道士シスターにおとめパワーを貸す。

 かすかに厚くなったおとめシールド。

 しかし、それだけでは心もとない。


「私も力を貸すわよ!! コーネリア!!」


「なんだかよく分からないけれど、ちょっとこれは想定外。このアシガラちゃんも、ちょっと力を貸してあげるんだから!!」


 そこにアラサーおとめ、二人が合流。

 かくして、全おとめ力結集で、模造神イミテーション・ゴッドへと挑む女エルフたち。


 その時であった――。


「……なっ、馬鹿な!!」


「おとめシールドが暴走!!」


「おとめ力が暴走して、世界がおとめに包まれようとしているだと!!」


「馬鹿な……神の力をもしのぐおとめ力とはいったい!!」


 女修道士シスターたちが編んだ魔法が、あまりに膨大な女エルフと元赤バニからくり娘の、おとめ力に暴走。

 神の力を完全に相殺したのだった。


 いやー。

 ほんと、すごいおとめ力ですね、モーラさん。

 そういうの、パートナーとはしないんですか。


「……まぁ、その、そういうのは、もうちょっと落ち着いてからでいいかなって」


◇ ◇ ◇ ◇


 三百年の孤独と、創生からの純潔が、模造神の力を覆す。


 黒い塵芥を吹き飛ばしておとめバリアー。

 空がその青さを取り戻して輝く。


 蒼天を背にして模造された神は、その表情を驚愕させた。


 まさか神殺し免状ゴッド・スレイヤーを持たない者たちが、自分たちに抗ってみせるとは。


 神が人間に対して持ち得る圧倒的な優位性。

 それを、なんの力も持たない者たちが覆して見せた。

 これはいったいどういうことか。


 これまで、その攻撃をギリモザで防いできたのとは話が違う。

 完全に、神の力を霧散させるその一撃は、攻撃を防ぐだけにとどまらず、いかな人間の攻撃も通過させない絶対障壁を越え、彼女の身体に届いた。


 どうして、なぜ。

 神の僕として目覚めたはずの、黒髪の模造神が逡巡する。


 それは、男騎士が再び跳躍するのに十分な時間であった。


神殺し免状ゴッド・スレイヤーと戦うのははじめてか!! 七悪の模造神イミテーション・ゴッドよ!!」


「……魔剣エロス!!」


「人の攻撃を通さない絶対障壁は俺たちの攻撃で中和される!! さっきの攻撃で絶対障壁は外れたつまり――モーラちゃんたちの攻撃が通るってことだ!!」


「なんだと!?」


 そして、今度はさっきの三倍痛いぜと、魔剣が気合の籠った声を上げる。


 大上段。

 やはり上からの唐竹割りの構えに入った男騎士は、気合と共に黒髪の模造神に剣の雷を振るった。


 海風を切って、雷鳴轟く。

 稲光の如きその太刀筋を受け止めるものはない。

 その身体の正中線を断たれて模造神赤い血を吐いてその場によろける。


 しかし。

 神はこの程度で死にはしない。


「舐めるなァっ!! たとえ、四肢をもがれ、肉片に変えられようとも模造神の権能はここにある!! 生物の理を越えて存在する我らを、そうやすやすと滅せられると思うてか!! 人間、まだ手が足りぬぞ!!」


「馬鹿野郎言っただろうがよ――モーラちゃん達の攻撃が通るって!!」


 ぎょろりと模造神の目が動く。

 そのサファイアの光が煌めけば、甲板で構えている二人の姿が目に入った。


 一人、長い金髪に長い耳。

 白い肌はちょっと最近たるみ気味だが、まごうことなきいい女。三百歳という長き時間を、その身の純潔を守り通した森ガールならぬ森エルフ。

 そう、彼女こそは――。


「いくわよ!! アシガラ!!」


 一人、ウェーブのかかった黒髪に、健康的に日に焼けた感じのする木目づくりのからくり人形。

 しかしながら、いかんともしがたい人間臭さと、神代から続くおひとり様の鬼迫を背負った彼女は、一騎当千のからくり娘。


 本来ならば相容れぬ仲。

 敵対する者同士。

 しかし、ここに人類の危機であれば、共に立ち向かうのもやぶさかではない。


 そう、彼女こそは――。


 いや、彼女たちは!!


「いいわよモーラ!!」


 女エルフが持っているのは復活と共に身に着けていたサンバのコスチューム。

 それを天に投げれば、光の粒子となって彼女たちに降り注ぐ。


 謎のサンタ力。

 それを今、二つに分けてとてつもないおとめ力を持った二人が身に纏う。


 一つのサンタコスを、二人で分けるのだ、布目面積が小さくなるのは仕方ない。

 そして、白成分と赤成分が、ちょっと分かれるのも仕方ない。


 しかしそれはそれ、二人とも、白と赤は元々のイメージカラーである。

 色白の女エルフは白成分。

 赤バニのからくり娘は赤成分を吸収して、彼女たちは変身した。


 そう、東の島国の果てで、神の手から人間たちの世界を護るために、彼女たちは手を取り合って変身した。


「ウワキツの使者!! キュートホワイト!!」


「ウワキツの使者!! セクシーレッド!!」


「「ふたりはウワキツ!!」」


 例によって例の如く、とどめのウワキツ姿に変身した。

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