第744話 ど男騎士さんと無惨テンプレ

【前回のあらすじ】


 讃えよエルフリアン柔術!!


 幸運のからくり娘――『ユキカゼ』が繰り出すは殺人音響。

 ラッパより吹き荒れる音の凶刃の前にばたりばたりと倒れていく仲間の前に立ちはだかったのはエルフリアン柔術∞段の男。


 そう、モッリ水軍は長男であった。


「呼ッ!!」


 彼が使ったのはエルフリアン柔術『〇ンチン』の型。船上での戦闘において、自分の身体を安定させるために編み出されたその技は、見事に『ユキカゼ』の音響攻撃を相殺するという効果を発揮し、長男の身を音の波から救ったのだった。


 すぐさま次の攻撃を繰り出し、からくり娘の肺腑を貫く長男坊。


「エルフリアン柔術を舐めるな!!」


 弱きエルフたちのために編みだされたエルフリアン柔術。

 それは、極めればどんな悪にだって負けない無敵の拳。

 さぁ、讃えよ、エルフリアン柔術。

 はじめよう、皆も、エルフリアン柔術。


 〇ンチンの型を極めれば、君も今日から無敵――。


「だからそれは空手の技でしょう!!」


※筆者、武道未経験につき、空手も柔道もよくわかりません。


「逃げの一手!!」


 讃えよ!!(このパロディもそのうち怒られるんじゃないのだろうか)


◇ ◇ ◇ ◇


 長男坊が一矢報いてからくり娘の肺腑を穿いたその横。

 男騎士と最強のからくり娘――『クマ』は、血で血を洗うような激戦を繰り広げていた。


 体の関節を外し、人外の動きから攻撃を繰り出す戦闘狂のからくり娘。

 もはや鬼族の呪いをフル活用。肉を斬らせて骨を断とうとするも、一手足りずに翻弄される男騎士。


 戦いの優劣は、やや【殺人技能】持ちの『クマ』へと傾いていた。


 黒髪を振りまき、体のいたる部分から暗器を抜き出し放り投げる黒髪のからくり娘。その作り物の眼が狂気にぎらつく。


「ふふっ、どうした!! 一人で出てきた割にはたいしたことないではないか!! 先ほどから防戦一方だぞ!!」


「ぐるぁあああああっ!!」


「ティト、落ち着け!! 安っぽい挑発に乗るな!! 一発当てれば、こっちの勝ちなんだ!! もうちょっと慎重にいけ!!」


 鬼の身となり果てて戦う男騎士。

 そんな彼をサポートするように、魔剣が理性的に諭す。


 確かに彼の言う通り、鬼とからくりでは力量差は歴然。

 その剛腕が彼女の身体をひと撫ででもすれば、いくら神が造った兵器とはいえ、すぐに砕けることだろう。


 しかし、その致命の一撃を。

 たった一度にして一瞬の隙を。


「ははっ!! この私に、鬼の鈍重な拳が届くと思ったか!! 遅い遅い!! 止まって見えるわ!! この『クマ』の殺人の技、それを為すために与えられた権能!! 侮ってもらっては困る!! 困るぞ鬼の者!!」


 生み出すことがまったくできない。

 無呼吸により繰り出される精密細動な一撃。

 絶え間なく降り注ぐ攻撃の雨嵐は、男騎士の身体を絶えず削ぐように襲う。その流麗なる一挙手一投足は、男騎士の行動を一手先で常に封じ続けた。


 凄まじき剣技。

 凄まじき業。


 先日、剣を交えた時にも感じた圧倒的な殺意。


 確実に相対した相手を殺すという意志を保ちながら、冷静かつ的確な一撃を編み出してくる目の前のからくり娘を、あらためて男騎士は戦慄と共に見据えた――。


 しかし、ただやられる男騎士ではない。

 大性郷が散った海に、彼の意志を継がんと誓った男騎士ではない。


「……ほう?」


「ティト!?」


 男騎士。

 ここに来てのまさかの鬼化の解除。


 人間の姿に戻った彼は、暗殺術の使い手であるからくり娘の跳躍、それが一歩届かぬ間合いで構えると、静かに息を整えた。


 我に秘策アリ。

 男騎士、無言で自らの相棒――魔剣にそれを伝えるとからくり娘をみやる。その瞳はどこか、今までにない知性のようなものを感じさせた。


 はたして彼が繰り出した秘策の業は――。


「しつこい」


 挑発であった。


 しかも、まさかの鬼が言ったらアカン奴。

 無惨テンプレであった!!


【スキル 無惨テンプレ: 作品からして神が勝っているというのに、まさかまさかこの終盤でこんな名言・テンプレを生み出してしまうとは本当に時代の寵児か。人を煽るにはこれという奴である。ほんと、よくもまぁ、あんな完成された煽りを考えついたものである。そら、存在してはいけない生き物だと、長男だってブチ切れるもやむなし。これからたぶん長いこと使われることになるんだろうなと感じさせる、そして、おそらくいろんな小説でもパロられる運命にある一幕である】


 詳細は省こう。


 詳らかになるとなんかこう著作権的にヤバくなるから省こう。

 なんにしても、男騎士は盛大に挑発した。もうこれでもかと挑発した。お前、主人公の癖に残念なラスボスみたいなこと言うなよという感じに、盛大に煽った。


 むしろこれだけ煽っておいて、怒らない方がどうかしているだろう。

 そう感じさせるくらいに男騎士は容赦なくからくり娘をディスった。


 そして、最後に――。


「からくり娘の相手は疲れた。いい加減にしてくれ」


 微妙に台詞を濁して締めた。そこは著作権に配慮して言葉を選んだ。


 やり切った。

 男騎士はやり切った。


 なんというか、お前これ、いくらパロディ乱発作品だとしても、やっていいことと悪いことがあるぞということをやり切った。

 やり切って、それとなくパロ元の鬼らしく、残念な感じでからくり娘を見た。


 完璧な煽りだった。

 怒り沸騰、算を乱して突撃やむなし。

 普通に雑魚モンスターだったら突撃してくる流れだった。


 しかし。


「……安い挑発だな」


 相手はボス。

 挑発は無効。

 無駄に行動を消費しただけであった。


 ボス相手に精神系の攻撃は無駄。

 メタ的には分かり切ったオチであった。


「……クマ」


「なんだ?」


「……お前は存在してはいけないからくり娘だ!!」


「お前がキレるんかい!!」


 男騎士、湧きだす怒りを抑えきれない感じで、冷たい顔をして言う。

 ブチギレた彼は再び、鬼の姿に戻るのだった。

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