第700話 ど女エルフさんとあぶねえ海賊団

【前回のあらすじ】


 嵐の中で輝くほぼ全裸の男騎士。

 久しぶりの変態魔法を使って、嵐の中で仲間を導くその姿はまさしく小隊の隊長リーダーの鑑。


 SM小隊69部隊。

 血で血を洗う、壮絶な海上戦がここにはじまろうとしていた。


「……期待していたのと違う!!」


 すまんなどエルフさん。

 いつも通りの、とんちき展開で申し訳ないなどエルフさん。

 そして、今日もタイトルで察してくれてどエルフさん。


◇ ◇ ◇ ◇


 さて。

 全選手入場のノリで言及した参加者たちだが、第一レースの着順を見ていただければ分かるように、実は紹介されていない者たちが何人かいる。

 彼らはどうして紹介を省略されてしまったのか。


 慢心うぬぼれなんちゃらかんちゃら。

 危険なパロディ、出しちゃいけない大御所感。

 そいつをやったらおしめえYO!


 大人の事情やら何やらで、彼らは出番を奪われてしまったのか。

 否、断じて否である。


 優勝候補やダークホースと言っても、やはり勝つ目があるから紹介される。

 レースへの参加はどうぞ皆さんウェルカムだが、始まる前からその面子でだいたい結果は見えている。


 なかなか、大番狂わせなんていうのは起こらない。

 それこそ未勝利馬や新馬限定戦でもない限り、レースというのは始まる前からある程度の結果が見えているものなのである。


 それだけに。

 故に。


 まったく下馬評にも上がらなかった面々が、今、トップをひた走っていた威臨社の勝海舟たちを追い抜いて、嵐の海を進んでいる。

 その光景は大きなどよめきを産んでいた。

 そう、嵐の中で今、ひとつの奇跡が起きていた。


「なんと!! なんとなんと!! おそろしいことが起こってしまいました!! ここでまさかの大番狂わせ!! レースも中盤、嵐の海の中を進んでいるのはまったく無名のルーキー!! パイ〇ーツ・マルミエヤン・ドットコムでもない!! 謎の大陸商人コードXでもない!! 彼らは、彼らのチーム名は――!!」


 あぶねえ海賊団。


 その面々は、実に危ない感じであった。


 どれくらい危ないかと言うと、マガジ〇の専売特許である「!?」演出と同じくらいに、もはや作品の特徴的演出となった「ドン!!」くらいに、危ない感じを彷彿とさせる連中であった。


 つまるところマガジ〇のゴムゴムの一味的な感じのあぶねえ海賊団だった。


「ひゃぁーっ、すげぇ嵐だ。こりゃ落ちたらひとたまりもないぞ」


「おい、船長。泳げねえんだから、そんな船の縁から身体を出してんじゃねえ」


「主舵いっぱーい。あと、もうちょっとしたら雨が小康状態になるわ。そのタイミングで一気に距離を稼ぐわよ」


「主砲の準備はばっちりだぜ。後続の奴らに、鉛玉の嵐もぶちこんでやるぜ」


「おめーら、そらそうとそろそろ腹ごしらえしておけ。今日は長丁場だぞ、胃にちゃんとモノが入ってないといざって時に力が入らん」


 この頃が黄金期的な感じがある。(なんのこっちゃ)


 とにかく、そんな訳で。


 GTR第二レース。

 嵐の航路を今ひた走っているのは、下馬評にも上がらなかったような泡沫船団。


 あぶない海賊団だった。


 ドン!!


 あぶない。

 危な過ぎてその容姿やらなにやらを具体的に描写することも危うい。


 船首になんか動物っぽい衣装が施されていたり、トレードマークとなるような身体的な特徴を持っていたり、なんかいろいろあるけれどもうっかりと発言することができない。

 もはや、海賊団と言ってしまうのもはばかられる。


 そんなあぶない海賊団であった。

 なんでこんなのが参加しているのか。

 まったく謎である。


 彼らが抜きんでたのは他でもない。

 嵐の海を航行するのに、その船は――あまりにも小さかったのだ。


 船が大きければ大きいほど、雨風や波の影響を受けることになる。

 また重量があればあるほど、慣性の法則により制御は難しくなる。


 海賊団はあろうことか全員で五人。

 必要最低限の船員で構成されたその船は、十人規模、多ければ百人規模で構成される優勝候補の船団を、少数故の小回りにより圧倒して一位へと躍り出たのだ。


 おそるべし――あぶない海賊団である。


 そんな彼らが今まさに、嵐の海を抜けて砲撃をこちらに向けようかという中。


「ちょっと!! どうすんのよあの前の海賊団!! こっちに砲身向けてるわよ!!」


「だぞ!! いきなり現れたにしては、なかなか攻撃的なんだぞ!!」


「たった五人で船を操っているとか、普通に考えてあり得ないのでは? どういう船になっているんです、アレ? 帆船にしたって、もうちょっとスタッフが必要な気が……」


「駄目です法王ポープさま!! それ以上はいけません!! そういう理屈なのだからそうなのだと納得しなくては!!」


「それどころじゃないよ!! こちとらモロに嵐に動きを阻まれているんだ!! なんとかして持ち直さないと本当に座礁するよ!!」


「俺を、もっと、見てくれー!!」


 男騎士たちパーティーは混乱のるつぼの中にあった。


 荒れ狂う嵐。

 前方でこちらを狙う敵。

 ままならない操船。


 順位的には威臨社を抜いたが、小回りの利く北海海賊団に抜かれて現在三位。

 しかし、砲弾を受ければそれもどうなってしまうか分からない。


 GTR第二レースにして思いもよらない大ピンチ。

 大番狂わせの何たるや、忸怩たる思いで女エルフが唇を噛む。未だ、全裸状態の解放感から復帰しない男騎士をよそに、悔しそうに船の縁を叩く彼女。


 その時――。


「諦めるな!!」


「諦めたらそこで終わりだぜ!!」


「もっと自分を信じて!!」


「このレース譲れないんだろう!!」


「だれも邪魔できない熱い魂をぶつけるんだ!!」


 船の縁から昇る声。


 聞き馴染みのないその声は、いったい誰の者なのか。

 なんにしても、男騎士たちパーティーに友好的なその口ぶりから、敵ではないことは察せられる。


 他のレース参加者か。

 それとも酔狂で海を渡っている者か。


 いや、そのどれでもない――。


 かつて感じた、あかん雰囲気をびんびんに感じた女エルフが視線を船底の方に向けるとそこには。


「「「「「T〇SHI〇の兄さんたちに事情は聞きました!! 協力しますよ――このアイドル海賊団ST〇RMが!!」」」」」


「もっとやべぇ奴らが来た!!」


 もっとやべぇ五人組が、小さなタグボートで海賊船に横付けしていた。

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