第699話 ど女エルフさんと嵐の中で輝く

【前回のあらすじ】


 GTRインあーまーみー諸島。

 第二の目的地は南トリ島。しかしながら、その航路は、紅海でも一・二を争う難所である。第一レースを一位通過した威臨社も、嘘か本当か航海に難儀するその海に、男騎士たちが乗る船がざわつく。


 困難や逆境こそチャンスである。


 まるでビジネスリーダーのようなことを言いだして、場を治めたのは男騎士だ。

 やはり、ここぞという所で頼りになるのは、歴戦の冒険者としての実績と経験。


 彼の心強い言葉により、速やかに男騎士たち海賊団――パイ〇ーツ・マルミエヤン・ドットコムのメンバーは結束した。


 はたして、今週はギャグマシマシと言っておいて真面目な導入。

 これからどうなるのかどエルフさん。


「はいはい、タイトルタイトル」


 お察しいただけただろうか。

 という訳で、嵐の海の中で輝くような、俺はモーラと添い遂げる展開必至のどエルフさんはじまります。


 しかし、自分で指摘して恥ずかしくないの。


「……んーまぁ、その命台詞を言われていやな気持にならない女はいないでしょ」


◇ ◇ ◇ ◇


「みんな!! さぁ、俺を見るんだ!! 俺を目標にして舵を取るんだ!!」


「ティト!!」


「だぞ、ティト!! いくらなんでも身体を張りすぎなんだぞ!!」


「ティトさん、やめてください!! 貴方がいなくなったら、だれがいったいこのパーティのセックスモンスターモラえもんを止めるんですか!!」


「ティト氏、貴方の死は無駄にはしない。お姉さまは、貴方に代わって必ず私が幸せにしてみせます」


 マガ〇ン的表現(ダブルミーニング)では「!?」が入る状況。


 そう、嵐に揺れる第二レースの海の途上。

 なぜか男騎士が女エルフたちが乗る海賊船より先行して岩盤の上に立っている。


 吹き付ける雨風は激しい。

 飛沫を上げる白波が容赦なく男騎士の身体に打ち付ける。


 例によって例の如く、海の上でも軽やかに移動することができる魔法のアイテム、風のふんどしを身にまとった男騎士。そんな彼は、まるで貝殻の中から現れた女神のような感じにポーズを取っていた。


 そこからの――。


「フロント・ダブル・バイセップス!!」


 超有名。

 誰でも一度は見たことがある、ボディービルダーの決めポーズをかます男騎士。

 むき出しの裸体が股間を除いてはちきれんばかりに盛り上がり、それと同時にてらてらと異様な光を発しだす。


 そう、それこそは、男騎士が身に着けている唯一の魔法。


 筋肉魔法であった。


【筋肉魔法 俺を見てくれアニキィィィイイイ!!: 究極の肉体を持つ者が自然に扱うことができるようになると言い伝えられている、筋力を魔力に変えるまさしくずばり筋肉魔法。それは、既定のポーズを取ることにより、一定時間発光することができるという、なんとも使いどころに困るものだ。浮揚しないだけ、某〇っこいいポーズより使いどころの悪い、癖のある魔法だ。そう、たゆまぬ鍛錬と、筋肉は魔法を凌駕するのだ。筋肉は君を裏切らない、筋肉は君を愛している、筋肉だけが真実】


「嵐の中で輝いているけれど、これはちょっと違うでしょうよ!!」


 女エルフは男騎士に冷徹にツッコミを入れた。


 今や船は難破寸前。

 視界不良に荒れ狂う水面。

 航行不能もいい所。

 どこに向かえばいいのかさえ分からない。そんな状況である。


 そんな中、俺が道しるべになろうと、海に飛び込んだのは男騎士。

 すわ、風のパンツにより近くの岩礁まで飛んだ彼は、灯台の代わりに自らの身体を発光させると、女エルフたちが乗る海賊船を導こうとしたのだった。


 うむ――。


「サイド・チェスト!!」


 またしても、一度は絶対に見たことのあるポーズを決める男騎士。

 筋肉量は実のところたいしたことはない。大したことはないけれど、逞しい冒険者である、ポーズをとればそれなりに様にはなる。


 荒れ狂う海の中で、進先が見えない仲間たちをなんとか導こうと、矢継ぎ早にポーズを決める男騎士。


 その姿は健気そのもの。

 しかしやはり――。


「最悪の絵面だわ。なんというか、今回はロマンス回なのかしらと、期待した私がバカだったと、頭を豆腐の角にぶつけて死に至りたいくらいに最悪の光景だわ」


 滑稽極まりないものだった。


 その者、荒れ狂う海を渡り、光り輝く肉体によって、迷えるものを救うだろう。

 まるでなんかそれっぽい本に出てくる偉人みたいな行動をしているが、絵面はギャグ以外のなにものでもない。男騎士、その渾身のボディビルムーブに、女エルフたちは黙り込むのだった。


 黙々と、今を逃すなと動く海賊船の女船長。

 同じく海賊の次郎長たち。


 完全にいつものアホアホどエルフさんワールドの空気。


「……どうしてこのタイトルでこうなっちゃうのかしらね」


「だぞ」


「まったく。どエルフさんが変な調教をするからですよ。なんなんですか、恋人にボディービルディングの知識を求めるのは間違っていますかですって。間違ってますよそんな狂ったタイトルのライトノベルみたいな性癖。どんだけ筋肉大好き、業が深いエルフなんですか。流石ですねどエルフさん、さすがです」


「求めてないわよ!!」


「お姉さま!! 筋肉がお好きなのだと言ってくだされば、私だってもっと筋トレいたしましたのに!! 女ボディビルの世界は険しく厳しいものでしょうけれど、お姉さまのためならば、エリィは頑張れます!!」


「頑張らなくていいから!! ちょっと想像しちゃったけどやめて!!」


 そして、しれっと繋げられる、女エルフいじり。

 やっぱりこうなるどエルフさん。とんちきな事態になると、だいたい彼女のせいになる。

 これはもはや避けようのない、運命というべきもの――。


 そう、この話のテンプレであった。


「「「流石だなどエルフさん、さすがだ」ぞ」です」


「違うと言うとろーがーい!!」


「俺を見てくれぇええええええええ!!」


 セブンスムーンかアドンかサムソン。

 男騎士の切なる叫びが嵐の中に木霊する。


 吹きすさぶ風の中にも、その魂の咆哮はかき消されることなくよく響いた。

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