第698話 ど男騎士さんと第二レース

【前回のあらすじ】


 道化のジェレミー暗躍する。

 暗黒大陸が満を持して放った刺客、道化のジェレミー。

 からくり艦隊これくしょんの娘たちにより倒されたと思う異形の道化は――はたして生きていた。


 そう、肉スライムと見せかけてその姿はブラフ。


 道化面を付けた麦色の髪をした乙女こそが、その正体であった。


「さてさて、それでは、この道化のジェイミーが用意した、絶望の喜劇をかぶりつきで見ていただきましょうか。お代は結構、演者あなた方の絶望する顔こそが、私にとってなによりの報酬でございますからねぇ」


 大性郷に勝海舟と明恥政府とその走狗のからくり艦隊これくしょん。

 それだけで手いっぱいとうGTRに、ついに暗黒大陸までもが絡んでくる。


 激闘必至。

 千里波濤を越えるレースはまだはじまったばかりである。


 という訳で、今週もどエルフさん。

 筆者寝不足につき絶不調、悪ふざけ全開でお送りいたします。


「おぅい!! 体調を理由に筆を荒くするな!!」


 残業(肉体労働)きついっす。


◇ ◇ ◇ ◇


「さぁ!! GTRあーまーみー諸島二日目!! 次なる目的地は南トリ島!! 凪の海を越えてここからは航海の難所!! 浅く複雑な水路が生み出す渦潮と、突然降りつける驟雨!! 航行難易度爆上げのコースに、毎年脱落チームが多く出るここを、無事に乗り切り制するのはどのチームか!!」


 わぁという歓声の中、第二レースが始まる。

 アナウンスの力の籠った台詞からも、どうやらここがレース前半の山場らしいということが伝わってくる。


 第二レースは開催日と変わらない熱気と共に幕を開けた。

 それもこれも前日の威臨社によるおおまくり。

 大波乱のレース展開があってこそ。


 今年のGTRはちょっと違うぞという、往年からのファンを湧かせるような展開に、レース会場は湧き立っていた。


 そんな中、港を出るのは噂の威臨社。

 勝海舟が舳先に立つ鉄鋼船である。


 レースの流れは先日アナウンスされた通りである。

 第一レース一位の威臨社がまずは出港し、それに合わせて、前日のタイムが経過した後に後続の船が出港する。

 タイムレコードが累積されていくシステムだ。


 一様に出発して、各コースのタイムレコードを合算してもいいのだが、そこは自然との戦いを重視するGTR。

 レース時間帯のコントロールも含めて、レースを制する者を決める。


 もっとも、メリットもある。

 前を行く船の航行具合を見て、戦略の立て直しができるという点だ。

 より遅く出発するものは、前を行く船たちの航行の具合を見て、後追いで対策を練ることができる。それはなかなか大きなアドバンテージであった。


 とはいえそれは普通の海ならばの話。


「うぅむ、アナウンスにあった通りならなかなか航行に骨が折れそうな場所だな」


「だぞ。朝早くから、アンナや次郎長とこの辺りの海路を確認していたけれど、ちょっと航路を間違えれば難破してしまうややっこしい海路なんだぞ」


「これはなかなか、慎重な航海が求められますね」


「アンナの航海技術は私も信頼するところです。次郎長さんたちの情報をどれだけ信じられるかですか」


「なんでい、べらんぼうめ!! 僕らコシーミーズの次郎長!! 紅海のことならなんでも知り尽くしてますよ!! どーんと大船に乗ったつもりで安心してください!! ふっふーん!!」


「……不安だわ」


 不安だろうとなんだろと始まったものは仕方ない。


 もくもくと立ち昇る鉄鋼船の蒸気。

 その立ち昇る先には、うっすらと昨日の海にはなかった重たい雲が浮かぶ。


 驟雨。


 その予兆が早くも見えるその航路に男騎士が顔を歪める。

 しかし、意を決して彼はそんな不安な顔を振り払う。

 彼は船員たちの方を向く。


 ぞろりとデッキに集まった、大性郷を除くパイ〇ーツ・マルミエヤン・ドットコムの船員たち。先頭に立つ女エルフに言い聞かせるようにその視線を振りまいて、男騎士は背筋を伸ばすと声を発した。


「GTR二日目だ。さきほどケティたちが言った通り、ここは航海の難所。しかしながら、困難や逆境こそがチャンスだと俺は思っている。事実、先頭を行く威臨社の船は、ブラフかもしれないが航行に難儀している」


 一位出発のアドバンテージ。

 しかしながら、もうかれこれ男騎士たちの船が出発しようという頃なのに、威臨社の船の背中はまだまだ追える位置にあった。


 慎重に航路を選んでいるのか。

 それとも、後続の船たちを出し抜くためのまた作戦か。


 真意は分からないけれど、ここが勝負所というのは変わりない。


「こちらにはアンナが居る、次郎長がいる。自分で言うのもなんだが、歴戦の冒険者である俺やモーラさんもいる。初日の感覚で、なんとなくGTRの塩梅は掴んだ感じだ。いわんや、俺たちならばこのレース、きっと勝つことができるはずだ」


「……ティト!!」


「この勝負を勝ちにいくぞ。狙うは、第二レース一位通過。みんな、覚悟はできているか!!」


 おう、と、応じる仲間たち。

 白百合女王国の船上で今、決意を固めた男騎士たち。


 急造の海賊チーム、そして、恥ずかしくとても強そうではない名前のチーム名だが、それはそれ。


 彼らは本気だった。


「パイ〇ーツ・マルミエヤン・ドットコムの皆さん!! そろそろ出港時間です!! 準備はよろしいですか!!」


 運営スタッフのタグボートが接舷する。

 大丈夫だとアンナが合図をすると、すぐに彼らは海賊船から離れて行った。


 目の前の空には先ほどより増して、雲の量が増えているように見える。

 数刻後には嵐がくるか。海については素人の男騎士には分からないが、激闘必至の第二レースの開始を前にして、彼は深く息を吸い込んだ。


 祝砲が鳴る。


「さぁ、二位のパイ〇ーツ・マルミエヤン・ドットコム、出港です!!」


「……行くぞ!!」


 かくて、男騎士たちの第二レースがここに始まった。

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