第680話 ど女エルフさんとエルフリアン地獄変

【前回のあらすじ】


 セクシー!!

 おぉセクシー!!

 その動きまさしくセクシーオブセクスィー!!


 流れるようなその所作。計算されつくしたセクシィー。そう、粋と逝くは本来同義。粋に逝っちゃうイケてる柔術、それがエルフリアン柔術。


 今みんなやっているのはこれ――そう自信をもって若者にお勧めできるのが、エルフリアン柔術。


 もやしだって、緑豆だって、ベビーリーフだって、みんなみんな生きているのさ。そんな力強い、生命の息吹を感じさせてくれるエルフリアン柔術。


 開祖はもちろんご存知この方――エルフの里に住んで千年とちょっと。


「私がエルフリアン柔術を造りました、姓を珍宝、名を金玉と申します」


 キーング!! キーング!! キーングエルフ!!


 エルフの中のキング。

 王にしてエルフ。


 そんな男が苦難の末に編み出した、弱者のための弱者の技。かよわいチワワでも、バンビちゃんでもこれを習えば、たちまち百獣の王が如し。


 意志なき力は暴力。

 力なき正義は無力。

 しかし、エルフリアン柔術を極めれば――世に敵はない。


 そうエルフリアン柔術とはすなわち真理。武術ではない、人間としての生き方を学ぶこともできる素晴らしい総合学問なのだ。


 極めよエルフリアン柔術。

 讃えよエルフリアン柔術。


 テレビの前で迷っている貴方。やろうと思った時、既に貴方はエルフリアン柔術を始めている。あとはほんのちょっぴりの勇気と、準備金が必要なだけ。


「その準備金も成果が感じられない場合は全額お返しいたします!! 満足度、驚異の120パーセントぉっ!!」


※ 成果の感じ方は人それぞれです


 さぁはじめようエルフリアン柔術。

 女の人でも安心エルフリアン柔術。

 エルフでもできるから誰でもできるエルフリアン柔術。


 あなたもエルフリアン柔術!? 私もなの!! そんな素敵な出会いが待っているかもしれない――エルフリアン柔術!! お申し込みはいますぐ――!!


「って!! アホー!! またそんな、身内の恥を!! アッホーぅ!!」


 という所でモーラさんご乱心。

 真面目な展開でまたしても今週のどエルフさんは大丈夫かと思われた皆さん、大丈夫です。全力悪ふざけまったなし。

 そう、エルフリアン柔術ならね。


 とにもかくにも、モッリ水軍の頭領の一人。

 長男坊テルが見せたのは、モーラのよく知る特殊技能。


 彼女の兄が考え出した秘儀エルフリアン柔術であった。


「……こんなアホな技。まさか、本当に習っている人が居ただなんて」


 世の中、広いようで狭いですね。


◇ ◇ ◇ ◇


 エルフリアン柔術。

 かつて、女エルフの兄――西の国はエルフの森の里長、エルフの中の王を自称する男ことキングエルフによって編み出された変態格闘技である。

 とはいえ、その術はまさしく本物。


 弱き者のために研ぎ澄まされた必殺の牙。

 力なき者たちのために振るわれる、その技はまさしく理の集合体。

 しかしながら――副作用も強烈。


 きらめくけつ、プリめく肌、そう、その尻はさながら、浜辺に打ち上げられた青魚。そんな新鮮ぴちぴちな鮮度の良さがあった。


「……こんなアホな技。まさか、本当に習っている人が居ただなんて」


 まさかのあらすじと同じ感想を漏らす女エルフ。

 自分の兄が創出した技だというのに酷い言い草もあったものである。

 しかしながら、西の王国からは遠く離れた東の島国。そんなところまでエルフの技が伝搬していることは確かに驚嘆であった。


 おそるべし――エルフリアン柔術。


「エルフリアン柔術!! まさか、かつて私たちを救った技が敵として立ち向かうとは!!」


「……言うほど救われたか?」


「ふふっ!! どうやら、エルフリアン柔術を知っているようだなお嬢さん!! しかし、僕をただのエルフリアン柔術使いと思ってもらっては困る!!」


 そう言って、はらりと褌をはだけるモッリ水軍頭領の長男坊。


 あわやその股間を覆っていた腕一本あるかないかの白帯がなくなりラッキースケベかと思われたがそうはならない。

 はたして、海風にさらわれた白褌の代わりに、彼の股間に現れたのは、ショッキングなピンク色をしたものであった。


 なんだアレはと女エルフと新女王が絶句する。

 キングエルフの姿を彷彿とさせるふんどし背中立ちをかましてみせた長男坊は、男の背中と尻で語る。


 そう。


 その姿こそは間違いなく、彼がエルフリアン柔術を極めた証拠。

 珍宝金玉が編み出した、全てのカリキュラムと有料コンテンツを消化し、さらに追加で上納金を納めることにより与えられる、エルフリアン柔術免許皆伝の証。


「見よ!! エルフリアン柔術インフィニティ段の証拠!! 桃色の褌!!」


「エルフリアン柔術インフィニティ段!!」


「桃色の褌!!」


【アイテム 桃色の褌: エルフリアン柔術インフィニティ段の腕前を持っていることを示すアバターアイテム。これを持っていると、重度のエルフリアン柔術信者であると一目で分かるすぐれもの。更にこの褌を持っているだけで、異性(宗教とか壺とか非公開株式投資を持ちかけてくる)にモテる、運(応募してもいない懸賞金が当たる、還付金が手に入る)がよくなるすぐれものだ。さぁ、はじめよう、エルフリアン柔術!! 君も、金と金があればすぐに免許皆伝だ、エルフリアン柔術!! ぶっちゃけ、エルフの森の主な収入源だったりするぞ、エルフリアン柔術!! 讃えよ!!】


「なんてもん売りつけてんだあの兄貴あほはァー!!」


 大海原に、女エルフのアホの叫びが木霊する。

 遠く四海の果て、西の王国まで届けとばかりの怒声であったが、それは戦乱の只中に意味不明の怒号として消えた。


 悲しいかな、エルフリアン柔術の前に、女エルフは無力であった。

 彼の兄が創設した技だというのに対処不能であった。


 やはりエルフリアン柔術は当世無双。

 最強の武術に疑いの余地はなかった。


 エルフリアン柔術は異世界にして最強。

 ここにその証明がなされた。


「さて、エルフリアン柔術の極意の一つ。七転び八勃やぼきをお見せいたそう」


「お見せ!! するな!!」


「くぅっ、なんというエルフ力!! お姉さま、感じませんか!! あの人間から発せられる、類まれなるエルフ力を!! 人ながらにしてあれだけのエルフ力を放つことができるなんて、相当のエルフリアン柔術の使い手ですよ!!」


「なんだよエルフ力って!! そんなもの三百年生きていて一度も感じたことないわよ!! というか、人ながらにエルフ力ってどういうことよ!!」


「……私も習おうかしら、エルフリアン柔術!!」


「やめておきなさい!! それだけは絶対に!!」


 止める女エルフ。

 高笑いを浮かべるモッリ水軍頭領長男坊。

 脂汗を滲ませる新女王。


 その横で――。


「ふぅん。若ぇのは威勢がいいねぇえ。よろしいそうでなくっちゃぁ。元気であるのが一番よ。エルフも人間も。どだい、海の道を行こうなんて奴にゃ、それくらいの気概がなくっちゃ務まりゃしねぇ」


 女エルフたちの乗る船に、いつの間にか鋼の船が並んでいた。


 その舳先。

 海の果てを見据えて笑うは白髪の老人。

 黒い羽織を着こんだ、不敵な老人が佇んでいる。

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