第591話 ど男騎士さんと下浪漫流忍術
【前回のあらすじ】
相まみえる聖剣と魔剣。
男騎士の剣技が冴えわたる。しかし、それに負けじと聖剣も鋭い一撃を繰り出す。すわ、どエルフさんにしては久しぶり。剣戟飛び交う大混戦へと発展した。
しかし――。
「おいたわしいですわね、エロスさまでは私は倒せないというのに」
大味な西洋剣術を使う男騎士。
そんな彼に対して、聖刀の使う剣技は東洋剣術。いや、刀術。
神速妙味にして繊細なその技の前では児戯も同然。力ではなく、技術の面での差は明白と言い切ったのだった。
だが、それに対して男騎士。
それはどうかなと不敵に微笑む。
その笑顔、まさしく我に秘策アリ。
はたして彼が繰り出した秘策とは――。
「見るがいい!! 下浪漫流忍術!! ふんふふんふん影分身の術!!」
剣術でもなく、魔法でもない。
忍術であった。
◇ ◇ ◇ ◇
【キーワード 下浪漫流忍術: 中央大陸にかつて存在したという、下浪漫帝国の諜報機関が考案したという謎の武術。その技は東洋忍術と勝るとも劣らず。奇妙奇天烈摩訶不思議。変幻自在になんでもありのなんかよく分からない言葉の力で押し切るタイプの御都合技である。なお、下浪漫流忍者には、シュバルツ、ブルーダー、キョウジという厳密な身分制度が存在し、それぞれが役割分担を行うことで、適切に物語を進行するのだ。そう!! 兄さん、やっぱりアンタは俺の兄さんだ!!】
【キーワード ふんふふんふん影分身の術: かつてショーホク地方に住む赤い坊主が得意とした妖術。自分の分身を作り出し、こいつやはり天才かと困惑させる術である。二重に危険なパロディ必殺技である!! アンザ〇先生、ラーメン食べたいってばよ!!】
繰り出される男騎士の残像。
一人でも鬱陶しいのが二体、三体、四体と、ふんときばる度に増えていく。
それぞれがそれぞれ、思い思いにポージングを取っている所がまた絶妙に腹立たしい。ふんふふんふん分身。どうやらその気合で増やした分身は、それぞれが実体を持っているらしい。
いつの間にこんな技をと愛剣が絶句する。
対する聖刀も絶句する。
そう、男騎士はまっとうな西洋騎士である。
そして、下浪漫流忍術などとは縁もゆかりもない人生をこれまで歩んできていた。なのに、いきなりどうしてこんな技が使えるようになったのか。
これには流石に男騎士の相棒である魔剣にも困惑しかなかった。
そして、同様に聖刀もまた、その予想外の剣術ならぬ妖術に困惑した。
そう。
確かに彼らが戦慄し困惑したのは無理もない。
男騎士がそんな技能を持っているなど、誰も知らなかったのだ。
いやむしろ、男騎士さえもそんな技が使えるとも思っていなかったのだ。
為せば成る。為さねば成らぬ。何事も。
これこそが下浪漫流忍術の極意であり神髄である。であるからして、使おうと思ったときには、既に使えるようになっているのだ。気合だ、気合いだ、気合いでお前は下浪漫流忍術の愉快なマスク男になるのだ。そういう強い思い込みが、男騎士を急激に成長させたのだ。
つまるところ。
男騎士はこの短期間で下浪漫流忍術を体得したのだ。
浪漫飛行薬により理性を蒸発し、バグ技により賢くなった頭で、一瞬にしてそれを体得してみせたのだ。今の彼ならば、アインシュタインの相対性理論でさえ、一瞬にして理解してみせるだろう。
賢さ、そして、溢れ出る野生、さらに、戦士としての経験値。
ありとあらゆる好条件によりステータスが底上げされた。それによる恩恵を受けて、男騎士は今――ノリに乗っていた。
いや、悪乗りに乗っていた。
「甘いぞド〇ン!!」
「誰がドモ〇だよ!? おい、大丈夫なのかティト!!」
「大丈夫だ問題ない!! なに、繊細な技だなんだと言った所で、数の暴力には敵うまいて!!」
「果たして、無尽蔵に増え続け
「聖刀トウカ!! 剣の構えは十分か!!」
行くぞ。
もはや片手に数えられないほどの人数に分裂した男騎士が一斉に構えを取る。
三百六十度。
ぐるりと男騎士に囲まれた聖刀が、ばかなと呟くより早く、虎のマスクを身に着けた男騎士が突撃を開始した。
「
「いろんなところから迷惑くるような必殺技じゃねえか!!」
「エロスさまが無限に剣製されているから、パロとしてあり得なくはない感じもしないでもないけど――やっぱりないですよそれ!! ていうか、いや、いやぁっ!! やめてっ、こないでぇっ!!」
【キーワード HENTAI: HENTAIは万国共通のエロワード(二次元系の総称として使われているそうです)。君も、困った時にはHENTAIで検索してみよう。思わぬ世界が開けるかもしれないぞ。なお、違法アップロード動画の視聴はダメ絶対。見るならちゃんとした企業が運営する動画配信サイトで見よう。katternお兄さんとの約束だ】
「くそっ!! まさかこんな変態オチだなんて!!」
「もっとカッコいい戦いを想像したか。くだらんな。戦いに卑怯も立派もない。あるのは勝者と敗者だけだ。正義だのなんだのとのたまうのならば結構――理想と共に溺死しろ!!」
「デ騎士ってかんじだけどなァ。っていうか、ティト君、これ、味方の俺から見ても、相当ひどい技に思えるんだけれど」
やぁやぁやぁやぁと、聖刀へと躍りかかる男騎士。
あっという間に聖刀をもみくちゃにした虎マスクの一団は、いつの間にやら山となり、森の中に殺伐とした風景を構成するのだった。
そう――。
「体はHENTAIでできている」
「認めるんかい」
男騎士はまごうことなき変態であった。
心は硝子のHENTAIであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます