第543話 ど第一王女と家族の絆

【前回のあらすじ】


 第二王女はガッチガッチの腐女子。

 第三王女は割と重めのヅカマニア。

 第四王女は声優オタ。

 第五王女はオジ専のアイドルオタ。


 そして彼女たちが支える第一王女は、筋金入りのエルフスキー。


 白百合女王国黄金の五姉妹は、揃いも揃って困った趣味を持った奴らだった。


「いや、それ、国を救うのに必要のない情報だよね!! どうして話逸れた!!」


 どうしてでしょうね。(ネタ切れ)


◇ ◇ ◇ ◇


「趣味についてはどうでもいい。というかそんなん人の自由や。腐っていようとヅカっていようと、声豚だろうとドルオタだろうと、そんなのはどうでもええねん」


「お姉さま。それはつまり、私のエルフへの愛を認めてくださる、ひいてはお姉さまとの正式なお付き合いについて認めてくださるということですね」


「違うわ!! 馬鹿たれ!! そういう話をしてるんじゃないのよ!!」


 女エルフの前で正座する男騎士たち。


 やりすぎちまいました。

 そんな感じで膝を揃えて正座する彼ら。

 そんな彼らに虫でも見るような厳しい視線を女エルフは向けた。


 なんだよく分からない盛り上がりを見せた、どきどき白百合女王国の王女たちの性癖暴露大会。それをいつもの怒髪天ツッコミで終了させて、女エルフは仲間たちの前で腕を組む。


 女エルフには許せなかった。

 このシリアスな場面で、いきなり状況をブレイクさせて、どうでもいい話を始めるパーティメンバーの無神経さが許せなかった。


 そして、腐女子が、ヅカがと、人の趣味をとやかく言うメンバーの無神経さが腹立たしかった。


 そんなん人の自由や。

 その言葉に女エルフの怒りは集約されていた。


 そう、かくいう彼女も、割とそういう所がある系エルフである。

 腐とまではいかないが、レディコミ系は割と読む系エルフである。


 まぁ、ちょっと過激なのは流石にあわないかなーと横に避けつつ、男と男がくんずほぐれつイチャイチャする小説やらなにやら嗜む感じのエルフである。


 故に許せなかった。

 人の趣味をまるで悪癖のように弄るこの一連の流れに怒りを覚えた。

 精神の自由、信仰の自由、想像の自由。

 それを何よりこの女エルフは尊んでいた。

 そして、その自由に敬意を払っていた。


 それを仲間たちが無神経に踏みにじるのが彼女には許せなかったのだ。

 なまじ、自分の信頼した仲間が、そんなことを言い出したのが、腹立たしくて仕方なかったのだ。


「まぁ、モーラさんも男同士がきゃっきゃうふふするの好きだものな。怒るのも仕方ない」


「ちゃうわい!! そんなどうでもいい話題で場が混乱してるのに怒ってるんじゃい!! 今は白百合女王国の危機じゃろがい!! もうちょっと緊張感もて!!」


 違った。


 いつもの女エルフであった。


 話の脱線許さないウーマン。

 物語のブレーキ役。

 いつだって、曲がった流れが大嫌い。


 この世界で唯一真面目にファンタジーやっている女エルフさんであった。


 彼女的に性癖がどうこうの流れはノーサンキュー。

 それよりも、しっかりと今後白百合女王国の復活についてどうするか、話し合いをしたいというそういう怒りであった。


 真面目だなどエルフさん、まじめだ。


「で、エリィの姉妹たちを集めて、白百合女王国を建て直すという方針で間違いはない訳ね」


「えぇ、それが一番現実的な路線でしょう」


「だぞ。まぁ、なんだか王女たちのパーソナリティに問題はありそうだけれど、それが一番白百合女王国の復活に適した道っぽいんだぞ。前王政の中枢に近い位置に居た人間が権力を継承するのが、混乱がなく政治を移行するのに適切なのは、歴史が証明してくれているんだぞ」


 法王とワンコ教授が同意する。

 第一王女も、しぶしぶながらそれが一番妥当でしょうという顔をして同意する。


 かくして男騎士パーティの方針は決定した。

 となれば話は早くなる。


「さっそく第二王女に渡りを付けましょう。エリィ」


「……はい。しかし、上手く行くでしょうか」


「家族の絆を信じなさい。大丈夫。貴方の義姉妹はなにも妹たちだけじゃないわ」


「お義姉様」


 私だって貴方の姉貴分なんだからとない胸を張る女エルフ。信頼する彼女の言葉に絆されて、そうですねと第一王女の顔から不安の色は消え去った。


 困難な時に共に立ち向かうのが家族である。

 事実、第二王女は白百合女王国の危機に、過去の遺恨を清算してかけつけてくれている。今はその気持ちを信頼するより他にない。


「大丈夫。本当にこの国のことなどどうでもいいなら、こんなに早く支度を整えて姿を現すようなことはないわ」


「だぞ。他の姉妹たちも、きっとエリザベートが帰還するのを待っているに違いないんだぞ。エリザベートが姿を現して、この国の女王として立つ時のため、雌伏しているに違いないんだぞ」


「モーラさんとケティさんの仰る通りかと。エリザベートさま、今一度、妹御さんたちを信じられてはいかがでしょう。教会の主導者としても、そして、姉を持つ身としても、そうされるのがよろしいかと私は進言いたします」


 ワンコ教授と法王が追従する。


 それに対して、わかりましたと頷く第一王女。

 けれど、サポートはよろしくお願いしますとばかりに彼女が男騎士たちを見た。


 その時――。


「……あれ? そう言えば、ティトさんの姿が見えませんが?」


「へ?」


「だぞ?」


「はい?」


 いつの間にかパーティメンバーの輪の中から男騎士が消えていた。

 それは、本当に唐突、そしてあまりに予想外のできごとであった。


 いったい何があったのか。

 しかもこの大事な場面でなぜいきなり姿を消すのか。

 信じられないと呆れた感じにため息を吐く女エルフたち。


「どうせ一人抜け駆けしたんでしょう。もう、本当にしょうがないんだからティトってば」


「だぞ。まぁけど、結果的に第二王女に助力を願うことには変わりないんだぞ。それがちょっと早くなったと思えば」


「いや、けど、見える範囲にティトさんの姿はありませんけれど」


 独りシリアスな法王の言葉。

 ぽかんとした間が彼女たちの間に空いた。


 それから慌てた様子で女エルフたちが辺りを見渡す。

 しかしながら、第二王女の近くにも、隊商の女たちの中にも、そこから離れた民衆の中にも、見える範囲の路地裏の入り口にも、男騎士の姿はなかった。


 リーダーである男騎士。

 その突然の失踪。

 さぁいよいよ反撃の方針が定まったというタイミングでの事件に、女エルフたちはさぁとその額に粘っこい汗を掻く。


 なまじ――。


 ここはかつて、別行動により問題が発生した国である。


「このパターン」


「なんだか嫌な予感がするんだぞ」


 長い付き合いの女エルフとワンコ教授。

 二人の顔は、付き合いの浅い法王と第一王女よりも深刻だった。

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