第539話 ど第二王女さんとレジスタンス活動

【前回のあらすじ】


 荒廃する白百合女王国。

 もはや旧政府の要人たちはその地から完全に姿を消して、彼の地の再建は外部からの手を入れなければ不可能かと思われた。

 自らの不甲斐なさに打ちひしがれる第一王女。


 しかしそんな彼女の前に現れたのは思いもかけない人物だった。


「こらっ!! 何をしみったれた顔をしているのよ!! それが音に聞こえし白百合女王国の民草なの!! お養母かあさまの薫陶を忘れたのかしら!!」


「おぉ!! ローラさま!!」


「ローラさまが御帰還なされた!!」


「皆、見ろ!! 我らにはまだ希望があった――第二王女さまが御帰還なされたのだ!!」


 その血に流れている魔神の呪いを拡散させぬため、代々一人しか子を成さないはずの白百合女王国。しかしその概念が歪む第二王女の出現。

 第一王女とは似ても似つかぬその風貌。

 そして、女傑カミーラとはまた違った覇気を見せるその少女。


 はたしてその正体は――。


◇ ◇ ◇ ◇


「ちょっとエリィ、これはいったいどういうことなの? 貴方が白百合女王国の唯一の王女じゃなかったの?」


「だぞ!! 魔神の血を薄めるために、子孫は拡散させないようにしてるんじゃなかったのかなんだぞ!! これはいったいどういうことなんだぞ!!」


 困った顔をする第一王女。

 あまりの展開に気遣う余裕もないのだろう、女エルフもワンコ教授も少し強い口調でそれを問い詰めていた。

 一方で、それを冷静に見つめているのは法王だ。


「待ってください二人とも。それについては、エリィさんからお話するより、私からお話した方がいいかもしれません」


「リーケット?」


 慌てふためくばかりで声も出せない第一王女。

 そんな彼女に代わって説明を申し出たのは他でもない、部外者以外の何物でもないはずの法王であった。


 彼女はおほんと咳ばらいをして、第一王女に同意の視線を向ける。しかし、それを無言で躱されると、仕方ないですねという感じにため息をこぼした。


 女エルフの顔にまた冷静さが戻る。

 動揺しているのは第一王女も同じなのだ。

 なのに、いささか配慮を欠いた言い方だった。しかし、それよりもなによりも、今は優先して知らなければならないことがある。


 あの第二王女とは何者なのか。


 そもそも――。


「第一王女という呼び名の通りです。白百合女王国の王女は実は複数います」


「だぞ!!」


「どういうことなのよ!! 魔神シリコーンの血を薄めるんじゃなかったの!! どうしてそれなのに複数の子供がいるのよ!! シュラトもそうだけど、あのおばばちょっと性知識と股がガバガバなんじゃない!!」


「いえ、そうではないのです。王位の継承権と血縁は本来関係ありません」


 どういうことなのと女エルフが顔をしかめる。

 分かりませんかねと少し勿体つける法王。


 その前で、ここぞとばかりに頭が回ったワンコ教授。なるほど、そういうことかという感じに彼女が頭を縦に振った。


 どうやらワンコ教授には法王に言わんとすることが分かったらしい。

 分からない女エルフのために、法王が更に言葉を補う。


「女傑カミーラが卓越した政治家であることは、会ったことのある貴方も知っていますね、モーラさん?」


「えぇ、それは。なかなか、人間にしておくには惜しい女傑だったわ。それに、まぁ、パンツ一丁で大暴れっていう、絵面的には最悪だけれど、強い力も持っていた」


「そうです。彼女は常に考えていました。魔神の力を秘めた自身の呪われた血脈のこと。その命脈をかろうじて繋ぎ止めながら、拡散せずに、なおかつ、一族の身を守る方法を。そのために、彼女は積極的に養子縁組を取ることを選んだのです」


「養子」


「縁組?」


 はい、と、法王が頷くと、それに追従するように第一王女もまた頷く。

 王位継承権で言えば、一番強い権利を持っているだろう彼女は、もう大丈夫です、これは私たち一族の問題ですからと法王に告げ、その本来の役目を取り戻した。


 動揺はまだ顔にある。

 それでも、彼の女傑の血を引くただ一人の王女として。

 そして、白百合女王国を継ぐべき立場だった者として、はっきりとした口調で彼女はその言葉を紡いだ。


「母上は、ローラを含めて、合計四人の娘を養女として迎え入れました。もちろん、王位継承権は彼女たちにはありません。彼女たちは、私が即位した際に、有能かつ信頼できる家臣として使えるように教育された子飼いの家臣なのです」


「だぞ」


「なるほど、あの女傑が考えそうなことだわ」


「ですからお姉様――性知識がガバガバでも、股がガバガバでもないんです。お母様にはお母様の、ちゃんとした考えがあるんです」


「だというのに無理やり下ネタにつなげてこき下ろすなんて。流石ですねどエルフさん、さすがです」


「そうだ!! オババに謝れ!! この色ボケ女エルフ!!」


「ちょっと待って、なんでいきなりここでどエルフオチに舵を切るの!!」


 なんかちょっと、なるほどそういうことだったのかと、シリアス展開で終わる感じだったじゃないのと、狼狽える女エルフ。


 しかし、身から出た錆、言い訳はできぬ。

 何も考えずに、ガバガバとか言っちゃった女エルフがこればかりは悪かった。


「謝ってくださいお姉さま!! こればかりは母の名誉のために譲れません!!」


「だぞ!! よく分からないけど謝ってあげるんだぞモーラ!!」


「謝罪!! 謝罪!! D・V・D!!」


「この度はどうも私の頭が淫乱ドピンクどエルフなせいであらぬ誤解を招いてしまってすみませんって、謝るんだモーラさん!!」


「そうだけれど、そうだけれども――」


 納得いかない。そんな感じで、女エルフが顔を引きつらせた。

 いつもの安定の理不尽どエルフオチである。


 けど、実際思ったんだから、仕方ないよね。

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