第525話 どエルフさんと泣き女

【前回のあらすじ】


 女修道士シスターが自分の葬式に頼んだ仏教の流派は真言勃〇流であった。


「だったら南無南無言ってるのおかしいじゃない!! あんまりよこんなお葬式!!」


 ドリ〇や志村け〇のお葬式ネタを見たことないのかどエルフさん。

 こんなの私らの世代からしたら当たり前レベルですよ。

 そんなエシディ〇みたいに泣かなくってもいいんではなくって。


 流石だなどエルフさん、さすがだ。


「何が流石や!!」


◇ ◇ ◇ ◇


「それではこれより出棺となります。皆さま故人をどうか温かくお見送りください」


 淫らな響きの読経が終わり、ようやく落ち着いた教会内。

 ツルッパゲの僧侶と、彼に続いて棺を持った教会のスタッフたちが続いていく。多くの弔問者が見守る中、コーネリアが入った棺は教会の外へと出た。


 ぱらぱらと、彼女の死を天が悼むように、冷たい雨が天からは降り注ぐ。


「シコりんさま!!」


「性女さまぁ!!」


「うわぁあん!! いかないで!! ドチャシコおっぱいお姉ちゃん!!」


「……なんだろう、ちっとも悲しい別れという感じがしないのは」


 虚無の瞳でその出棺風景を眺める女エルフ。

 皆が涙ぐみ、そのあまりに早すぎる女修道士シスターの死を悼んでいるその最中で、彼女だけが唯一冷めた瞳でその光景を眺めていた。


 どエルフ故か。

 死後も散々な目に合わされたが故か。


 なんにしても、これは儀礼的なもの。

 無事に彼女の魂を冥府島ラ・バウルから救出すれば復活するのだ。

 女エルフは、冷静に今の状況を割り切ることにしたのだった。


 ふと、その時――。


「あれ、ティト?」


 先程まで隣に居た男騎士の姿がなくなっていることに女エルフは気が付いた。

 腕を組み、涙ぐんで、仲間の死を眺めていた男騎士。それがいったい、どこに消えてしまったのか。まさか自分を救って命を落とした女修道士シスターへの申し訳なさから、むせび泣いているのではないだろうか。

 そんな想像が女エルフの頭の中を駆け巡る。


 しかし――。


「あぁん!! シコりん!! どうして!! どうしてぇ!! アタシを置いて一人で行かないでシコりん!! アタシ、そう、アタシは――」


 エルフィンガーティト子。

 例によって例の如く、女装して、更にエルフに扮した男戦士が、女修道士が眠っている棺桶にすがりついてむせび泣いていた。


 何をやっておるんじゃあいつはと女エルフが硬直する。

 そんな彼女の隣に、そっと歩み出たのは女修道士シスターの妹。この葬式の喪主を務めている女、法王リーケットであった。彼女はそのトンチキな光景に、少しも動じることもなく淡々とした顔で女エルフに向かって言う。


「泣き女ですよ。流派は違えど、やはり葬式に泣き女は必要でしょう」


「……けど、なんであいつに頼むのよ」


「いえ、他の人にも頼みましたよ?」


 嫌な予感が女エルフの背筋を走る。

 普通に泣いて追いすがっているワンコ教授。流れでなんかやってきた第一王女。そこに向かって――駆けてきたのは明らかに腹回りの大きい男。


 そう、そして、いつぞや自分が着古した旅の装備を身に纏った男。


「おぉん!! コーネリア!! どうして死んでしまったんだコーネリア!! 君が死んでしまったら、俺はいったい誰からどエルフ品の横流しをしてもらえばいいんだ!!」


「……あ、アイツは!!」


「そう、俺こそは――エルフィンガー店主!!」


 エルフィンガー店主であった。

 いい歳した女がスク水を着るのもウワキツ。だがそれよりも、いい歳したおっさんが、女装をしてむせび泣いているのもウワキツ。


 更にエルフィンガー店主は化粧をしていた。

 白粉をべったりと顔に塗りたくって、エルフの白い肌を表現していた。


 これでもかといわんばかりのエルフへのこだわり。

 そして、歪んだ愛情。


 それがどうしてこの場で炸裂しなくちゃならないのか。


「だからお葬式!! もうちょっと真面目にやってあげなさいよ!! 可哀想でしょ!!」


「あんなのでも泣かないよりはマシでしょう」


「そんな訳ないじゃない!! 泣かない方がマシよ!!」


「まぁ、他にも頼んでありますので」


 また、嫌な予感が女エルフの脳裏を過る。

 するとこれまた女装した、ツルッパゲがコーネリアの棺にすがりついた。


 その耳は加工するまでもなくエルフ――。


 そう。


「シコリン氏!! 我が妹の親友、シコリン氏!! どうして君のような若い娘が、不運にも命を失わなければならなかったのか!! そう、俺が――!!」


「なにやってんだお前ァ!! 馬鹿兄貴ィ!!」


「エルフクィーン!!」


 まるでロックミュージシャンのように力強いポーズをとるそいつはキングエルフ。

 今日は女装で褌は隠れていたが、それでも、布の下に隠しても隠し切れない、見事なケツのプリめきが潜んでいた。


 おそるべし、エルフキング。

 おそるべし、エルフリアン柔術。


 本物のエルフの泣き女の登場に場がにわかに盛り上がる。

 その一方で、女エルフはただ一人、死んだ目をしてそれを眺めていた。


 身内の恥の披露宴か。

 葬式の終わりは故人の思い出話に浸って盛り上がるものだが、これは幾らなんでもあんまりなんじゃないだろうか。そんな感じで、女エルフは死んだ顔をした。


 しかし。


「まぁ、この三人が出たなら、もう終わりでしょう。はい、ネタ終了。さっさと本編に戻りましょう。冒険の始まりよ」


 三アホが出きった所で安心した女エルフ。

 すっかりと、この先などないという感じで、彼女がははんと鼻を鳴らす。

 するとそれに対して、怪しい微笑みを法王が返した。


 また、ぞくりと、女エルフの背中に悪寒が走る。


 その時、まったく聞いたことのない男の声が寒空の上に響く。


「シッコリーン!!」


 マントをはためかせて駆けてくるそいつ。

 金髪ツインテール。しかし、それで誤魔化そうにも誤魔化せない、ごつい顎髭、男らしい顔立ち。男騎士とそう年齢に違いがないはずなのに、やたら老成している彼の全力疾走に、女エルフが目を剥く。


 そんな彼女の目の前で、彼は自分のマントを踏み抜いて盛大にずっこけた。


「大丈夫か!! エルフィンガーゼク子!!」


「傷は浅いぞ!! エルフィンガーゼク子!!」


「慣れない女装で緊張したか!! エルフィンガーゼク子!!」


 壁の魔法騎士である。

 膝を衝いて立ち上がった彼。

 にっと不敵に微笑んで、そして眼鏡の縁を持ち上げる。


 そう、まるで、何も問題ないように。

 まったく痛くないというそんな感じで。


「……問題ない」


「問題しかないわ!! なにやってんだお前!!」


 まさかのシリアスキャラのギャグ乱入。

 そういうことするキャラじゃなかったでしょうという女エルフの驚きを余所に、三アホ+バカ真面目は、わっしょいわっしょいと女修道士シスターの棺を担ぎ上げるのだった。


 もはや、泣き女とか関係ない。

 新宿二〇目の悪ふざけの体であった。


「頼んだら二つ返事で協力してくれたました。いい人ですね」


「頼むなよ!! あんな奴に!!」

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