第524話 どエルフさんとお経
【前回のあらすじ】
その一人が、
惜しい仲間を失くしたと思った矢先。
その芳名を読み上げると――。
「モロー・チンチンゲール――って、下ネタかぁい!!」
「あと、これは香典ですじゃ。割り切れる数字は不吉ということで、小銭を集めて参りました。いや、苦労しましたじゃ」
「6969ゴールド!! 割り切れないけど!! そりゃ結婚式の作法だ!!」
真面目ないい話と思わせてやっぱりギャグだよどエルフさん。
そして女エルフ。彼女はどうやらどうあっても、
◇ ◇ ◇ ◇
芳名の記入についても一段落がつき、ワンコ教授と第一王女に役目を代わってもらい参列者の席に戻った女エルフと男戦士。
はぁとため息を吐きながら、彼女は死んだ瞳で
まさしく
屈託なく全力のダブルピースでアヘ顔を晒す
その表情に、ここに至るまでさんざんに死後にもかかわらず彼女に痛めつけられた女エルフは、湿っぽい葬式だというのに額に筋を立てた。
どうどうと男騎士が彼女をなだめるように肩を叩く。
「弔問者の名前の半数が下ネタってどういうことよ。あいつ、わざと変な名前を教えてたんじゃないでしょうね。こんな下ネタ乱舞ってあります」
「逆に、周りも名前が下ネタ過ぎて教えるに教えられなかったのかもしれない。話の前後が分からないのに、コーネリアさんを悪く言うのはよそうモーラさん」
「そうかもしれないけれど!! けど!!」
その先の言葉をぐっと女エルフは喉奥に飲み込んだ。
死してなお、
それでなくても彼女の晩節をむざむざ汚すのは流石にためらわれた。
ここ一番。最後の最後で、ちゃんと女エルフは我慢した。
なんといってもパーティー内でも親しかった間柄である。どちらかというと保護者と被保護者という関係だったワンコ教授はさておいて、女エルフと
弄り弄られるという関係は抜きにしてだ。
そんな相手の最後のお別れ――すぐに復活する予定ではあるが――を、汚さずに済むのであれば汚さずに済ましたい。
既に遺影の所為で取り返しのつかない状態になっている感もないでもない。けれど、女エルフは心から、
葬式も既に半ばを過ぎた。
あとはもう出棺まで時間を待つばかりである。
疲れた。
そう呟いて女エルフが肩を落として目を閉じる。
壮絶な暗黒大陸との戦いを経て満身創痍。
疲労困憊の彼女はしばし漆黒の世界にその精神を委ねた。
しかし、視覚を閉ざしても、感覚というのは完全にシャットアウトできるものではない。嗅覚、触覚、とりわけて聴覚が、彼女の安らごうとする心に対して不要な刺激を与えた。
そう。
彼女の鼓膜を振るわせて――ようやく沈静化した脳のどエルフ野を刺激した。
「南無南無南無南阿無南阿無。南無南無南阿無南無南阿無」
「うーん、仏式の葬式って初めてだけれど。まったく何を言っているのか分からないわね。こんなの有難がるなんて、東の島国の人たちはよく分からないわ」
「人の数だけ神はいる。というか、これからそちらの方に行こうとしているのに、そういう不寛容な発言はよそうモーラさん」
「そうね。それでなくても死者の安寧を祈って唱えているものだものね」
ケチを付けるのは間違っているわ。
そんな感じに大人の対応をしようとするが――。
そこはどエルフ。
「
「……うぉい!! うぉい!! なんだその読経!!」
「モーラさん!? どうしたんだ、普通の読経じゃないか!!」
「いやいや、普通じゃないだろ!! これ、どんな意味だよ!! 限りなく不穏当な匂いがしますけれど!!」
読経の音の響きに食いつく。
無理もない。
女修道士が頼んだ仏式の葬儀の流派は――真言勃〇流であった。
「
「なんかまた業の深いこと言ってる!! 直接的な感じはないけど、妙になまめかしいことを言ってる!! ティト、ちょっとティト!! この葬式おかしい!!」
「……おかしいのはモーラさんの耳じゃないか。大切な仲間の葬式に、何を言っているんだ。こんな時でもどエルフとは。流石だなどエルフさん、さすがだ」
「いや、よく聞きなさいよ!! おかしいでしょこんなん!!」
読経とは世の理と煩悩について語り聞かせるもの。
その内容は、よく聞いてみると、なんていうかとっても俗っぽい。
なのでおかしくないといえばおかしくないのだが――。
「
「ほらぁ!! なんか手で変なポーズしてる!! あんな読経ないでしょ!!」
「モーラさん、もう、受け入れるんだ。コーネリアさんはもういないんだよ」
「親友の死を受け入れられなくて幻聴が聞こえるとかじゃない!! これ、ほんとおかしいって!! いいの、こんなお葬式で!! コーネリア泣くわよ!!」
こいつは実際、やりすぎであった。
ひでえ葬式もあったもんである。
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