第十章 悪霊VS英霊!! 決戦暗黒大陸!!

第500話 ど男騎士さんといざ最終決戦

【前回のあらすじ】


 おめでとう。

 モーラは田舎エルフから、バブリーエルフに進化した。


「……ちっともめでたくない!! なんだこれは!!」


 なんだって、あーた、自分のことでしょうが。


「自分の事ってちょっと!! いくらなんでも、これはないわよ!! なんで進化のベクトルが、店主の斜め上行っちゃってるのよ!! ツッコみ役の私がこんな大ボケかましたら、この作品いよいよ収集つかなくなっちゃうじゃない!!」


 まぁ、そうですね。


「そうですねってアンタ!!」


 いやまぁ、その辺りは、筆者にもいろいろと考えがあるんですよ。

 いろいろと――。


 たぶんね。


「たぶんねってちょっとォ!!」


◇ ◇ ◇ ◇


 バブリーな進化を果たした女エルフ。

 その圧倒的な存在感に、言葉を失う男騎士たち。

 トレンディに腰をくねらせて歩く彼女は、男騎士の前でしゃなりとその肩パッドの入った肩を揺らすと――絶望的に何もない胸の谷間を衣装の中から見せつけてくるのだった。


 まな板。


 絶壁。


 圧倒的虚無。


 巨乳党の男騎士の目に、暴力的なそれが迫る。


「ねぇ、知ってるゥ? ゼロに数字をいくらかけたって、それは――」


やっぱりゼロスト〇ングゼロ!!」


 悲しい義姉妹二人の道化芝居ショートコント

 つっと涙を流して顔を背けた第一王女の姿に、男騎士は全てを理解した。


 そう、女エルフは別に何かを乗り越えて、今の状態へと進化した訳ではない。

 バブリーどエルフになった訳ではないのだ。


 美エルフ三百歳エルフザップ。

 そして修行による――三倍おっぱい拳効果。

 それを期待して、彼女はこの精神的な時の部屋へと挑んだ。


 しかし、先ほど彼女が言葉にした通りである。


 やっぱりゼロスト〇ングゼロ!!


 彼女は三倍おっぱい拳を獲得することができなかったのだ。

 そしてたぶんだけれど、美エルフ三百歳エルフザップも、中途半端な感じで終了したのだ。なんていうか、ちょっと顔とスタイルがいい女芸人レベルな感じで、終了してしまったのだ。


 それでこんなバブリーな感じになっちまったのだ。

 やけっぱちにバブリーなってしまったのだ。


 つつつと彼女の頬を冷たい涙が流れる。

 真っ赤なルージュを溶かして顎先まで伸びたその雫は、彼女の魂の叫びであった。物静かで、染み出る様な、魂の滾りだった。


「ふふっ、まさかね、そんな単純な真理にも気が付かず、憐れな道化踊りバブリーダンスを踊っていただなんてね。ほんの数刻前の私がこの結末を知ったなら、きっとこう言ったでしょう――おったまげーってね!!」


「も、モーラさん!!」


「分かるわよ。お玉に毛なんてなんてどエルフなんだって、そう言いたいんでしょうティト。ふふっ、そうよ、私はどエルフ。どれだけ頑張ってみても、所詮は田舎のあか抜けない感じを拭い取ることができない、お上りエルフなのよ。そんな私が、イケてる都会トレンディエルフになれるなんて考えたのがそもそも間違い――お馬鹿ちゃんだったのよ」


 いつになく自虐的な女エルフ。

 うふふあははと壊れた笑いを浮かべたかと思った次の瞬間。


「ちくしょう!! なんて日だ!!」


 ――違う。

 違う、違う。

 それは違う。


 同じカテゴリでもちょっと違う。


 トレンディエルフじゃない方だ。


 バイでキングな感じの方だ。


 一同がその発言にさぁと顔を青ざめさせる。しかし、男騎士。そんな中で彼だけは、真剣な顔をして、彼女のその発言に寄り添った。


 自虐的に吐き捨てた女エルフに向かって抱き着くと、大丈夫と声を張り上げる。

 その声に、心を二十世紀に置いて来たバブリーエルフの瞳に光が戻った。


「いいんだ、モーラさん!! そんなことを気にしなくて!! 胸がなくてスタイルがアラスリでちょっと際どくても、それはそれでモーラさんの味なんだ!!」


「……ティト!!」


「だいたいモーラなんていう名前の時点で、ヒロインとしてちょっとあれなんだ!! アとかエとか、ラとかミとか、そういう感じで始まるヒロインが多い中で、モーラとかいう、モブとしてならギリギリ行けるかもしれない名前をしている時点でお察しなんだ!!」


「……馬鹿にしてる? ねぇ、もしかして、私のことを馬鹿にしてる?」


 そんな訳ないだろうと、強く女エルフを抱擁する男騎士。

 彼はまた、迷いのない瞳を彼女に向ける。

 そして、安心させるように彼女を抱きしめた。


 その悲嘆に暮れている瞳を男騎士は覗き込む。


 男騎士。

 自分の歩む道を見つけた男にもはや迷いはなかった。


 女エルフ。

 ついに自分の生き方を肯定することができた彼女にも迷いはなかった。


 二人が目を合わせた瞬間。

 全ての迷い――物語的な――はそこに立ち消えた。

 そっと女エルフの涙を指先で拭って、男騎士は紳士的に微笑んだ。

 その涙を止めるために微笑んだ。


「どんなモーラさんでも、俺にとっては、最高のパートナーだ。冒険者としても、女性としても、俺は君のことを信頼している」


「……ティト!!」


「だからそんな自棄にならないでくれ」


 愛している。そう言って、男騎士が女エルフの唇を奪う。

 今まで、女修道士シスターやワンコ教授の前では、控えてきたその行為。

 純然たる好意を示すその行動を、男騎士は皆の前でしてみせた。


 そして――女エルフもそれを受け入れた。


 いつもは刺激的なものをワンコ教授に対してそれとなく隠す女修道士シスター

 しかし今日は彼女はそれをしなかった。


 ワンコ教授も、年相応に、二人の愛の証を受け入れた。

 第一王女も、悔しそうに一度顔を歪めたが、それでもやっぱり受け入れた。


 店主も、隊長も、ヨシヲも、マーチの使者も、海王神も。

 皆が見守る中で、二人は熱い口づけを交わした。


 暗黒大陸との決闘。

 それを前にして、最後まで男騎士に付き合うその覚悟を示すように、女エルフはその唇を受け入れた。同じく、最後まで彼女と共に歩むことを約束するように、男騎士も激しく女エルフの唇を求めた。


 そう、ここに全ての迷いは消えて、彼らはついに決意したのだ。

 騎士として、エルフとして、覚悟を決めた。


 全てを終えて、騎士とエルフは肩を並べる。


「「さぁ、行こう!! 暗黒大陸との決戦の場に!!」」


 この冒険譚の始まりから、常に一緒だった二人が声をそろえて言う。

 彼らに惹かれて集まった者たちは、その掛け声に――あぁと軽やかに応えた。

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