第485話 幼女巨人と喧嘩大蜥蜴

【前回のあらすじ】


「貴方の隣に立つ人たちを大切にしなさい。いいこと、人生においてなによりも、仲間というのは、共に人生を歩む者というものは得難いものなのだから」


「ありがとう、お養母かあさん」


 母の影。自らが犯した過ち。

 それに縛られてきた女エルフの心は、ここにようやく解放された。

 そして自らの意志で、冒険者として生きていくことを彼女は覚悟した。


 彼女はようやく乗り越えたのだ、過去の呪縛――母を救えなかった贖罪に生きるとい自分の人生を。


 はい、真面目モード終わり。

 今週末も兄どエルフが、妹どエルフの尻を拭うどったんばったん大騒ぎ――。


 って、あれぇ、タイトル、あれぇ?


「いや、先週自分で、真面目にやりますって言ったじゃないのよ……」


 真面目続きばかりで嫌になったりしませんかね。

 という訳で、今週末もシリアスパートで行かせていただきます。


「いや、言うほど今週シリアスだったか? ティト垣ニシパとか」


◇ ◇ ◇ ◇


 突撃してくる第三部隊がエルフたちの応援により止められる。その予想外の助勢に、壁の魔法騎士は息子の腕の中で思わず喉を鳴らしていた。

 同じく、彼と相対していた女ダークエルフも、銀色の髪の先まで震わせて、馬鹿なとその場に戦慄していた。


 予想外の者の参戦。

 場はここに新たな局面を見せた。

 そしてそれは――咆哮を挙げた鋼の巨人の足元にも静かに忍び寄っていた。


「……ぎゃうぅうっ!?」


「ぐはははっ!! なんだこいつはよう!! すげぇでかい図体してやがる!! これが巨人族っていう奴か!! 俺様よりでけぇ奴は初めてみるぜ!! しかし――だからこそ喧嘩は燃える!!」


 鋼の巨人の足が持ち上がる。それは、何者かによって弾きあげられた者だった。

 巨人の足元。その膝小僧よりも少し大きい程度だろうか、その緑のうろこに覆われた二つの足で立つ者は、巨人の咆哮に負けずとも劣らない、雄たけびを戦場に木霊させた。どこから現れたか、どうして現れたのか、その一切が分からない。


 しかしながら――。

 暗黒大陸の将兵の躍進に苦しんでいた連邦騎士団の眼に希望の色が戻る。

 そして彼らは一斉に雄たけびを上げた。


 それに合わせて、緑の亜人――リザードマンの男が吼えた。


「竜騎王フリード!! 義によって助太刀に来たぜ!! 安心しろ中央大陸連邦共和国の野郎ども!! このリザードマンの中のリザードマン、最強のリザードマンである俺様がこの巨人は引き受けた!!」


 大剣使いの弟分である竜騎王であった。

 彼の義理の兄、そしてその友である男戦士との約束に従って、この男もまた、急いで暗黒大陸と連邦共和国の戦いにはせ参じた。


 次々に姿を現す増援たちに、壁の魔法騎士が息を呑む。

 未だ帰らぬ男戦士たちだが――彼らはこの戦に向けて確実に仲間を増やしていた。大剣使いの到着と共に話は彼も聞いていたが、まさか初日に間に合うとは思っていなかった。


 さらに、さらに――。


「ゼクスタントさま!! 南方を見てください!!」


「……なに!?」


 南方に突如として旗がひらめいていた。

 それは中央大陸よりはるか遠く、南の王国の王威を表す紋章があしらわれた、赤い旗であった。それを掲げて進むのは、一人の青年とエルフの少女。そして、鎧を着こんだ少女騎士。


「ただいま魔法により連絡が入りました。南の王国の危難を救った勇者アレックスと南郡太守カレスの娘セリスが、軍一万を率いてこちらに向かっているとのこと」


「……まさしく、天啓!!」


 かつて男戦士と共に戦った少年勇者がここに軍勢と共に帰還した。そして、隊長とヨシヲが力を貸した少女騎士もまた、この危機に駆け付けた。

 もはや形勢は、壁の魔法騎士たち中央連邦共和国側に優利に動いている。


 突撃に失敗した第三部隊に悲鳴が響く。かつての仲間に容赦なく剣と弓を浴びせかけるのは、その強襲を受けようとしていた第二部隊、そして、壁の上に布陣していた第一部隊である。第三部隊の裏切りは、見事に失敗に終わった――。


 巨人の咆哮と巨躯のリザードマンの咆哮が混ざり合う戦場の中、壁の魔法騎士は再び女ダークエルフを睨んだ。


「見たか、これがこちら側の本気だ。我々は負けぬ、絶対にお前たちを倒す」


「――くっ!!」


「おっと、その言葉!! お前が言うのは違うのではないか、女ダークエルフ!!」


 上弦の月を思わせる鋭き刃が宙に飛ぶ。

 魔法により斬撃を飛ばしたのは、鎧に身を包んだ黒髪の麗人。

 この戦場の中、率いるべき兵たちを放り出して、いったいどうして出てきたのか、彼女はここぞとばかりに鋭い一撃を女ダークエルフに放ってドヤ顔をしてみせた。


 そう、彼女こそは――第七部隊を預かる女騎士。


「くっ……殺せ!! それは私の専売特許!! お前には譲らぬ!! 我が神速のクッコロ拳をその身に受けるがいい、女ダークエルフよ!!」


「なっ!? 貴様!?」


「アレイン殿!? 第七部隊の指揮はどうしたのです!?」


「優秀な副官が居るのでな、そちらに任せてきた!! なに、彼にとってもよい仕事!! 今回の一件で、ちょうど体よく第三部隊の椅子が空いた!!」


 道化か、それとも食わせ物か。とにかく、身内さえも裏切って、その場に現れたのは女騎士であった。へっぴり腰の構えから放たれたとは到底思えぬ、魔法の斬撃の雨嵐に、女ダークエルフが空中を飛び交い惑う。

 そこに向かって――。


「食らいなさい!! 蒼弓撃!!」


「……たぁっ!!」


 リーナス自由騎士団の少女騎士たちまでもが加勢する。赤いツインテールの少女騎士が放った槍のような矢が、ダークエルフの外套を掠めたかと思えば、それに気を取られたわずかなスキを逃さず、白い鎧の騎士が彼女に飛びつく。

 上目遣いにダークエルフの女を見た彼女は、ひくりとも顔を動かさず。


「……自爆!!」


 自爆魔法を行使した。

 簡単な呪文スペルと共にその体から膨大な熱が発せられる。密着した状態で、それをまともに食らった女ダークエルフが、衝撃に気をやって地面に落下する。

 したたかに背中を地面に打ち付けた彼女が白目を剥く中――当の自爆したはずの白い少女騎士は、なぜだかけろりとした表情で彼女を見下ろしていた。


 すぐに彼女は城壁の騎士団長を見上げると、無表情でピースを決める。


「……ロゼは相変わらずだなぁ」


「……幼馴染だろう。お前、もう少しかまってやれ、ゲト」


「ちょっと団長!! それにゲト!! いつまでそんなことやってんの!! 障害を排除したんだから、はやく指揮に戻って!! ここが逆転のチャンスでしょう!!」


 赤いツインテールの少女騎士に急かされて、壁の魔法騎士が鬼と化した自分の息子の腕の中から降りた。彼女の言う通り、今、戦は一つの転換期を迎えようとしていた。


 そう――。


「ここが正念場だ!! 意地を見せるぞ、連邦共和国騎士団!! リーナス自由騎士団!! 暗黒大陸の兵を押し戻す!! なんとしても今日という夜を超える!!」


「「「「「応っ!!」」」」」


 戦は今、彼らに優利に動き出した。


 ――かに、見えた。


「あーんもう、いきなり飛ばしてくれちゃうじゃない。やめてよね、次代の暗黒大陸の巫女候補に、そんな乱暴なことをするのは――!!」

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