第432話 どエルフさんと異世界漂流者

【前回のあらすじ】


 ヨシヲは従者召喚サーバント・サモンを行おうとしていた魔法使いタナカと対峙し、その結果、今のようなテンプレキモオタになる呪いをかけられてしまったのだった。


 とはいえ、今回については大陸の危機。

 解呪に精通している教会の者たちの力も借りれる。

 呪いのことはさておいて、リィンカーンに戻ろうとした女エルフだったが、そんな彼女に、ヨシヲはどうしても今はリィンカーンに戻れない、とんでもない事情を告げた。


 それはそう。

 彼らが再開した時に邂逅した、とある娘にまつわる話。


「……まさか、あの娘!!」


「あぁ、そうなんだ。彼女は、正真正銘、タナカが従者召喚サーバント・サモンで呼び出した異世界漂流者ドリフターだ」


◇ ◇ ◇ ◇


【用語 異世界漂流者ドリフター: 読んで字の如く異世界を漂流している者のことである。漂流という表現が用いられるように、彼らの多くは突然移動した異世界に順応できず、世界を彷徨っている場合が多い。多くは、異世界からの従者召喚サーバント・サモンなどで呼び出されるが、大規模な自然災害――魔力渦――によって、偶発的に呼び出されることもある。なお、神代の頃、五人の異世界漂流者ドリフターがこの世界に現れ、世界を崩壊させたという伝承があり、そのこともあってその存在は魔法使いからも教会からも忌避されている】


異世界漂流者ドリフターなら放っておくことはできないわね」


「分かってくれたか、モーラ氏――いや、モーラ」


「しつこく追い回してたのはそういう理由だったのね。なんというか、ついに女の尻を追いかけ回すような、そんなろくでなしにに落ちたのかと思っちゃったけど、そういう事情なら仕方ないわ」


 男戦士も眉間に皺をよせていた。

 というのも、異世界漂流者ドリフターの発生は珍しくないことだからだ。

 より正確には、異世界漂流物ドリフターの発生であるが。


 なにも、異世界からこちらの世界に漂着するのが人間ばかりとは限らない。虚構魔法あるいは魔法渦により、偶発的にこの世界に何かが漂着することは多い。

 それを回収し、時に破壊するのもまた、冒険者ギルドに持ち込まれる依頼だ。


 そして、たいていその難易度と報酬の剥離に、引き受けたのを後悔することになるのが常だった。ただし、時に思わぬ報酬――異世界の魔法道具や知識――を得ることもあるにはあるのだが。


 閑話休題。


 なんにせよ耳障りのいい話ではない。

 男戦士が苦虫を噛みつぶしたような顔をしたのは仕方なかった。同じく、冒険者稼業から足は洗ったが、勘所のある隊長も同じように苦笑いを零した。


 唯一、真面目な顔をして眼鏡の縁を持ち上げるのはヨシヲだ。


異世界漂流者ドリフターがどんなトラブルを起こすか分かったものではない。タナカは、モテなくてモテなくて仕方ない自分の人生に絶望して、理想のヒロインを虚構魔法によりこの世界に呼び寄せた――ということまで分かっているでござる」


「……理想のヒロイン」


「……何にとっての、誰にとっての、理想なんだ、それは」


「それが分かった苦労しないでござるよ!! ティト氏!!」


 なんにしても、このままあの娘を捨て置いていいことがないのは間違いない。

 男戦士と女エルフ、そして隊長は顔を見合わせた。


 なんだか最近、こんな感じのやり取りをしてばっかりだが――。


異世界漂流者ドリフターが特異な能力を持ってこちらに現れることは多いわ。その特異な能力がどれほどのモノかは分からないけれど」


「もし、世界に影響するほどの能力だったら」


「みすみす捨て置くことはできないよな」


「それでなくてもプリチーで拙者の嫁候補としてはピッタリな顔つき!! 是が非でも、拙者のハーレムに加えてやりたいところですぞー!! 夢はおっきく、ハーレム王に俺はなる!! デュフフフ!!」


 女エルフの火炎魔法がガリベンスタイルのヨシヲに炸裂した。

 今や焼け焦げていなくても全身真っ黒。少しも青い運命という印象を感じさせない、ブルー・ディスティニー・ヨシヲは、仰向けになってその場に倒れた。

 そんな彼を目の端からも追い出して、女エルフは男戦士たちに問いかけた。


「さっきの娘を保護しましょう。おそらく、このまま放っておいたら後々厄介なことになるわ。そして能力によっては――」


「協力して貰うとするか」


「そういや、お前らの用事がなんだったのかまだ聞いていなかったな……」


 かくして、異世界漂流者ドリフターの娘の保護クエストが急遽決まった。

 暗黒大陸との開戦。その夜明けまで、もう、数時間とない、そんな状況でのやり取りであった。

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