第431話 どエルフさんとあの女の子

【前回のあらすじ】


 隊長とヨシヲを合流した男戦士たち。

 なんやかんやとありつつ、隊長行きつけの宿屋へと向かった彼らは、そこでこれまでのいきさつと、ヨシヲの身に起こった事実――キモオタ化の原因――を聞かされるのだった。


 そう、全て、タナカが悪いのであった。


◇ ◇ ◇ ◇


【魔法 虚構フィクション魔法: 字面だけでいろいろな方面に迷惑がかかりそうな魔法。その月っぽい字面に反して金曜日的な、こんなことできたらいいなという感じの魔法である。人の願望に作用して、本来この世界にあり得ない概念を作成する原理不明の高等魔法。異世界から人やモノを召喚したり、存在しない技術力を生み出したり、空に城を浮かせたり、やりたい放題である。なお、発動時には必ずテレレンホワンホワンホワーンという効果音が入る。まぁ、それはさておき。それだけに使用者が限られてくる、また、使用に対して厳しい制限が課せられる魔法である】


「虚構魔法の使い手なんて、また厄介なのを相手にしたわね」


「仕事を受けるにしても、もう少し選びなさいよ。そんな思想的にも実力的にも危ない相手。私だったら絶対に関わらないわ」


「しかし、ヨシヲが――世界の危機だ今すぐになんとかしなくてはと」


「デュフフフ!! 虚構魔法使いとか、放っておけない案件ですぞー!! もしそれで異世界からイケメンの主人公転移者など現れたら、自分の立場がなくなってしまうでありますからー!! いや拙者、本当に、異世界転生したヨシヲでござるから、別に困らないんですけど!! むしろ先輩風吹かして、見守る系のおいしいポジション的な?」


 腕を組んでしたり顔をするヨシヲ。

 その表情がむかついたのだろう、女エルフは容赦なく、自分の持っている魔法の杖で彼の顔を殴打した。


 へぶぅ、と、情けのない声を上げて、ヨシヲが卓に突っ伏す。


 それと同時に、その場にいるヨシヲ以外の三人の口から、溜息が堰を切ったように流れ出した。あぁ、これ、疲れる――という感じに。


「で、どうしてこうなった?」


「最後のイタチっ屁で、タナカの奴が呪いを放ってな。それをモロにヨシヲの奴が喰らっちまったんだ」


「ヨシヲってばそういう詰めの甘い所があるわよね。レジスタンスを乗っ取られたり、下着を着て呪われたり」


「ひどいですぞーモーラ氏。ドジっ子属性といってくだちぃ」


「もう一度、殴られたくなかったら、すぐさまその口調をヤメロ」


「あ、はい、すみません」


 普通に喋れるんかい。

 女エルフはツッコミを入れたかったが、これ以上ヨシヲについてあれやこれやと言うと、与太話で収拾がつかなくなりそうなのであえてスルーした。

 というか、既に虚構魔法やらなにやらで、いろいろと収拾がつかなくなっているのに、これ以上厄介な話題を増やしたくなかった。


 頭が痛いと眉間を抑える女エルフ。

 一方で男戦士はといえば。


「これならヨシヲで白の褌と紫の褌、ダブルで使えるんじゃないか?」


「褌? なんの話だ?」


 ヨシヲの惨状をさして悲観することもなく、むしろ、好感を持って捉えていた。


 物は考えようというか、何も考えていないというか。

 なんにしても、危機感のない男戦士の発言は、余計に女エルフの顔色を青くさせるのに寄与するだけであった。


 既に夜は深まり、港町の空にも静寂が漂っている。

 居酒屋も暖簾を降ろして、男戦士たちが店主に無理を言って、酒場を使わせてもらっているような状況である。夜明けはほど近く、遠い連邦共和国首都リィンカーンでは、暗黒大陸との戦いの初端が切られようとしていた。


 だというのに、このザマはどうだ。


「早くリィンカーンに戻らないと。皆、私たちを待っているのに」


「ふむ。お前らにも何か事情があるみたいだな」


「あぁ、ビクター、ヨシヲ。どうかお前たちに力を貸して貰いたいんだ」


「……まぁ、ティトの頼みはケティたんの頼み。俺はいっこうに構わないが」


 訳も、依頼の内容も聞かずに、協力を申し出た隊長。

 ロリコン紳士の彼である。愛しいワンコ教授のためならば、どんなことでもしてみせるというのは、なんというか実に彼らしい答えだった。


 詳しい説明も省いて成立した隊長の対暗黒大陸戦線への参加。

 まずはひとつ、目的が達成されたことに男戦士たちが息を吐く。


 だがしかし、それに対して、ヨシヲはといえば――。


「あぁ、うん、俺も協力してやりたい所なんだが」


「所なんだが?」


「今はどうしても優先してやらなければならないことがあってな」


「やらなければならないこと?」


「そのおかしな呪いを解くこと?」


 だったら、教会にでも行って解いてもらえばいいじゃないのよ、というか、伝手ツテはあるわよという顔をする女エルフ。しかしそんな彼女を無視する感じに、ヨシヲは牛乳瓶の底のような眼鏡をくぃと上げて、滑稽な真面目顔をしたのだった。


「あの娘――運命の女ディスティニーヒロインを放ってはおけない」


「「ディスティニーヒロイン?」」


 言われて気が付く、出会った時に彼らが追っていた娘のこと。

 見慣れない格好をした娘だったがと、女エルフが首を傾げる。

 だがしかし魔法に精通している女エルフ。


 ここまでに出された、虚構魔法、ヨシヲの執着、そして、追いかけていた時の台詞、タナカが成そうとしていた儀式がかっちりと頭の中で組みあがると、さっとその顔が青色に染まり上がった。


「……まさか、あの娘!!」


「あぁ、そうなんだ。彼女は、正真正銘、タナカが従者召喚サーバント・サモンで呼び出した異世界漂流者ドリフターだ。そんな危険な存在をほっぽり出して、この街を去ることは――拙者できないでござるよ!! デュフフ!!」


 相変わらずの厨二病主人公脳をしているヨシヲ。

 暗黒大陸の危機を伝えれば、そんな彼もそちらの方が大切だとなびくかもしれなかったが――実際問題、異世界漂流者ドリフターを放っておくリスクを、魔道に通ずる女エルフもまた捨て置けなかった。


 また、女エルフが眉間に皺を造り、卓に額を擦りつけて唸る。


「ほんと!! なんてことしてくれるのよ!! タナカ!!」


 いつの世界でも、どこの時代でも。

 はた迷惑なことをしてくれる奴はいるものである。

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