第422話 どエルフさんと竜の王国

【前回のあらすじ】


 リザードマンの王、竜騎王と対面した男戦士たち。

 義兄弟である大剣使いとの久しぶりの再会を喜ぶ竜騎王。彼は、きさくな感じに大剣使いと男戦士を自分の国に寄って行くように勧めるのだった。


「あら、思った以上にまともなあらすじ」


 ――期待しているのかどエルフさん。

 もしかして、ひどいあらすじを期待しているのかどエルフさん。


 あらすじがこんなでも、これからリザードマンの王国に行くことになるんだぞ。

 お前、それって結構、展開的に危ない感じなのに。

 いいのかどエルフさん。本当にリザードマンの王国なんかに行っていいのか。

 

 それも含めて期待しているのかどエルフさん。

 エロ漫画みたいな展開を期待しているのかどエルフさん。


 流石だなどエルフさん、さすがだ。


「はいはい。エロ漫画、エロ漫画」


 あっさり流されるとそれはそれで悲しいです。

 ともあれ、今週もどエルフさん始まります。


◇ ◇ ◇ ◇


 竜の王国は、男戦士たちがオラァモグラと遭遇した所より、さらに深い所にあった。もっとも王国と言っても、ただの大きな空洞であったが。


 そこにフェルト生地のテントを並べ、魔法鉱石による常夜灯を並べて、リザードマンたちは生活している。夜灯は軽量化され、折り畳み式に出来ており、いつでも持ち運びできるようになっている。


 王国というから、もう少しかっちりとした場所を予想していた女エルフたちは、そんなリザードマンたちの国の姿に少なからず衝撃を受けた。

 中でも、青い顔をして驚いたのが第一王女だ――。


「あの、もしや皆さん、何かの危機から逃げている最中なのですか」


 前を歩く竜騎王に並ぶと、その顔を仰ぎ見るように覗き込む。

 まさしく自分も国を潰されて逃げてきた身である。リザードマンの王国の暮らしぶりは、そんな彼女の心に強い動揺を与えたようだった。


 しかし、それは彼女の杞憂であった。

 不安げな彼女の顔をがははと豪放に竜騎王は笑い飛ばす。


「リザードマンは移動する民族なんだよ。元からこんななんだ。特定の居住地を持たず、常に土の中をほじくり回して移動している」


「……そ、そうなんですか?」


「主食がオラァモグラや大ミミズだからな。獲物がいる肥沃な土地を求めて移動するのが俺たちの常なんだ。もっとも、それでもくいっぱぐれちまうから、傭兵として外に出る奴らもいる」


 なるほどそういう理屈だったのか。

 男戦士たちがリザードマンの生態に納得する。

 第一王女の顔からも、憂いた表情がその言葉で消えた。


 心配してくれてどうもなと笑う竜騎王。

 なるほど、大した器である。男戦士はその人を気遣うまごうことなき王威に密かにではあるが感心した。

 女エルフも、どこぞの頼りないエルフの王よりよっぽど王らしいわと、リザードマンの若き王に信頼の眼差しを向けた。


「さぁ、ついたぜ、狭いながらも俺の王宮だ」


 集落のテントの中でもそれほど大きくないそれを指さす竜騎王。

 人が十人も入れるかという狭さに男戦士たちは驚いた。というのも、ここに来るまでに、ここよりも遥かに大きなテントを幾つも見たからだ。

 王のテントというにはいささか小さすぎないだろうか。


 そんな不安をまた竜騎王は笑い飛ばす。


「一緒に住むリザードマンが居れば話は別だがな。俺はこれで独り身だ。執務や会議やと面倒臭いこともあるので、そこそこの広さのテントに住んでるが――男なんざ寝る場所さえあればこと足りる」


「豪放磊落そのものだな」


「……王国を追い出されて、冒険者稼業を始めたころはまだ可愛げがあったが」


「兄貴!! それは言わねえでくれよ!! 昔の話だろう!!」


 竜騎王が狼狽える。


 そんな姿にふふっと大剣使いは笑って応えた。

 無愛想が顔に染みついたような男でも、このような顔をするのか。男戦士と女エルフがその反応に少しばかり驚いた表情をみせる。

 一方で、金髪少女はそのやり取りを、なんだか忌々しそうに眺めていた。


「まぁいいさ、入ってくれ」


 竜騎王が笑ってごまかして、テントの入り口の幕を上げた。

 気がつくと、ここまで案内してくれたリザードマンたちは、いつの間にやら姿を消している。きっと各々の縁者の居る家――テント――へと戻ったのだろう。


 大剣使いの知り合いである、躊躇する必要はない。

 男戦士一行と大剣使い、そして彼の今のパートナーである金髪少女は、竜騎王に促されるまま、王の手ずから開かれた入り口を潜り、テントの中へと入った。


「うわぁ……」


「びっくりするくらいに……」


「何もない……」


 テントを支えている太い柱が四方に四つ。

 それを起点に対角線を結ぶように壁側に細い木が組まれ、上辺にも同じく木が添えられていた。対角線に結ばれた木々はちょうど真ん中で重なっているがそこには螺子が埋め込まれている。重なった部分の擦れ具合から、どうやらそのテントの壁も螺子を中心にして折りたためるようになっているようだ。


 常夜灯と同じく移動するのに適した造りの家だ。

 そして、そんな造りが無遠慮に剥き出しになっている辺りに、この竜騎王というリザードマンが飾らない人物だというのがよく分かった。


 ――それだけではない。


 床に敷かれた茶色いフェルトも薄く、靴底に確かに土の感覚が分かる。

 箪笥もコートハンガーも何もない。玉座もなければ椅子もなく、木製の机と小箱が置かれているだけという殺風景さは、男戦士たちをただただ黙らせた。


 王の住居にしてはいささか質素に過ぎる。

 男戦士たちは竜騎王のことが逆に心配になってきた。


 こいつみたいなのが王で、本当に大丈夫なのだろうか――と。


「なぁに、リザードマンってのは丈夫にできてる。それに、この通り、食い物を探して大陸中をうろついてる身だ。荷物なんてのは少ないくらいでちょうどいい」


「無欲なんですね、すばらしい」


「だぞ。コーネリア、無欲にしても限度があるんだぞ」


「そうよね、無欲って言っても、ここまで何もないと不安になるわ」


 まったくだ、そう呟いて男戦士、辺りをうろうろと見まわし始めた。


 ――いやな予感がする。

 女エルフがそんな直感を抱いたその時だ。


「ここだぁっ!! たぁっ!!」


 男戦士がぺらりと地面に敷き詰められたフェルトをめくる。するとそこから――緑色の肌が眩しい、女リザードマンが描かれた春画が飛び出してきた。

 ひゃぁっ、と、竜騎王が声を上げる。


「ななな、なんで隠していたのが一発でバレるんだ!!」


「ふっ!! 冒険者の勘を侮ってもらっては困る!! なるほど――細い系のリザードマン女子、しかもインテリ系が好み。しかも虐められる系のシチュエーションが好きとは王の癖に業が深いな」


「こここ、このことは内密に!! 王としての威厳に関わる!!」


 どうしようかなと笑う男戦士。

 春画を手にして微笑む彼の頭を、女エルフは力いっぱいに杖で叩いた。


「冒険者スキルを無駄なことで発揮するな!! このおバカ!!」


 まったく返す言葉のないツッコミであった。

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