第412話 ど男戦士さんと色仕掛け

【前回のあらすじ】


 西の王国の中央広場。

 そこで稀代のペテン師である金髪少女と再会した男戦士たち。

 彼らは金髪少女の口から、一緒に行動していた大剣使いが、リザードマンに連れていかれたことを聞かされるのだった。


 はたして、リザードマンの目的は。

 そして、大剣使いは無事なのか。


「あれ、なんか、まともなあらすじね」


 いやまぁ、シリアスな時は、シリアスに攻めないとね。

 何事もメリハリというのが大切なんですよ、モーラさん。


◇ ◇ ◇ ◇


「お久しぶり!! 待ちに待たされ放置プレイ!! そういう恋の駆け引きも味わってきたいい女!! そう、私が熟れ熟れ五百歳熟女エルフ!! エルフィンガー・ティト子よぉおおおお!!」


「……えぇ、久しぶりに、この展開になるの」


「部にして実に三部ぶりよぉおおおお!! 皆、私のこと、覚えていてくれたかしら!! エルフィンガー、ティト子よぉおおおお!!」


 男戦士がエルフに女装していた。

 そう、全ては大剣使いが連れていかれたという、酒場に忍び込むためである。


 例によって男戦士は、大剣使いに顔を知られている。

 そんな彼がのこのこと近づけば、大検使いはすぐに気がつくだろう。どういう状況で、彼がリザードマンに連れていかれたのか知らないが、場合によっては、顔に出たその微妙な反応にリザードマンたちが殺気立つ可能性はある。


 あくまで、彼らに気づかれることなく、場に紛れ込まなくてはいけない。

 その為に変装しようと、男戦士が言いだしたのだが――。


「久しぶりよぉ!! ティト子、久しぶりでちょっとドキドキしてるわぁ!!」


「……変装じゃなくて、女装する必要があったのか」


「性別を変えるのは潜入の基本よぉおおおお!! モーラさん、そんなことも分からないのぉ!! 三百歳の、ちょい熟れエルフの癖にぃいいいい!!」


 火炎魔法が炸裂する。

 せっかくの女装が台無しにならないよう、盾でそれを防ぐ男戦士。

 何をするのよぉおおおと叫ぶその姿も――最高に気持ち悪かった。


「とにかく、この格好でハンスの様子を探りにいくわよぉおおお!!」


「だぁもう、うるさい!! なんでそんなティト子モードになると、アンタはうるさくなるのよ!!」


「老いで耳が遠くなっているっていう設定よぉおおお!!」


「要らないでしょ、その設定!!」


 とにかく、男戦士は、女装して金髪少女が教えた酒場へと突入した。

 大丈夫かしらと、窓から中の様子を確認する、女エルフと金髪少女。


 大剣使いは酒場の中央で三人のリザードマンに囲まれていた。

 リザードマンの顔は、ちょうどこちらに背中を向ける格好になっているので分からない。ただ、大剣使いが渋い顔をしているのは間違いなかった。


 いや、いつも彼は、渋い顔をしているが――。


「おぉ、あんな困った顔をしたハンスは、初めてみるのじゃぁ」


「そうなの?」


「今回の旅で、長らく一緒に居ったので、なんとなくあ奴の表情は分かるようになったのじゃ。じゃからこそ分かる――相当な無理難題を、今、ハンスは吹っ掛けられておる」


 窓に手をかけて、わなわなと肩を震わせる金髪少女。

 今回の旅でどうやら二人はそこそこに親交を深めているらしかった。


 年齢的に手を出したらまずい感じのある金髪少女だが――。

 まぁ、大剣使いはいろいろと複雑な業を背負っている。

 大丈夫ねと、女エルフは一人で何かを納得した。


 そんなさ中――男戦士扮するエルフィンガーティト子が酒場の中へと入る。

 真昼である。思わぬ訪問者に、つい、酒場の人間の視線は彼に集まった。


 そして――。


「私が、熟れに熟れて500歳!! 結婚適齢期をその身を持って更新するエルフ!! エルフィンガーティト子よぉおおおおおお!!」


「なに叫んでんだあのバカぁ!!」


 その視線に応えるように、男戦士は名乗りを上げた。

 当然、野太い声をした無駄に体格の良いエルフ女が現れれば騒然となる。ゲェと、リザードマンたちが叫び、大剣使いまでもが眉をしかめた。


 沈黙。

 あまりに衝撃的な展開すぎて、沈黙が酒場を支配する。

 あっけにとられるリザードマンたちの横を通り過ぎると――男戦士ことエルフィンガーティト子は、カウンターでグラスを磨く酒場の店主に近づいた。


「マスター。今夜は飲みたい気分なの、強いお酒を頂戴」


「……え、あぁ」


「下戸でしょアンタ、なに言ってんのよ!!」


 女エルフがツッコむ。

 格好つけていたが、男戦士は下戸であった。

 強い酒どころか、弱い酒でもひと舐めすればノックアウトである。

 どうすんのよそんなことをしてと身を乗り出す女エルフ。


 しかし、男戦士はそんな彼女に、任せろとばかりにウィンクを返した。


「そして――あちらのリザードマンたちにもお酒を」


 なるほど、そうやって近づこうという腹か。

 なかなか考えたな――と言っていいのよという顔をする男戦士。


 しかし、女エルフは、アホかお前はと眉間にしわを寄せた。


「えぇ、あぁ、はい。それは構いませんが」


「んふ、どうしたのマスター? もしかして、ティト子の色気にやられたかしら?」


「滅相もございません」


「じゃぁ、お酒を」


「いえ、リザードマンの方たちに、何をお出しすればと思いまして」


 酒の銘柄を聞いている。

 なるほど、それも確かに考えなくてはいけないなと男戦士。


 彼はしばらく沈黙してから。


「……ハブ酒を」


 と、ドヤ顔で言ったのだった。


 リザードマンにハブ酒。


「喧嘩売ってんのか!!」


 女エルフが叫んだ。酒場の外で叫んだ。もうどうしようもない感じに、ツッコミを入れずにはいられない感じに叫んだ。

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