第410話 どエルフさんと龍玉
【前回のあらすじ】
命からがら第二部隊の団長から逃げた逃がし屋。
しかし、再び戻った第一部隊で待っていたのは、老騎士と凶騎士。
そしてゴブリン外交僧であった。
裏切っていたのは第一部隊でも第二部隊でもない。
その両方だったのだ。
「お前に逃がしてもらいたいモノがあるんだよ。クカカカ……!!」
ゴブリン外交僧の魔の手が逃がし屋へと迫る。
はたして、逃がし屋絶対絶命、どうなるど逃し屋さん。
という所で、今週から逃がし屋パートはおしまいです。
「えぇっ!?」
「本編より気になるのに!!」
この続きは、また今度――本編でティトたちがリィンカーンに帰還してから。という所で引っ張って行こうと思います。
「なんなんだ、最近のどエルフさん」
「挑戦し過ぎよね。いったいどうしたというの」
けど、今週は相変わらず、アホアホネタから始まります。
「「えぇ~~~!?」」
◇ ◇ ◇ ◇
「だぞ!! 早いんだぞ、凄いんだぞ!! 風の精霊王!!」
「快適な空の旅ですね。精霊王さんに感謝です」
「ほんと、普通に凄いわね。これが最強の精霊王の力」
「お、お、お、お姉さま、え、え、え、エリィは、あまり高い所は、と、と、と、得意ではなくて、こ、こ、こ、こわ、こわ、こわ」
「あーもう、掴まんなさいエリィ」
震える第一王女にそっと腕を差し出す女エルフ。
普段なら興奮してあれこれ言いそうな第一王女も、よほど空の旅が怖いと見える。大人しく女エルフの腕を握ると、ふぇえぇと情けない声をあげた。
まったく、と、少し呆れた感じに女エルフが息を吐く。
そんな彼女の反対側で、震える小鹿がもう一人。
「も、も、も、モーラさん、よ、よ、よ、よく平気、さ、さ、さ、流石だな、ど、ど、ど、どエルフさん、さ、さ、さ、さすがだ」
「怯えながらも私を弄るのをやめないアンタの方が流石だと思うわ」
男戦士もまた、空の高さに怯えていた。
地に足つく職業の戦士である。空を飛ぶという魔法使い的な行いには慣れていなかった。いつもはどっしりと構えている彼の狼狽えぶりに、女エルフは呆れながらも少し愉快な気分になるのであった。
風を切り、雲を越え、西の王国の空を行く――金色のアフロ。
筋斗雲ことエルフキングの髪の毛は、風に乗って男戦士たちを運ぶ。
「あ、都が見えてきましたよ!!」
西の王国の王都――オッパイオである。
【キーワード オッパイオ: 西の王国の首都。国王マッキン・リーとその一族が住む宮殿がある。中央大陸でも最も長い歴史のある首都(都市ではない)であり、文化遺産や博物館などがある文化都市である。また、勇者の育成やエルフとの融和など、王政ではあるが非常に温和な政治をしている。亜人族の多くも王政に従っており、大陸一平和な国と呼ばれている】
暗黒大陸の脅威が迫っているとは思えぬ、立派な城がすぐそこに見えてきた。
本来ならば、白百合女王国よりも先にこちらが炎に包まれていただろうにと思うと、一行は複雑な気分になった。
なまじ、戦火から逃げてきた第一王女が居る手前なおさらである。
しかし――。
「綺麗な都市ですね!! 私の国も景観には自信がありましたが、流石は文化大国と呼ばれる西の王国です!! こんな時でなければ、観光したいところです!!」
「エリィ……」
気を使われた第一王女は、そんなことは気にしていない様子だった。
あるいは、気にされないようにふるまっているようだった。
腕を掴まれている女エルフ。
彼女の体に伝わる感触から、その感情を読み取ることはできない。
ポーカーフェイス。どうやら第一王女は、どういう時でも感情を表に出さないように、しっかりと教育されているらしかった。
それが不憫で、女エルフはそっと彼女の手を握った。
驚いたように第一王女が女エルフの手に視線を注ぐ。
「お姉さま?」
「いいのよエリィ、あまりそんな気を使わなくても」
「気を使ってなんて……」
そう言いながら、そっと彼女は女エルフの肩にもたれかかった。
嗚咽は上げない、涙も流さない。ただ、静かな吐息と共に、彼女は姉の体を借りてしばらく黙り込むのだった。
やはり、祖国が滅ぼされたのは、辛いのだろう。
細君の肩を女エルフはそっと撫でた。
さて。
そんな彼女たちを他所に――。
「だぞ!! しかし筋斗雲に乗って空を飛ぶなんて、
「伝奇小説、
【キーワード
「だぞ、七つの球とは、人間の欲望を現しているとも、北辰の化身とも言われているんだぞ。ただ、僕は主人公のマッチャーキが、股の中に隠していたことから、男性の象徴だと考えているんだぞ」
「まぁ、ませた解釈ですね」
「……いま、その話する必要あります?」
伝説の冒険譚と被る光景にテンションが上がったのは分かる。
しかし、どうしてここでその話をする必要があるのか。
いつもワンコ教授に優しい女エルフだが、今日は白けた感じで彼女は言った。
というのも――。
「俺も好きだぞ
「だぞ!! 分かってるんだぞ、ティト!!」
「七つの球を揃えた時のハマチャンの願いが、マッサーコのパンティーおくれだったのが衝撃的過ぎてもう」
「だぞ? そんな描写あったんだぞ?」
気にしなくていいのよと、女エルフがワンコ教授の耳を塞ぐ。
男戦士が言っているのはその一つ――
「ほかにもマッチャーキが岩に押しつぶされながらも、パンツ見えてると言ったりする描写もなかなかよかった。ただ、シロウが、川で製造されたマッサーコの人形を、もったいないからと拾うシーンはドン引きだったな」
「だぞ? だぞ?」
「いいから、気にしなくていいから。といかティトくん、ちょっと落ち着こうか」
いい子じゃないと筋斗雲には乗れないんだぞ。
そう言って、女エルフは男戦士を睨むのだった。
「いや、むしろ男の子として、
「逆とか言ってる時点でいい子じゃないわい!!」
「というか、モーラさん、その内容にツッコめるということは、読んだことがあるというんだな。あんなドスケベ伝奇小説。そのスケベに対するあくなき探求心。流石だな、どエルフさん、さすがだ!!」
「うがーっ!! ほんと、突き落とすわよ、このドスケベアホアホ男!!」
筋斗雲から男戦士が落ちるのは時間の問題だった。
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