第396話 どエルフさんとケロン特選隊
【前回のあらすじ】
第一王女の悲鳴は歓喜からのものであった。
その事実にほっとした半面、キングエルフの緊張感のなさに呆れかえる女エルフ。
そして、そこに合流した――。
「とぉーうっ!! パンツのスースーさにちょっと戸惑ったが、待たせたな皆!! 風の精霊王の力を借りてパワーアップした俺参上!!」
風のパンツをまといし男戦士。
そう、褌一丁のキングエルフと、パンツ一丁の男戦士。
そんな奴らが揃って何も起こらないわけがない。
張り合わないわけがない。
「なんと見事なパンツ!! しかし、やはり負けぬ!!」
「なんの、俺とて負けぬ!!」
プリッ!!
フリッ!!
この作品きってのアホ二人が尻を突き合わせてにらみ合う。
「地獄か!!」
地獄。
ここエルフの森は間違いなく、むせるような地獄であった。
◇ ◇ ◇ ◇
「なるほど、ラブコメしないと出られない部屋」
「なんておそろしい部屋なんでしょうか。そんな試練に見事に耐えて出てくるとは、流石ですねどエルフさん、さすがです」
「ちょっとそのセリフが出てくるには早いんじゃないかしらコーネリア。まぁ、苦労したけれど――私らにかかれば楽勝だったわよ!!」
「あぁ、なんだか三週間くらいかかった気もするが、楽勝だったさ!!」
「だぞ、流石はパーティーのリーダーと副リーダー。頼りになるんだぞ」
ことの次第をパーティーメンバーに説明する男戦士たち。
さんざ苦労した挙句、ダメ出しされて、おまけに危険なパロディ連発という愚をおかしておきながらもこの言い草。転んでもただでは起きぬというしたたかさか、それとも、パーティの手前を虚勢を張ったのか。
なんにしても、男戦士と女エルフは自慢げに胸を張ったのだった。
「……それで、お二人は具体的にどんなラブコメで風の精霊王の信頼を勝ち取ったんですか?」
「……あ、いや、それは」
「……具体的な、それは、その、ちょっと」
それまでの勢いはどこへやら。
男戦士と女エルフは、第一王女の鋭いツッコミに一瞬にして口を閉ざした。
まさか、普段通りにどエルフネタをやりつつ、そのあとピロートークのごとき会話をしていたら、相手が勝手に降参してくれたとは――ちょっと言いづらい。
それならそれで、さっさと試練を終わらせて帰ってこれたのではないかというツッコミが怖いのもあったが、それ以上に。
――普段のやり取りが十分ラブコメしている。
その事実を認めることが、二人には少し勇気がいったのであった。
もっとも、そんなのは今さら、二人をこの洞窟に送り込んだ時点で、彼らの仲間は承知していることではあったが。
「なんにしても、これで風の精霊王の加護を受けることには成功した」
「彼の力を借りれば、西の王国まで移動するのはそう難しいことではないらしいわ。これでようやくこの地獄――エルフの森からも脱出できる目処が立ったわ」
「だぞ!! それじゃぁ!!」
「名残惜しい所ですが、すぐに出発ということですね」
「えぇっ!? お姉さま、私、もうちょっとこの村で、キングエルフさまと遊んで……」
「馬鹿おっしゃい!! 暗黒大陸の決戦まで時間がないのよ、そんなことを言っている場合じゃ――」
そう言いかけて、第一王女めがけて飛んでくる何かを、女エルフはその目に捉えた。危ない、そう声をかけるよりも早く、そのピンク色をした鞭のようなものは、第一王女の体を絡め捕ろうとする。
ダメだ、間に合わない。
そう思った女エルフの横を、一陣の風が駆け抜けた。
「危ない!! エリィ殿!!」
男戦士である。
風のパンツによりスピード5UP。いつもより機敏な動きを見せた彼は、その森の中から突然襲い掛かった、ピンクの鞭を叩いて第一王女から逸らしてみせた。
それに合わせて、その鞭が飛んできた方向に――。
プリッ!!
「何奴!! 不意打ちとは卑怯千万!! どのような素性の者かは知らぬが、誇りある戦士であるならば、正々堂々と尻を出して勝負をしたらどうなのだ!!」
キングエルフが尻を向けて威嚇した。
男戦士とキングエルフ。
格好こそおっぱっぴーな二人だが、一人は当世で最高の戦士技能レベルを持つ男、そして、もう一人は自称とはいえエルフの王を名乗る者である。間抜けなやり取りを演じつつも、そんな二人に不意打ちなど通用するはずなかった。
その証拠に、シンと静まり返った森。
第一王女に向かって鞭を向けたその刺客はしばし沈黙した。
「どうした!! 返す言葉もないか卑怯者よ!!」
「いいだろう!! ならばこっちからいくぞ!!」
男戦士が叫んだその時だ。
「ゲロッゲロ!! 卑怯者!! 臆病者!! おおいに結構!!」
「ケロッケロォ!! 最終的に勝っちまえばこっちのもん!!」
「グェッグェッ!! 勝てば官軍負ければ賊軍!!」
「コワッコワッ!! 手段にこだわってる様じゃ二流ってことよ!!」
「ギョッギョッギョッ!! つまりは人海戦術!! いや、トカゲ海戦術!!」
そう言い放つや、木々の合間をすり抜けて、五つの影が男戦士たちの前へと表れた。人の膝くらいまでの高さしかない彼らは――明らかに亜人。
しかし、スクーナでもなければドワーフでもない。
トカゲタイプの亜人であった。
「……なんなのこいつら」
「なんなのこいつらと聞かれたら!!」
「名乗ってあげよう我らこそ!!」
「暗黒大陸の黒い五連星!!」
「密林を行くトカゲ男たち!!」
「そう人呼んで――」
「「「「「ケロン特選隊!!」」」」」
ぼわんと、その背中で爆炎が立ち上る――そんな光景が見えてきそうな、妙に芝居がかった口上を述べて、五匹のトカゲ男たちが男戦士の前に立ちふさがった。
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