第三章 異世界エルフ無双 正伝エルフリアン柔術

第394話 キングエルフとセクシーフラッシュ

【前回のあらすじ】


 連邦騎士団第一部隊に忍び込んだ逃がし屋。

 しかし、集めた情報を総合してみても、また、実際に話してみても、どうにも老騎士は本気で連邦騎士団内の裏切者を探しているようだった。


 よもや女騎士が暗黒大陸の謀略に巻き込まれたのではないか――。

 錯綜する情報に頭を悩ます逃がし屋。


 そんな逃がし屋がふとカマをかけて老騎士に発した発言。

 それに老騎士はおもいがけない食いつきをみせる。

 はたしてこの男、一筋縄ではいかない――そんな予感を胸に、逃がし屋は老騎士にさらなる接触を試みるのだった。


 一方その頃、女エルフたち。

 彼女たちは洞窟の入り口から聞こえてきた第一王女の悲鳴に、急ぎ風の精霊王の下から駆け戻るのだった。


「待っていてね!! エリィ!!」


 今週は変化球。

 初っ端からシリアスモード――。


 だといいのだけど、そこはそれ。

 タイトルからいろいろと察していただけるとありがたいです。


「め、め、メンソゥール!!!!」


「だぁーっ、うるさい!!」


 というわけで、今週もおちゃらけおとぼけファンタジー小説、どエルフさんはじまります。


◇ ◇ ◇ ◇


「きゃぁっ!! いやぁっ!! あぁっ!! だめぇえええっ!!」


「ふふっ、これが、このポーズがいいのかい、お嬢ちゃん!!」


「最高!! 最高ですぅうぅっ!! あぁん、もう、そんな姿を見せられて、私もう耐えられません!! あぁ鼻からはしたないものが、はしたないものがっ!!」


「ふっ、やれやれ、俺も罪な男――いや、罪なキングエルフだぜ」


 プリッ!!

 キングエルフが褌を引き締める。するとそのポーズに悶絶して、第一王女がくねくねと体をよじらせた。キングエルフのそれは女豹のポーズ。

 握りこぶしを作って猫のようにふるまうキングエルフの姿は、なんというか最高に――気持ちの悪いものだった。


「……なりません!! ケティさん!! 見てはなりません!!」


「だぞ!! 何が起こっているんだぞ!! いったいキングエルフとエリィは何をしているんだぞ!!」


「知らなくていいことです!! これはなんというか――どエルフです!! いくらなんでもどエルフ過ぎます!!」


 いくらなんでもどエルフ過ぎるとはどういう状態なのか。

 語彙のゲシュタルトがここに崩壊していた。


 とまぁ、表現が適正かどうかはともかく。

 いい男エルフが尻をプリめかせてポーズを取る。そんな光景は、お子様なワンコ教授に見せるのは――流石にためらわれるのは間違いなかった。


 そこは保護者の女修道士シスター

 ナイスセーブである。


 しかしながら彼女たちが見ていないのをいいことに、キングエルフのポーズと、第一王女の要求はどんどんエスカレートしていくのだった。


「もっと!! もっとです!! もっとこうムワッとフェロモンが出てくるような、はち切れんばかりに胸板を強調して!!」


「ふふっ、こうかなっ!!」


 プリッ!!

 尻がプリめき、胸もプリめく。

 かつて人類のセックスアピールであった尻と、その代わりに発達したセックスアピールである胸。その二つを存分にプリプリさせて、キングエルフは白い歯を見せて第一王女に微笑んだ。


 この男エルフ――スケベ過ぎる。

 そんな感じのセリフが似合ういい笑顔であった。


「ほぁあああっ!! 尊い、尊すぎます、キングエルフさん!!」


「キングエルフだからな!!」


「じゃぁじゃぁ、足を観音開きにして、尻をそれとなくふんばりつつ胸をそるというのは――できませんかね!?」


「俺を誰だと思っているんだ。キングエルフだぞ」


 できるさ。

 そんな自信満々の言葉を吐いて、キングエルフは観音開き――つまるところM字開脚して胸を張り、白い歯を見せて第一王女に向かって笑った。


 また、なんとも言えない第一王女の絶叫が、森に、そして風の精霊王の洞窟に木霊する。


「どエルフです!! 流石ですキングエルフさん、さすがです!!」


「ふふっ、君のような可憐な少女に喜んで貰えるのなら、お安い御用という奴――さ!!」


「なぁっ!! 地面にうつぶせになって寝転がりつつ上体をそらし、大胸筋をこれでもかと見せつけながらも、尻を振るなんて!! なんて、なんて高度なセクシーエルフコマンドー!! こんなエルフ見たことがない!!」


「キングエルフだからな」


「さらにそこから仰向けに寝転がり、さりげなく足を4の字にしつつ、背筋と尻のラインをこれでもかと見せつける!! これまたなんてハイレベルな悩殺エルフポーズ!!」


「キングエルフだからさ」


「……しゅごい、キングエルフしゅごいのぉ!! ほあぁあぁ、エルフの森しゅごしゅぎるぅ!! エリィ、もう、幸せ過ぎて頭がどうにかなっちゃうぅ!!」


 事実どうにかなっていた。

 鼻から鮮血を噴き出して、第一王女がその場にうずくまる。

 エルフメイトの彼女には――どうやらキングエルフの悩殺ポーズは効果が抜群だったようだ。


 いや、彼女でなくても、いい歳したおっさんの悩殺ポーズなど、毒以外の何物でもないが。


 とにもかくにも悶絶する第一王女。

 このまま鼻から血を吹き続ければいずれ失血死するだろう。しかし、それでもかまわないとばかりに恍惚の表情をする彼女に、そっと近づいたのは他でもない。


 彼女をそんな状態異常に追い込んだキングエルフだった。


「レディ、いけない、そんなにはしたなく血を出しては」


「……キングエルフさん!!」


「どうかこれを。こんなこともあろうかと用意しておいたスペアの褌だ」


「けど、そんなことをしたら、貴方の白褌が、私の血で汚れて」


「レディの血が汚いことなどあるものか。なにより、俺は、君がキングエルフである俺の魅力に気づいてくれたことの方がうれしい。だから、遠慮なく使ってくれ」


 プリッとまたキングエルフが尻を締める。


 褌一丁。

 いったいそんな格好で、どこにスペアの褌を隠してしたのかは知らない。

 だが、なんにしても――。


 第一王女に渡されたそれは人肌に温かかった。


 その温もりに胸をときめかせて、そっと第一王女が鼻にそれを添える。


「あぁっ、キングエルフさまの、匂い――」


「男臭くないかい、レディ」


「いいえ、そんなこと。ちっとも――むしろエルフかぐわしいくらいです!!」


 いい感じに見つめあう、キングエルフと第一王女。


 王と王女。

 種族こそ違えど、二人の間に特別な感情が芽生えるのは――仕方ないことかもしれなかった。


「仕方なくあるかい!! 何がエルフかぐわしいじゃボケェーっ!!!!」


「お姉さま!?」


「ややっ、君はモーラ!? どうしてこんなところに!?」


「どうしてこんなところに――じゃないわよ!! こっちが心配して様子を見に来てみれば、これはいったいどういうことよ!!」


 ふんどしで鼻の血をぬぐう第一王女。

 そしてそんな彼女に甘い顔をするキングエルフ。


 その光景は当事者からするとロマンチックなものかもしれないが――。


「相変わらず地獄じゃないのよ!! どうしてこうなるの!!」


 やはり、地獄であった。

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