第393話 逃がし屋さんと老騎士
【前回のあらすじ】
風の精霊王から契約者として認められた男戦士。
その証として風のパンツを渡された彼だったが――協力への安堵も束の間洞窟に第一王女の悲鳴が木霊した。
はたして彼女の身にいったい何が起こったのか。
そして、さりげなく近づくケロン――こと『ケロン特戦隊』の影。
いったい彼らは何者なのか。
特選隊とは、ちょっとまた某出版社に迷惑をかけないのか。
そしてなによりゲロッゲロゲロとか……まずいんじゃないのか。
だいじょーぶ。このアカウントはけものフレン〇のドット絵(ry
「関係ない!!」
それはさておき、今週も週末パート。
老騎士率いる第一部隊に潜入した逃がし屋さんのお話です。
◇ ◇ ◇ ◇
「……まとめられている情報を見る限り、バルサ殿はかなり真剣に情報を集めているようだ。フェイクにしては、なんというか、ここまでやるかという気がするな」
老騎士へと渡すようにと任された書類。
それを誰もいない倉庫の中で逃がし屋はあらためていた。
彼が思っていたよりも随分と詳細に――第一部隊がまとめた裏切者に対する報告書は記述されていた。
身内に内通を気取られないために、スケープゴートとしてやっているにしては、鬼気迫るものがある。というより、実際、必死になって情報を集めているのではないかという、そういう匂いが資料からは感じられた。
それは逃がし屋が、リーナス自由騎士団の諜報員として活動してきた経験からくる確かな実感だ。
フェイクのためだけにこんな風に情報は集めない。
「もっとも俺が騙されているという可能性も考えられるが――まぁ、それは排除しておこう。とりあえず、どうもバルサ殿に直接会って確かめる必要がありそうだな」
広げた書類の束を再びまとめる。
逃がし屋は倉庫から顔を出して辺りの様子を窺う。周りに視線がないこと、人の気配がないことを確認すると、彼はそっと部屋を出た。
隠密行動中とは言っても、彼は今、第一部隊の騎士を装っている。
部屋を出る時こそ物音をたてぬように気は使ったが、すぐにその足運びは堂々としたものに変わった。
すれ違う第一部隊の騎士とも、軽く手をかざして挨拶をする。
流石はリーナス自由騎士団の切り札。
彼は見事に連邦騎士団に溶け込んで、静かにその目的を果たそうとしていた。
目指すは老騎士の執務室――。
「まずはどうしてこのような情報を集めていたのか、それとなく聞き出すところからはじめるとするか」
◇ ◇ ◇ ◇
「バルサどの。いらっしゃいますか」
「うむ。何用か」
「諜報部の方でまとめておりました資料についてお届けに上がりました」
「……入るがよい」
明らかに老騎士の声色が下がったのを逃がし屋は聞き逃さなかった。
どこか好々爺として、人当たりのいい雰囲気が目立つ老騎士だが、そんな声を出すのかと彼は少し驚いた。
あるいは、第一部隊の中では、当たり前なのかもしれない。
部屋へと入る前に表情を整える。それから彼は、失礼しますと断ってから執務室の扉を押して老騎士の前へと歩み出た。
老騎士は執務室の扉正面――執務机にかじりついて、なにやら必死に戦略を練っているようだった。
やはりだ。
その姿からは、とてもではないが、連邦騎士団を裏切って、敵側に回ったという感じがしない。彼からは後ろめたさも感じなければ、今手にしている仕事に対する気のゆるみも感じられない。
本気で、この大陸の危難に向かおうとしている、そういう男の姿だ。
逃がし屋は考えた。
では、女騎士の証言はいったいなんだったのかと。
そして、この目の前の老騎士の今の姿はなんなのだろうかと。
その二つが同時に存在することは――どうにも考えられない。どちらかが嘘をついている、あるいは騙されている。
そしてもし騙されていると考えるならば。
それは女騎士の方であるように逃がし屋には思えた。
なんといっても、彼女は騎士団の団長を務めるにはいささか頼りない。
騙されるならば、彼女の方だろう――。
「すまんな。暗黒大陸迎撃の作戦立案に忙しくそちらの話に時間をさけなかった」
「……軍内の裏切者がはっきりしないことには、作戦を立てたとしても無意味では?」
「ほう、手厳しいことを言うな」
少しうかつな発言だったか。
カマをかけるつもりで逃がし屋は、老騎士に少しばかりひっかかりを覚えそうな言葉を選んで投げた。だが、それに対して、彼は予想外に食いついてきた。
顔を上げ、こちらを見る老騎士の瞳は鋭い。
はて、あの会議の場でこの男は、こんな顔をしていただろうか。
どうやら裏切っている裏切っていないは別として、一筋縄にはいかない化け物だということは間違いなさそうだ。
「まぁ、確かに、裏切者がはっきりとせんうちは、いくら作戦を立てても無意味か。騎士団の誰が裏切るともわからぬのに、計を立ててものう」
「いや、出過ぎたことを言いました」
「事実だ。まったく、嘆かわしい話だ。この大陸を守護する連邦騎士団ともあろうものが、その身の内に虫を飼っているのだからな」
それより、報告書類を。
老騎士がそう言ったのを受けて、逃がし屋は彼へと近づいた。
目の前の底の知れない騎士。
その存在感に背筋に冷たいものが走るのを逃がし屋は感じた。
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