第二章 ラブコメしないと出られない部屋(Twitterでよく見る奴)

第378話 どエルフさんとパン

【前回のあらすじ】


 トラップ発動【ラブコメしないと出られない部屋】!!


 意味の分からない試練を風の精霊王からふっかけられた男戦士と女エルフ。

 やったるわいと試練を受けた二人だが――はたしてうまくいくのやら。


 そんな主人公たちはさておいて。

 リーナス自由騎士団の逃がし屋と団長は、連邦騎士団内に居るだろう裏切り者イスカリオテについて調査を開始する。


 一方がどうしようもない馬鹿ネタに走る中、もう片方はシリアスまっしぐら。

 この温度差がいったいどんな効果を生み出すのか。第五部も早々からこんな実験的なことをしていていいのか、コンテストに参加しているのに大丈夫なのか。


 うるせえ、コンテストなんかいいんだよ。

 私には読者の方がついて来てくれることの方が大切なんだ……。


「投稿ミスったからってなんかいいこと言ってるわよこいつ」


「何週間前のことを言ってるんだ。流石だなど作者さん、さすがだ」


 ぐぬぬ。

 六月中旬の投稿失敗を引きずったまま、今週もどエルフさん始まります。


 割とマジで、コンテストがどうこうより、今いる読者のみなさんが楽しんでくれることの方が私にとっては大事だと思ってます。

 いつも読んでくれてありがとうございます。

 こんなですけど、今後ともどうぞよろしくお願いします。m(__)m


「卑屈だなど作者さん、卑屈だ」


「卑屈よねぇ……」


 あ、そうそう。

 予告通り、場面は再び戻って――今週はモーラさんたちのラブコメからスタートです。頑張ってねモーラさん。


「……え? 私?」


◇ ◇ ◇ ◇


「――いっけなーい!! 遅刻遅刻!!」


 私、モーラ。

 どこにでもいる三百歳の女エルフ。

 だけどこのことはみんなには内緒なの。だって、モーラは今、現代こっちの世界の学校に通う女子高生エルフなんだから。


「三百歳でも、エルフは見た目永遠の十八歳だもん」


 中身は十六歳だけれどね。

 肉体年齢300精神年齢16と、社会的な年齢18が色々とくい違っているけど、その辺りは気にしちゃダメ。細かいことを言ってたらラブコメなんてできないんだから。


 今は華の女子高生を満喫するの。

 青春ってすばらしい。


 なーんて、言ってるそばからピンチピンチ大ピンチだわ。


「もうお養母かあさんたら!! 起こしてって言ったのに、忘れて暗黒大陸の巫女になっちゃうなんて……本当に抜けてるんだから!! まぁ、私もお養母かあさんに任せっきりで、目覚ましかけ忘れてたのが悪いんだけれど!!」


 授業開始まであと十分。

 私は今、学校に向かって猛ダッシュ中。別に遅刻したってなんの問題もないのだけれど――とにかく、バターを塗りたくったパンを咥えながら全力疾走していた。


 そんな時、ふと、十字路の陰から人影が現れて――。


 ドシーン☆


「あいたたた……」


 私はパンをすっ飛ばしてその場に尻もちをついた。


 いけない、ぶつかっちゃった。

 もう、いったい誰よ、人が急いでいるっていうのに。

 そう思って目を開けるとそこには。


「……大丈夫かい?」


 ドキッ!!


 黒い学ランを着た男子学生――。

 じゃなくて黒いスーツを着たナイスなサラリーマン。


 こんな朝早くからどうしてこんな住宅街を歩いているんだろう。

 それより、スーツにまったくに合ってない武骨な顔、やぼったい髪型、筋肉質な体が逆に素敵。


 なにこれ、もしかしてこれが運命の出会いって奴なの――?


 思わず体がぽぉっと温かくなる。

 薄い胸――だって十八歳だもん☆――がとくとくと早鐘を打つ。

 その朝の住宅街に不釣り合いなサラリーマンは、私の手を優しく握りしめると、力強いその腕で体を引き起こした。


 勢い余って、逞しい彼の胸に飛び込んじゃう。


「おっと」


「わっ、ご、ごめんなさい」


「大丈夫だ。それより、その制服。そこの高校の生徒かい?」


「いけない!! 遅刻寸前だったんだ!! ごめんなさい素敵なおじさま!!」


 できればもっとこうしていたいけれど、そうも言ってられないわ。

 このままじゃ学校に遅刻しちゃう。


 私は助け起こしてくれた彼に深々とお辞儀すると、落ちていたバタートーストと鞄を手に取って再び学校に向かって走り始めた。


「気をつけるんだぞ」


「はぁい!! ありがとう、また、会ったらお礼させてください!!」


「……また会ったらか」


 なんだか意味深に呟く彼。

 どうにもその言葉に引っかかったけれど、私は気にせず学校に向かって駆けた。


 また会えたら、か。

 もし会えたら素敵だけれど――。


「そんなことないない。どうしたらサラリーマンと女子高生が出会うのよ?」


 そんな風に頭を振って、私はその思いを振り払った。


 だってあり得ないじゃない。

 学生と社会人だよ。

 そんな二人が出会う可能性なんて、そうそうあることじゃない。


 私は十八歳、相手はどう見ても三十歳。

 どうやったらそんな二人が再会するんだって――。


 けど。


「えっ?」


「産休に入ったコーネリア先生に代わって、赴任してきたティトだ。今日から君たちの担任になる。コーネリア先生が戻られるまでの代打だが、君たちが楽しい青春を送れるように全力でサポートしたいと思う。どうかよろしく」


「……あの時の、男の人?」


 突然、朝のホームルームで、産休に入った担任の代りを名乗った男の人は、私が今朝ぶつかったあの男の人だった。


「あれ? 君は今朝の……」


 また私の顔が熱くなり、胸が早鐘を叩き出す。

 そう、この時から私たちの運命の恋がはじまったの――。


◇ ◇ ◇ ◇


「……20点」


 風の精霊王はブレザー服姿の女エルフに向かって苦い顔をして言い放った。

 途端、女エルフが顔から湯気を上げる。


 恥ずかしさか、それとも、純粋な怒りか。

 せっかくラブコメやれというからやったのに、この塩評価。

 憤懣やるかたなしである。


 なんにしても、顔を真っ赤にして女エルフは拳を振り上げた。


「なんでじゃぁい!! 王道少女漫画の導入みたいだっただろが!!」


「レディコミの間違いじゃないかのう。いや、ぶつかったのが生徒じゃなくて先生っていうのは変化球が効いてていいと思うけど」


「なんというか手垢が付きすぎてて、もう誰も手を出さないジャンルだよな」


 そう言ってスーツのネクタイを緩めて息を吐く男戦士。

 そんな彼の方を向いて、女エルフは不満そうに頬を膨らませた。


「いいじゃないレディコミでも!! 手垢がついてるジャンルでも!! 私はこういうのが好きなの!! 歳の差恋愛が好きなの!! 先生と生徒とか、お姫様と執事とか、そういう身分違いのが好きなの!! 悪い!!」


「いや、悪くはないんだけれど……」


「やはりもうちょっとキャッチーなのにしていただかないと。という訳で」


 やり直し。

 そう風の精霊王は女エルフのラブコメを切って捨てた。


 この風の精霊王。伊達に、ラブコメ好きを吹聴するだけはあって煩いみたいだ。


「やれやれ、モーラさんがこの調子では仕方がないな」


「ティト」


「女がラブコメに求めるモノと、男がラブコメに求めるものは違うということだ」


 どれ、その違いを教えてやろう。

 そう言って男戦士はスーツの襟元をさらに緩めるのだった。


 どうでもいいがその格好に、じゅるりと女エルフが舌なめずりをする。


「……まぁ、私としてはアンタのスーツ姿が見れて満足なんだけれどね。うへへ」


 この女エルフ。

 なんだかんだで痴女である。


 幸か不幸かその呟きは男戦士の耳には届かなかったが。

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