第349話 ど大剣使いさんと一方その頃
一方その頃。
男戦士からリーナス自由騎士団への使いっ走りを頼まれ、見事にそれを果たした大剣使いはといえば――。
連邦中央大陸から南西の砂漠を越えて少し。
西の王国はその首都にある商店街の隅にて、腕を組んで佇んでいた。
その視線の先に居るのは、彼と同じく男戦士からリーナス自由騎士団への使節を頼まれた者――金髪少女だ。
「にょほほほ!! 我こそは大法力のヤミ!! 鉄や鋼を自在に曲げる摩訶不思議大法力の使い手にして、彼の南洋の孤島がショーク国にあるバビブの塔を攻略せし者!! 青い巨頭を瓦解させた我が秘奥、とくと見たければさぁ寄るが良い!!」
なんだなんだと道行く市民が足を止める。
どうしたどうしたと足を止めた市民に合わせて更に市民が足を止める。
あっという間に人を集めたヤミは、得意げに顔を歪めるといつもの調子でスプーンを取り出した。
例によって例によるスプーン曲げである。
はぁ、ふぅ、ぬぅん、と、気合の籠った声がする。
しばらくして、その先端が少しだけ曲がると、おぉと仕込みもなしに辺りから感嘆の声が漏れた。
さぁさぁ、驚いたならお代はこの箱にと、ヤミが箱を取り出す。
銀貨がじゃらりじゃらりと景気よく飛び交うと、にょほほほと、金髪少女の得意げな笑い声が昇った。
こと、金もうけとペテンに関しては比類なき才能を持っている金髪少女。
今日も今日とてその舌技は絶好調である。
これをもうちょっと違う形で使えればなと、大剣使いが溜息を漏らした。
そんな時だ。
「おうこらお嬢ちゃん。誰に断ってここで見世物してんだオラァ」
「ここいらは俺たちの島だぜ。ちょっと面貸せやゴルァ」
明らかにゴロツキと一目で見て分かる男たちが金髪少女に迫ってきた。
歳相応に、ひっと、引きつった声を上げるかと思ったが――そこは彼女も場数を踏んできたペテン師の端くれ。
そう簡単に馬脚を現す対応はしない。
にょほほほと笑い飛ばして、彼女はゴロツキを逆に睨み返した。
「お主たちよいのかえ。
「……んだと?」
「どういうことだテメー!! ぶっこいてんじゃねーぞオラァ!!」
「お主たちの身体に、
絡まれたのを逆手にとって見世物へと変えてしまう。
この機転の速さ。
そして、物怖じのなさ。
まったく末恐ろしい少女である。
果たして将来は大犯罪者か、それとも一転して政治家か。
なんにしても、平凡な人生は送ることはないだろう。そんなことを考えながら、大剣使いは静かに組んでいた腕を解くと、彼女の方へと歩み始めた。
「おう、面白ぇじゃねえか」
「曲げれるもんなら曲げてみろやブゥワァカァ――って、あれ?」
血の気の早そうなゴロツキの方が腕を振り上げた。
しかし、それが金髪少女へと振り下ろされる前に、そして、金髪少女の大法力が炸裂する前に――。
「……その辺りにしておけ」
「……ほ、ほんぎゃぁああああっ!!!!」
大剣使いの手が、彼の腕を関節とは逆方向に圧し折っていた。
「なっ、なにをしやがる!!」
「こっちの台詞だ。この辺りがお前たちの縄張りだと。笑わせるなよ。西の王国の商業ギルドと騎士団はお前らみたいなチンケな商売をする奴らを見過ごさない」
「……ッ!! てめぇ、こいつの用心棒かよ!!」
「これ以上やると言うのなら、商売できない状態で騎士団へと突き出すことになるが、それでも構わないか?」
金髪少女だけだと思いちょっと強請れば金を出すだろうと踏んだゴロツキたち。
しかし、大剣使いの登場により、その思惑はさっそくくじかれてしまった。
痛ぇ、痛ぇよ兄貴と、腕を折られたゴロツキが嘆く。
ちっと舌打ちした残りのゴロツキだったが――。
「……やるのか? その震える肩で剣が振れるのか?」
明らかにその肩は恐怖で震えていた。
「恥かかせてくれやがって!! 覚えてろよ!!」
「……ほう、では、忘れるくらい殴ろうか」
「ひぃいいっ!! ちくしょう、バッキャロウ、やってられるかァっ!!」
ゴロツキ二人が人ごみの中に姿を消す。
それを強張った表情で睨みつけて、大剣使いはまた腕を組んだのだった。
周りから、おぉ、おぉと、まばらな拍手が湧き起こる。
また銀貨が放り投げられて、にょほほと金髪少女の笑い声が青空に響いた。
「
「……見世物になった覚えはないんだが」
「まぁそう言うでない。
相棒にもなったつもりはないのだがと、大剣使いが不満げに溜息を漏らす。
リーナス騎士団への使い走りを終えた大剣使い。いずれ、訪れるだろう暗黒大陸との決戦。それの初端は西の王国への侵略から始まるだろう。
そう踏んで、すぐさまこちらに向かった訳なのだが――。
これがなかなか始まらない。
そして男戦士たちもなかなかやってこない。
そうこうしているうちに、路銀が怪しくなってきて、こうして金髪少女のペテンの相棒にいつの間にやら加担するに至った。
語るも恥ずかしく、そして、なんとも情けない話である。
また、大剣使いの口からため息が零れ落ちた。
「……ティトよ。早く来てくれ。子守は疲れる」
「ほれ、ハンス!! お主ももそっと愛想よくせんか!! お客さまに悪いではないか!!」
「……だから、見世物になった覚えはない」
こんなことを言っていますが、この男、ショタコンです。
せめて金髪少女がもうちょっとボーイッシュだったらやる気も出るんだがな。
そんな思いを鉄面皮の奥へと隠して、大剣使いはふんすと鼻を鳴らすのだった。
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