第348話 どヨシヲさんと一方その頃

 一方その頃。

 商隊の隊長に先んじて解放軍を離脱し、西へと単騎向かったは、再び戦乱の中にその身を置いていた。

 まるでそれが自分の運命だとばかりに。


 襲い来るのは、死兵と化した王弟軍――いや、反乱軍の残党たち。

 王弟から離脱する機を見失い、戻るべき場所も、依るべき土地もない彼らは、西方への逃避の果てに海岸線にてついにこの男に捕まった。


 雲一つない晴天から稲光が降り注ぎ将兵たちを痺れさせる。

 青い光が目の前を走ったかと思えば、残党たちの半数は気をやっていた。


 全員が全員、何が起こったのか分からないうちに――絶頂していく。


「なんだあの男は!!」


「何故みんな、何もせぬまま前のめりに倒れていくんだ!!」


「いったいこれは――くっ、臭い!! これは、の匂い!!」


 海岸線に吹き付ける潮風に混ざって漂ってきた――それは男の香り。


 絶命ではない。

 絶頂。


 兵たちは違う意味でこと切れてその場に前のめりに倒れていた。

 そう、まるでデリケートになってしまった股間を守るような、そんな感じで。


「【電マ】!!!!」


【魔法 電マ: 電気マッサージを略した魔法。深い意味はない。その微弱な振動により身体の芯を揺さぶられたら、男も女も気持ちよくって失神して倒れてしまうという、ラブとピースに満ちた必殺技である。深い意味はない(二回目)】


 吹き荒れる雷魔法と絶頂の嵐。

 男たちの荒々しい果てる声が潮騒に混じって漂う。

 一瞬にしてその場は地獄と化した。


 これが無血にて白百合女王国を革命へと導いた力。

 そして、雷魔法を極めし大英雄の最も得意とする魔法。


 そう彼の名は――。


「……ふっ!! 俺の名前を言ってみろ!!」


「あれが向こう側の最終兵器――ブルー・パンツ・ヨシヲ!!」


「白百合女王国で指名手配されたパンツ泥棒のブルック!!」


「老女のセクシーランジェリーを身に着けて絶頂する変態!!」


「違ぁう!!!!」


 ブルー・ディスティニー・ヨシヲだと、いつもの調子で訂正するヨシヲ。

 実は全て事実なのだが――そこは触れてはいけない。


 ともかく。

 彼は即座に、自分の名前を間違えた奴らに向かって雷撃を走らせると、いつものように行動不能にした。異世界娼婦もびっくり、五秒で絶頂な必殺技に、最後まで残った王弟の取り巻き立ちも、いよいよこれまでと戦意を喪失し膝を折っていく。


 そこに容赦なくとどめの【電マ】をぶち込んで――まもなくヨシヲは単騎で王弟軍の残党を壊滅させたのだった。


 ここに、南の国の反乱はついに終わりを迎えた。

 栗の花の匂いに満ち満ちた、決して人に言えないような結末で。


 当然、そんな英雄譚を語る者など誰も居ない。

 ヨシヲはまたしても、英雄にうっかりとなり損ねてしまったのだった。


「ふっ、これが青い運命ブルー・ディスティニーに導かれし者の力だ!!」


 まぁ、そんなことは彼は知ったこっちゃないのだけれど。


◇ ◇ ◇ ◇


 南の国の先代王。その弟。

 例外なく他の多くの反乱軍の兵たちとと共に、ヨシヲの手により【電マ】を食らわされた彼は、股間をぐっしょりと湿らせて後ろ手を縛られ捕らえられた。


 そこそこ老齢である。絶頂と共に膀胱の方も刺激されてしまったのだろう。

 違うものまで出ちゃったのは仕方がない。


 しかしどうしてか、ぷんと匂い立つズボンを履いた彼を前にして、ヨシヲは腕を組んでいた。


 反乱軍の総大将と、義勇軍の英雄。

 その二人の睨み合い。しかし、既に戦いの趨勢は決している。


 誰も彼らを止める者などいなかった。いや、圧倒的な力と恥辱を味合わせられて、ヨシヲに逆らう者などいなかったと言った方が正しい。


「くっ、ワシも王家に連なる者。これ以上の辱めは望まぬ」


「……ほう」


「首を刎ねよ!! 我が首を持って帰り、貴様の手柄とするがいい――プルプル・デザート・ヨシヲ!!」


「惜しい!! 惜しいけど違う!!」


 こんな所でも小ボケをかまされるヨシヲ。

 お爺ちゃんなんだから、名前を間違えるくらい許してあげなさいよ。


 閑話休題。

 ヨシヲはそんなものには興味はないという感じで、溜息を吐き出した。


「俺がわざわざお前を追いかけてきたのは、そんなちんけな目的のためではない」


「……なに!? そんなな目的だと!?」


「……このボケ老人、わざと聞き間違えてんじゃないだろうな。とにかく、俺には別の目的がある。それを聞かせてもらうために、俺はここまでお前を追って来た」


「ワシの嬌声が聞きたいのね!! エロいことするんじゃろう!! エロ本みたいに!! ババアでは飽き足らず、ジジイにも欲情するとかたいへんなへんたい!!」


「せんわ!! 馬鹿!! 気持ち悪いことを言うな!!」


 お前の必殺技もたいがい気持ち悪いと思うのだけれど。

 自分のことは棚上げして老人に向かって激昂するヨシヲ。そんな彼を前に、いやじゃいやじゃ、ワシはノンケなんじゃと暴れる王弟。


 戦意は失ったが、老人を虐めるのはどうなのよ。

 痛い視線がヨシヲの外套を穿つ。

 咳払いと共に電撃を走らせて周りを黙らせると、彼は眉を吊り上げて王弟に迫ったのだった。


 少し、老人の股間の染みが広がった。


「聞きたいことはただ一つ。お前たちを、反乱へと舵を切らせた存在についてだ」


「そっ、それは……」


「暗黒大陸の魔女ペペロペが絡んでいるのは知っている。根掘り葉掘り聞かせてもらうぞ。どうやら今回の騒乱、ただの内輪もめでは終わりそうではないからな」


「そんな、やっぱり掘るのね!! やめて、ワシ、持病の痔があるのぉっ!!」


「だからそんなことはせんと言っておろうが!!」


 南の国を突如襲った反乱。

 その背後に居る者に、既にヨシヲとビクターは接触していた。


 暗黒大陸の魔の手が、今まさに、中央大陸へと迫ろうとしている。


「真の英雄として、これは捨て置けない。なんとしても、暗黒大陸の侵略を阻止しなくては……俺のこの手、いや、雷魔法で!!」


 そう言って、ヨシヲは拳を握り込むと、唇を真一文字に結ぶのであった。


 こんな風に意気込んでいますが、この男、ただの厨二病です。


「チンの英雄として捨て置けない……。何としてもアース〇ールに挿入しなくては……だって!? やっぱりワシの後ろの穴を狙っておるのね!! ワシが、ワシが七十年守って来た純潔の後ろの穴の処女を!!」


「だから、狙っていないと言ってるだろうが!!」


 まぁ、勘違いする余地などないでしょうが。

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