第五章 集結するのか!? 超戦士(変態)たち!!

第347話 ど隊長さんと一方その頃

【前回のあらすじ】


『俺がブルー・ディスティニー・ヨシヲだ!!』


「……ヨシヲ!!」


『俺はホモじゃねぇっ!! ショタだぁっ!!』


「……ハンス!!」


『ケティたんのおみ足ぺろぺろしたい!! 合法ロリ最高、結婚したいよぅ!!』


「……ビクター!!」


 次々に明らかになる、儀式に必要な益荒男たち。

 しかし――。


「どれも変態ばっかりじゃねーか」


 辛辣な女エルフの言葉の通りだ。

 大陸を救う英雄は、その前に自分を救えと言いたくなるような、致命的な変態ばかりであった。


 流石だなどエルフさん、さすがだ。


「いやこれ私のせいじゃないでしょ!?」


◇ ◇ ◇ ◇


 さて。

 男戦士たちがササキエルの街でオカマ僧侶から大儀式についての説明を受けていたちょうどその頃。


 中央大陸南部――南の国は西郡の都カレス。

 数か月に及ぶ籠城戦により疲弊した都を、いま大きな歓声が包み込んでいた。


 それは都の入り口。

 今や明確に反乱軍と呼称されるようになった、先王の弟たち――王弟軍による猛攻を防いできた門の方から、徐々に都の中心へと広がっていく。


 先頭に立っているのは赤い髪の乙女。

 白いマントと銀色の鎧を身に纏った彼女は、栗毛の馬に跨って勇壮と人々の間を通り抜けていった。


 まさしく戦乙女というその威風。

 しかし、街の者たちが歓喜するのは、そればかりが理由ではない。


「我は西郡太守バーザンが娘セリス!! 今ここに、父の仇を取り、カレスの街に帰還したり!! カレスの民よ!! よく反乱軍に降伏せずに堪え凌いだ!! それでこそ父が治めたカレスの市民!! 誇り高く礼節を知る南の国の民!!」


「「「うぉおぉおぉおぉっ!!!!」」」


 少女の演説と共に、堰を切ったように人々が声を上げる。

 熱狂はまるで竜巻のように街の中を駆け巡り、街全体が一個の生命体であるような奇妙な歓声を上げていた。


 この街を治めていた西郡太守の娘。

 それが街を囲んでいた賊軍を追い払い、大勝し、そして凱旋の行進をしている。

 民が熱狂する理由としては充分だろう。


「セリス様!!」


「セリス様ぁっ!! よくぞ御無事でご帰還なされた!!」


「あんなに立派になられて、しかも自ら軍まで率いて――立派になられた!!」


「バーザンさまもきっと天国で喜ばれておられることだろう」


「ありがてえ、ありがてえ」


 口々に聞こえてくるそんな民たちの声。

 少し前までならばその声にあわてふためくことしかできなかった少女は――いまやすっかりと成長し、涼し気に凛とした雰囲気を崩さぬ戦乙女へと変わっていた。


 もっとも、内心を露わにしないだけのこと。

 心の中ではどうしていいかと慌てふためいてはいるのだが。


 とにかく。

 戦乙女の帰還、そして、賊軍の潰走により、街は盛大に賑わっていた。


 その賑わいを門の上から眺める影が一つ。

 この戦乙女の一行を陰から統率し、また、カレスの街を前にして展開する賊軍に対し、策を仕掛けて窮地に追い込み見事に潰走させた稀代の軍師。


 しかしながら表舞台に出ることを由とせず、戦乙女の市内への帰還を見届けて、軍を抜けた――そんな男である。


 隻眼に髭面のその男は、馬上の戦乙女をどこか優しい目で見降ろす。

 せめて何かお礼をとしつこく言われ、しかたなく受け取った高級酒を口にする。

 焼けるような口当たりのそれをまったく気にせず胃の中へと納めると、彼は熱気に逸るカレスの街に酒精混じりの息を吐き出した。


「……バーザン。あんたの娘は立派に凱旋したぜ。ほれ、見てみろよ」


 商隊の隊長である。

 彼は同門の兄弟子にして、戦乙女の父――そして今は天上の人となったカレスの太守へと言葉を投げかけた。


 晴天に響くその言葉は寂しくもあるがどこか誇らしくもあった。

 くははと、その髭で覆われた顎を揺らせば、ふと、そんな彼の笑い声に気が付いたように、戦乙女が門の方を振り向いた。


 こちらに向かって手を振りはしない。

 視線を向けるだけだ。


 けれども後ろ髪を引く様なその瞳に、商隊の隊長はきっぱりと別れを告げた。彼女から視線を逸らして、首を横へと振れば――同門の兄弟子の娘は、すぐさま馬上の英雄へとその表情を切り替えて行進を再開した。


 戦乙女を見送って、商隊の隊長は瓶を持った手を大きく振った。

 湧き立つ街に向かってか、それとも、天上の人となった兄弟子に手向けてか。琥珀色をした高級酒が、晴天の中、湧き立つカレスの街に向かって降り注ぐ。


「さてと」


 呟いて商隊の隊長は視線を西の空を仰いだ。

 今度は兄弟子を思っての事ではない。生きている人間を思っての事だ。


「ヨシヲの奴が、西に青い運命ブルー・ディスティニーを感じるとか言ってやがったな。まったく、戦が終わるや何も言わずに軍を離脱しやがって。面倒事は全部俺に押し付けやがるんだから。本当に勝手な奴だぜ」


 まるで恋女房でも思いやるような口ぶりだ。

 愚痴りながらもその声色は弾んでいる。


 兄弟子の娘が心配でここまで見送った商隊の隊長。だが、もう問題はないだろうと判断した。となれば、あとは自分の好きなようにするだけだ。


「その癖、後で会おうなんて書置きをしっかりと残して行きやがる。まったく世話のかかる大英雄さまだぜ」


 その隻眼には青い男の背中が映っていた。

 彼がどうするか、それは、もう語るまでもないだろう。


「置いてきぼりにした商隊にも合流しなくちゃならねえしな。いっちょ、俺も西の方へと向かってみるとしようか」


 西へ。

 そう決意して、商隊の隊長は手に残った空の酒瓶を床に叩きつけて割った。


 こんな格好いいことやっていますが、この男、ロリコンです。

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