第334話 どエルフさんと天下の奇祭

【前回のあらすじ】


 ササキエルの街へとたどり着いたどエルフさんご一行。

 さて、そんな彼らを待ち構えていたのは、市民たちの暑苦しい歓待だった。


 特にエルフに対して。


「ササキエルフの街にエルフ来る時、この地に祝福がもたらされるだろう!! なんとしてもあのエルフを捕まえるのじゃ!!」


「合点承知よババ様!!」


 世の中にはいろんなエルフ好きが居るんだなァ。

 という感じで、はたして女エルフはどうなってしまうのか。なんかここ最近、シリアスパートが続いてばかりでしたが、この様子なら今週はギャグ倒しになるのか。


 という感じで、今週もどエルフさんはじまります。


「た、助けてぇー!!」


◇ ◇ ◇ ◇


「わっしょい!! わっしょい!! エルフだわっしょい!!」


「エルフ!! エルフ!! エルフ祭り!! エルフ祭りだわっしょいしょい!!」


「はぁーあぁー、エルフが来たよぉー!! 街にぃー、エルフがよぉー!!」


 紅白の垂れ幕に、建物から建物に渡された万国旗が飾られたロープ。そしてどこからともなく聞こえてくる、どどんがどんという太鼓の音。

 エルフ祭りの賑わいに、男戦士たちは目を瞬かせた。


 ついさっきまではなんでもない普通の街だった。

 それが、女エルフの姿を見つけるや――この様に一瞬にして様変わりである。唐突に始まった祭りに驚かない訳がなかった。

 それでなくても。


「なんなのだ、エルフ祭とは」


「天下の奇祭と言われていますね」


「だぞ、聞いたことがあるんだぞ」


 知っているのかケティさんと男戦士が顔を向ければ、ワンコ教授はいつもの物知り顔――本宮ひ〇し風――で腕を組んでいた。

 ごくりと生唾を飲み込む、男戦士と青年騎士たち――本宮〇ろし風――。


【キーワード エルフ祭: ササキエルの街に伝わる祭。かつて住んでいた偉大なるエルフ佐々木エルフを偲んで執り行われる祭事であり、村にエルフがやって来ると急いで行われる。この日ばかりはお店もお休み、学校もお休みである。この街では全てにおいて、エルフ祭が優先されるのだ。このため、ササキエルの街に住む市民たちは、常に、いつ、どのような状況でエルフがやってきてもこの祭が行えるように訓練されており、常在戦場の心意気で毎日を生きている。なお、カクヨームという中央大陸とは違う遠方の地でも同様の祭が催されたことがあるそうだが、一回だけしか行われていない】


「なるほど、天下の奇祭か。それならば仕方ない」


「伝統では仕方ないでござるな」


「そうですねぇ、伝統ですから」


「だぞ。こういう文化風習というのは大切にしていくべきなんだぞ」


「モーラさん、大丈夫ですかぁ!!」


 のほほんというかいつもの調子と言うか、達観した様子で祭の賑わいを眺める男戦士たち。そんな彼らを他所に、青年騎士だけが祭の渦中の女エルフに声をかけた。


 そう彼らから引き離されて祭の主役である女エルフは――御輿に担がれて街の中央広場を連れまわされていた。


「た、助けてぇーっ!! 揺れ、揺れが、揺れが酷いのよぉっ!!」


 わっしょいわっしょいと、御輿の上で揺れる女エルフ。

 ちゃんとした背もたれのある椅子にはなっているが、人が下から支える御輿である、当然揺れるのはしかたない。

 そして、そういう揺れには慣れていないのだろう。


 女エルフは蒼い顔をしていた。


 褌に鉢巻き、屈強な男たちが、声を張り上げて御輿を揺らす。

 なかなか絵になる光景だ。


 ――エルフが顔面蒼白でさえなければだが。


「ところで、なんでこの村の人間はそこまで佐々木エルフを信奉しているんだ?」


「佐々木エルフは街の恩人なんですよ。なんでも、干ばつが多く穀物がまったく取れなかったこの街に、山間にある湖から水道を引いて食料が安定して作れるようにしたり、中央大陸に近いおかげでたびたび戦争に巻き込まれるので、防御に適したよう街割りを工夫したり、いろいろな逸話を残しているんです」


「だぞ。街の礎を築いたエルフと言っていいんだぞ」


「兵を率いても強かったそうで、たびたび中央大陸連邦との小競り合いにも勝利しています。最後には、めんどくさいとか言ってこの街を去ったそうですが――その頃には北の小国群と連邦は友好関係を築いていて、今日に至るという訳です」


「ふぅむ、なるほどなぁ。街と人に歴史ありという訳だ」


「勉強になるでござるなぁ」


「モーラさーん!! 大丈夫ですかー!! あぁ、なんか色々着けられて!!」


「のほほんとしてる場合かぁっ!! 助けろお前らぁーっ!!」


 あんたが大将と書かれたたすきや、水牛の角が両側につけられた兜、赤いマントやパープルのタンクトップなど、なんだかごてごてしたもので着飾られる女エルフ。

 嬉々として、市民たちが施していくその飾りつけを、人のいい彼女は拒むことができない。そして市民たちも拒まないのをいいことにエスカレートして、どんどんと彼女を着飾っていく。


 女エルフ、フルアーマー状態である。

 ちょっとした世紀末な風格が、その姿からは感じられた。


 まぁ、それはさておき。


「しかし随分と派手に着飾るものだなぁ」


「佐々木エルフは派手好きで有名だったそうで。そんな彼の姿を重ねているのでしょう。この街の市民は各家に、先祖代々伝わるエルフ衣装を持っているそうです」


「だぞ、バサラエルフと有名だったんだぞ、佐々木エルフは」


「なるほどバサラエルフか」


「粋なものでござるなぁ」


「モーラさぁーん!! 顔が、顔が青いですよぉー!! 大丈夫ですかぁー!!」


「大丈夫じゃないって言ってるでしょぉーっ!! 助け、助けろ、ボケェーっ!!」


 重い衣装に激しい揺れ、そこに加えて下から湧き上がる男たちの熱気。

 女エルフが体調的な限界を感じるのは――もはや仕方なかった。


 ついに末成り瓢箪のように青い顔をした女エルフが口を押える。


 ――エレエレエレ。


「あ、吐いたでござる」


「祭だというのに、無粋ですねモーラさんてば」


「だぞ、風流を解さない奴なんだぞ。まったく、これだからモーラは」


「しかし市民たちはそんなものどこ吹く風という感じだぞ。むしろ喜んでいるような感じがする。市民にとってある意味ご褒美なのだとしたら――それを察してあんな無様な格好を晒せるモーラさんは逆に凄い。さすがだなどエルフさん、流石だ」


「モーラさん!! 気を、気をしっかり持ってくださーい!!」


「いいから!! はやく!! 助け――おろろろろろろろろ!!!!」


 祭の熱気と、エルフのそれで、もうぐっちょんぐっちょんよ。

 そんな中、ようやく女エルフの訴えを聞き入れて、男戦士たちがやれやれという感じに彼女を助けに動き出したのだった。


 天下の奇祭というのも考え物である。


「ほんとよもう!! 勘弁し――おろろろろろろろ!!!!」

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