第323話 ど男戦士さんと交渉
【前回のあらすじ】
凶戦士カーネギッシュは、その凶悪な二つ名に反してオサレ野郎だった。
このマッシュルーム野郎が!!
「……なんだこのあらすじ」
◇ ◇ ◇ ◇
「さて、騎士団の団長も全員揃ったことだし、そろそろ本題に入りたいのだが」
そう口火を切ったのは、第三部隊を預かっている団長だ。
後から現れた曲者ぞろいの団長たち。そんな彼らにどこか頭を痛めているような感じで、疲れた顔をみせる彼。
対外的な顔はバルサだが、実際に騎士団を取りまとめているのは、どうやらこの男なのだろう。知名度と実務能力はまた別だ。また実務でも、部隊の取りまとめと、騎士団全体のとりまとめでは、必要とされる才覚は違ってくる。
この男のように、落ち着いて物事を俯瞰できたり、曲者ぞろいの周りの意見を調整できるような我慢強さがないと、団を率いるのは難しいのかもしれない。
ともあれ彼の掛け声で、男戦士たちは円卓の前へと着席した。
単刀直入に第三部隊の団長が話を切り出す。
「ここに来ていただいたということは、新しい騎士団の部隊の団長を引き受けてくれるということだろうか?」
「そのことについてだが、就任について一つ条件をださせていただきたい」
騒然とする円卓に着座した団長たち。
老騎士は顔をしかめ、凶戦士はおたおたとどうしていいか分からないという感じに狼狽えた。女騎士はといえば、何故か「くっ、殺せ」のポーズをとっている。
やはり、まとめ役ということもあってか、その場に居る者の中で落ち着いているのは第三部隊の団長だ。それと、あらかじめ話を聞いていた青年騎士。そして――男戦士が密かに認めている、従士の三人だけだった。
ふむと、第三部隊の団長が円卓の上で手を組んで顎を落とす。
「教会についてですか?」
あらかじめこの会議の前に、青年騎士から話を通していたのか。
それとも、自らその答えにたどり着いたのか。
なんにしても、第三部隊の団長は、男戦士の懸念にすぐに気がついたようだった。
話が早くて助かると、男戦士は彼の視線に頷いて応える。
「教会が出した指示に対して、私は疑念を抱いている。新しい騎士団を造れとは、幾らなんでも漠然としているとは思わないか」
「それは我々も思ったことです」
「その意図について確認しないまま、騎士団の団長に就任することはできない」
「つまり?」
「教会本部に今回の指示の真意を確認しに行く。その回答のいかんによっては、申し訳ないが団長の話はなかったことにさせていただきたい」
ざわつく騎士団長たち。
まず真っ先に口火を切ったのは――連邦騎士団の顔役である老騎士だ。
「なるほど、確かにティト殿の言う事はもっともだ」
ロートルにありがちな、保守的な意見を言うかと思いきや、彼は男戦士の話に理解を示した。第三部隊の隊長に会議の仕切りを任せる辺りから鑑みても、意外と物分かりのよいタイプなのかもしれない。
この場で一番実績のある人物が賛同を申し出たのだ。
騎士団長たちの騒ぎは自然治まった。第三部隊の隊長も、手の上から顎を離すと、その意見に賛成だとばかりに頷く。
「先ほども申した通り、今回の一件ついては私たちも寝耳に水。教会の意図についても分からず、驚いているというのが実情です」
「うむ」
「ティトどのが教会の意図について確認したいというのはよく分かるお話です。また、騎士団としても確認していただけるのならありがたい」
是非そうしてくれとばかりの反応が返って来た。
もう少し反対されるかと思ったのだが、拍子抜けという感じに男戦士は頭を掻く。
いや、むしろ――。
「やはり、騎士団としても何も詳しいことは聞かされていないのか?」
「……はい、残念ながら」
「教会が勝手なのは今に始まったことではないがのう。だが、このように漠然とした指示を出してきたのは初めてのことじゃ。こちらとしてもいささか混乱しておる」
「それを聞いてきてくれるというのなら願ってもないこと。ティトどの、是非にもお願いしたい」
「ただ、我々からの使節に対して、教会側は頑なに沈黙を貫いている。貴殿が赴いたからと言ってそれが聞き出せるかどうかは分からんぞ、ティト」
釘を刺したのは女騎士だ。
第七部隊。おそらく、騎士団の中でもそれほど重要でもないだろう部隊を預かっている彼女。武闘大会にふらりと参加していたあたり、その辺り、騎士団の対外交渉などをメインで行っているのかもしれない。
その通りですと、彼女の従士もその言葉に頷く。
女騎士の台詞は話半分に聞いていた男戦士だったが、個人的に信頼している従士がそのようなことを言い出したので、少しばかり顔色が曇った。
「だとよ。どうする、ティト」
「……納得できないまま、依頼は受けられない。どうするもこうするもない」
魔剣のささやきに断固とした口調で応えた男戦士。
騎士団の団長たちから言質は取った。ならばもう何も問題はないとばかりに、彼は円卓から立ち上がった。
まったく融通が利かねえなと、魔剣がまた囁く。
「ではさっそくだが、教会本部のある大陸北部の方へと向かわせてもらう」
「アテはあるのか?」
「……まぁ、なんとかなるだろう」
熟練の冒険者らしい気軽さと頼もしさがないまぜになった台詞。
ティトのそんな言葉に、その場に居た騎士団の者たちは、おぉと、唸った。
心配するのは――。
「教会本部ねぇ。蛇が出るか鬼が出るか」
彼の腰の魔剣ばかり。
そしてそれはまたしても、何やら、訳知りという感じの口ぶりであった。
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