第273話 魔性少年と最後の巨人

【前回のあらすじ】


 ついにバビブの塔の最上階に到達した男戦士たち。

 しかし彼らを待ち構えていたのは、コウメイの罠ではなく、バビブの塔を造った張本人――コウメイ自身だった。


 そう、コウメイは人間ではなくエルフ。

 しかもその中でもとりわけて寿命の長い、ハイエルフだったのだ。


 そんなコウメイが仕掛けた魔法。

 大秘術により、魔性少年がその場に崩れ落ちた。


「ここに我が大願は成就せり!! さぁ、今こそ立ち上がるのだ、最後の巨人――青の鉄人ブルー・ジャイアントよ!!」


 天井を破り、太陽を背にして現れたのは、青色をしたくろがねの巨人。

 28の黄色い文字が胸に輝くものだった。


◇ ◇ ◇ ◇


「これは!?」


「いったいどういうこと!!」


「だぞ!! 鉄の巨人は、操者の血族ファクターでなければ操れないはずなんだぞ!!」


 突然、自立して動き出した鉄の巨人。

 その光景に、魔性少年を抱き留めながらも驚愕する女エルフたち。


 そんな彼女たちに扇子で口元を隠して、瞳だけで微笑みを向けたコウメイ。


「これなるは、我が千年の秘術――【電脳の計】なり!!」


「……【電脳の計】!?」


「知っているんですかケティさん!?」


 いつもの調子でワンコ教授がコウメイの言葉に噛みついた。

 しかし、その顔は、いつもの濃ゆい感じではない。


「……だぞ。残念ながら、知らないんだぞ」


 それはそうだろう。

 千年の時をかけて、わざわざ編み出した魔法なのだ。

 意味深な感じで呟いたはいいけれど、知っているはずがない。


 ともかく。本来であれば魔性少年でなければ操れない、彼がどうにかしなければ動かないはずの、くろがねの巨人が空を飛んでいる。

 そして、それを操れるはずだった少年がその場に倒れている。


 その秘術についてコウメイ問いたださない訳にはいかなかった。


「いったい、コウイチに何をしたの!?」


「なるほど彼はコウイチというのか。ふはは、のこのこと無防備に私の前に現れてくれて、本当に助かったよ」


くろがねの巨人は彼にしか操れないはずよ?」


「そうだ!! くろがねの巨人には、操者の血族ファクターの力が必要不可欠!! しかし、その原理については不明であった!! それを、この私は千年の研究の末に、ついに解明してみせたのだ!!」


「……なんだと!?」


 寡黙な大剣使いが思わず声を上げた。

 雇い主である魔性少年のこの状況に一番気を揉んでいたのは彼だろう。

 声を荒げたのは仕方のないことであった。


 そんな彼をあざ笑うように、コウメイは続ける。


「つまるところ、くろがねの巨人を動かしていたのは、彼らが持っている異能――超能力と呼ぶものがその正体である!! 彼らの脳構造は我々とは異なっており、思念により物体を動かす力を発揮する!! その力によって、彼らは鉄の巨人の最深部にある、コントロール核を操作し、自在に操っていたのだ!!」


「……つまり?」


「話についていけぬか。流石は私と違い普通のエルフと言っておこう。ここまで、わざわざ話してやったのだ、自分で考えて結論を出してもよいのではないか?」


 そう、コウメイが皮肉めいて笑った時だ。

 だぞと、ワンコ教授が叫んだ。


 流石は賢者セージ技能8である。

 彼の灰色の脳みそが、見事にその答えを閃いてみせた。


「つまり!! 操者の血族と同じ、脳構造を作り上げることができれば、くろがねの巨人を操ることができる――ということなんだぞ!!」


「ご明察!! なるほど、そちらにもそこそこ知恵の回る御仁が居るようだ!!」


「……なんですって!?」


「彼女の言うとおりである!! 私は、操者の血族ファクターの脳を複製する秘術を編み出した、それこそが、この【電脳の計】である!! 今、青の鉄人ブルー・ジャイアントの操縦部には、魔術によりそのコウイチの脳構造を模倣した疑似脳を持つ、お手製の自律人形オートマタが乗り込んでいる!! これにより、鉄人は我が制御下に置かれたという訳だ!!」


「なんて、ことを……」


「大海を漂っていたバビブの脳は深く傷つき、くろがねの巨人を操る力を失っていた。故に、私はここに塔を建て、噂を流布し――こうして操者の血族ファクターが現れる日を待っていたのだ!!」


 もっとも、と、その饒舌だった口を閉じて口角を吊り上げるコウメイ。


「その複製の過程で、複製元の脳構造は非可逆的に破壊されるがね」


 と、したり顔で彼は言い放った。

 その言葉に、女エルフとワンコ教授の顔が青くなる。


 どういう意味なんだ、と、彼女に問い返す男戦士たち。


 いつもなら、こんな時でもふざけた言葉をかけてくる男戦士たちだ。

 だが、この時ばかりは魔性少年の危機に、そんな素振りを少しも見せなかった。


 そんな彼らに、女エルフもまた暗い声で返答する。

 その顔は青い巨人ブルー・ジャイアントの、青い鋼に負けじと劣らず、青ざめていた。


「つまり……コウイチは殺されたってことよ」


「……なん、だって!?」

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