第254話 どエルフさんとキャンプ

【前回のあらすじ】


 奇跡の逆転ファイター、女エルフ。

 彼女は、ひっそりと着用していた、イベント限定グラ水着でジョブチェンジ。

 魔法少女からルーラーに変身し、リリィさんにオラオラを決めたのだった。


「流石だなモーラさん、さすがだ」


◇ ◇ ◇ ◇


 カンカンカンと試合終了を告げる鐘が鳴る。


 魔法少女勝負。

 軍配はどうやらリングに立っている女エルフに上がったようだった。


 そんな音色と同時に、フロアからリングが突然消えた。


 また、ほわりほわりと白い煙が湧いたかと思うと女エルフの身体にまとわりつく。

 それがはければ――彼女の姿はいつものローブに戻っていた。


 それだけではない。


「……あれ。なんか、微妙に身体が軽いような」


「魔法少女勝負が終わったからね。蓄積されたダメージが回復されたのよ」


 そう言ったのは、ボコボコにして壁へと吹き飛ばしたはずの魔法少女。


 彼女の姿もまた直ちに元の状態に修復されていた。

 

 あきらかに再起不能。

 二度と立ち上がれないようにぶちのめしたはずの彼女。


 何か魔法でも使ったのだろうか――。


 何にしても、それならそれで構わない。

 もう一度ぶちのめすまでだとばかりに、女エルフがぼきりぼきりと手を鳴らす。

 すると、待った待ったと魔法少女は慌てて彼女の前に手を突き出した。


「魔法少女勝負はスポーツ!! 誰も悲しむものがいないがモットーよ!! 試合が終われば自動的に回復するものなの!!」


「……へぇ、そういうものなのケティ?」


「だぞ。という話を聞いたことがあるような気はするんだぞ」


 この中で、一番事情に詳しいワンコ教授が、そうかもしれないと返事をする。

 そうなのそういうものなの、と、力説する魔法少女。


 なんだかそんな彼女の姿がどうにも哀れに瞳に移る。

 女エルフは、はぁ、とため息を吐くとその拳を収めたのだった。


「まっ、相棒も元に戻ったことだし、これくらいにしておいてあげるわ」


「……完敗だぜ。あんたみたいな魔法少女、出会ったのは初めてだァ」


「なんでいきなり、ヤンキー口調になるのよ」


「……姐さんと呼ばしてもらって構わないかな」


「やめて頂戴」


 本気で嫌そうに顔を横に振る女エルフ。


「姐さん!!」


「モーラの姐さん!!」


「だぞ、モーラは姐さんなんだぞ!!」


 そんな彼女の背中に、後ろからの思わぬ援護射撃が浴びせかけられるのだった。


「だから、違うって言ってんでしょうが!!」


◇ ◇ ◇ ◇


「姐さんの魔法少女っぷりに惚れちまったからには仕方ない。ここのフロアは、自由に使ってもらってかまわねえぜ」


 などと、打って変わってヤンキー口調で言う魔法少女。

 しかしながら、その申出そのものは願ってもないことである。


 そろそろ、ここいらで一つキャンプでもして、上の階へと備えたい。

 そう思っていた男戦士たちだった。


「では、お言葉に甘えて」


「だぞ、やっと休めるんだぞ」


「疲れましたねぇ、今日のダンジョン攻略は……」


 さっそく広間にテントを張って、彼らは宿泊の準備をしだしたのであった。


「ちなみに、このフロアにはモンスターはいないのよね?」


「あぁ。そもそも、ここはバビブの塔のコントロールルームみたいな所だからな」


「コントロールルーム?」


「……塔の状態を把握して、場合によってはフロアに手を入れてるの。ここより下、各フロアにモンスターを発生させたりしているのは、実は私なんだなこれが」


「お前がこのダンジョンの元凶か」


 やっぱり倒しておくべきではないのか。

 再び、拳を振り上げた女エルフに、まぁ、待ってくださいと魔法少女は、平身低頭してその場に膝をついて謝るのであった。


「私だって、コウメイさまに命令されてやっていただけなんです!! 造物主である、コウメイさまの命令さえなければ、こんなことやってませんよ!!」


「……まぁ、ホムンクルスだからね。そりゃ、造って貰った人間の言うことを聞くのは仕方ないか」


 そこの所は、彼女も一応魔法使いである。

 疑似魔法生命体――ホムンクルスに代表される、魔法で造られた者たちの業については、それなりに理解があった。


 しゃぁない、許してやるか、と、再び拳を収める女エルフ。

 しかしその代わりに、男戦士達とは別にテントを用意していた魔性少年が、意味深に首を傾げたのだった。


「……ふむ、やはり、そういうことなのか?」


「うん? どうしたんだ、コウイチ? 何か問題でもあったのか?」


 テントの設営を手伝っていた男戦士。

 彼は魔性少年がつぶやいた言葉に気が付いて、そっと声をかけた。


 しかし――。


「いいえ、なんでもありません。ちょっとモーラさんの戦いぶりに、いまさらながら感心していただけです」


 どこか気もそぞろというような、誤魔化すような口ぶり。

 そんな調子で魔性少年は男戦士に返事をしたのだった。


「そうだろう、そうだろう。モーラさんはな、魔法使いでありながら戦士としても高い素養を持っていてな。俺なんかも、よくしばかれるんだが」


「あは、あはは、そうなんですか……」


「そうなんだ!! だいたいモーラさんは、魔法使いでエルフの癖に、か弱さみたいなものが少ない!! というか、女性的な部分が少ないのが最大の問題点で!!」


「はい、ティトくん? 何を言っているのかなぁ? 誰の何が足りていないって?」


 音もなく男戦士の背後に回り込んだ女エルフ。


 先ほどまで、魔法少女と話していたというのに、なぜ、背中に居るのか。


 男戦士の顔が、ひぃ、と、恐怖に――歪まない。

 なぁ、この通りだよとでも言いたげに、真剣な眼差しを魔性少年に向けていた。


「分かっていただけただろうか。これが、俺の相棒、モーラさんだ!!」


「まるで東洋のシノービみたいですね」


「実はひっそり暗殺者技能でも持っているのかもしれない。侮れない。流石だなどエルフさん、さすがだ」


「……誰のせいで、こんなことしてるとおもってんだ!! もうっ、馬鹿ァ!!」

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